太田述正コラム#8176(2016.1.25)
<矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を読む(その4)/私の現在の事情(続x72)>(2016.5.11公開)
 「そもそも現在沖縄にある基地は、すべて米軍によって強制的に奪われた土地につくられたものです。
 戦争中はもちろん、戦後になってからも、・・・住民から無理やり土地を奪って建設したものです。
 しかし、もし今回、辺野古での基地建設を認めてしまったら、それは沖縄の歴史上初めて県民が、米軍基地の存在をみずから容認するということになってしまう。
 それだけは絶対にできないということで、粘り強い抵抗運動が起きているのです。・・・
⇒沖縄での米軍基地反対派が援用する政治的論理としては必ずしも間違ってはいませんが、経済的論理も勘案しないと偏頗な議論になってしまいます。
 沖縄では、基地反対派の力が、長期的、趨勢的には増大してきたわけですが、その背景には基地依存度の低下(注5)があります。
 (注5)沖縄の「「基地経済=軍関係受取」・・・は、軍用地料、基地従業員所得、米軍の消費支出の3つ<から成っ>ています。・・・<この>「軍事関係受取」<が、>復帰時の1972年に<は>・・・県民総所得にしめる割合(基地依存度)は15.6%を占めてい<たところ、>・・・1995年<以降は、>・・・約5%前後<まで低下した状態>で推移して<現在に至って>います。」
http://www.futenma.info/economics.html
 それなのに、なぜ計画を中止することができないのか。
 さきほどの1957年の秘密文書<には次のようなことも書かれています。>
 「新しい基地についての条件を決める権利も、現存する基地を保持しつづける権利も、米軍の判断にゆだねられている。」
 こうした内容の取り決めに日本政府は合意してしまっているのです。
 ですからいくら住民に危険がおよぼうと、貴重な自然が破壊されようと、市民が選挙でNOという民意を示そうと、日本政府から「どうしろ、こうしろと言うことはできない」<のです>。」(73~74)
⇒「1957年の秘密文書」を裏付ける取り決め群など存在しない、すなわち、日本政府がそういった一連の合意を米国政府とやってなどいない、ということは前に記しました。
 存在しないことの証明はできないわけですが、安保条約/地位協定の防衛庁(省)の担当課であった防衛課(当時)で防衛政策を担当し、また、防衛施設庁(当時)で基地問題の対米担当であった私が、そんな内容の、防衛庁所管事項に係る、地位協定(行政協定)に関する重要な取り決め群のことなど見たことも聞いたことがないことはさておき、例えば、鳩山首相が、首相当時に、辺野古移転を本土移転に変更しようとした、という矢部自身が記している事実が、「新しい基地についての条件を決める権利」が「米軍の判断にゆだねられている」ことを否定しているのはご愛敬です。(太田)
 「外国軍が駐留している国は独立国ではない・・・
 だからみんな必死になって外国軍を追い出そうとします。・・・
 フィリピンは憲法改正によって、1992年に米軍を完全撤退させています(2011年)。・・・
 ベトナム戦争<も、>・・・視点を変えて見ると、ベトナム国内から米軍を追い出すための壮大な戦いだったということです。」(79~80)
⇒あの、昔の名前で出ていますの、英労働党党首のコービンでさえ、英国駐留米軍を追い出せとは言っていませんし、ポーランドに至っては、慎重な英国の尻を叩いて自国への英軍駐留を勝ち取った(コラム#8169)ところです。
 矢部は、英国もポーランドも、(そして、もちろん、ドイツもイタリアも韓国等の諸国も、)「独立国ではない」と言っていることになってしまいます。
 矢部は、デマゴーグなのか、健忘症なのか、或いは、単に無知なのか、一体どれなのでしょうね。(太田)
 
(続く)
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             –私の現在の事情(続x72)–
 「十九世紀中葉、産業革命後の英国で、盛期ルネサンスの巨匠ラファエロ登場以前の美術を目指したロセッティ、ミレイ、ハントらにより「ラファエル前派」が結成され<たところ、>彼らとその継承者たちによる、古代神話をはじめ文学と絵画を融合させたロマンチックで物語性のある油彩・水彩などの傑作六十五点を紹介」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/release/CK2015121602000171.html
する、「リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展」 Bunkamura ザ・ミュージアム(東京・渋谷)に、本日夜、行ってきました。
 この美術展は、みずほ銀行が特別協賛していることから、同銀行のプレミアムクラブ会員として、同銀行による内覧会のチケットを申し込み、抽選に当たったことから、行ってきたものです。
 さて、ラファエル前派そのものについての私見の開陳は別の機会に譲りますが、上記記事・・ちなみに、東京新聞は、Bunkamuraと共にこの美術展の主催をしています(上掲)・・中に出てくる「ロマンチック」という英語には、日本語化した語感と違って、性的な含意があることにご注意ください。
 実際、ロセッティらの、性的放縦さは、芸術家にあっては珍しくないとはいえ、相当なものです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%82%BB%E3%83%83%E3%83%86%E3%82%A3 ←ロセッティ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%AC%E3%83%BC ←ミレー(ミレイ)
https://en.wikipedia.org/wiki/William_Holman_Hunt ←ハント(但し、彼の場合は、当時の英国では違法であったところの、亡くなった妻の妹との結婚を、脱法行為的に外国で行った、という程度の「放縦」さでした。)
 今回の美術展でも、(どういうわけか、会場に置いてあったチラシに掲載されていた11作品中には、そのような作品は出てきませんが、)全裸の官能的なヌードを描いた作品も少なくなく、大変目の保養になりました。