太田述正コラム#0392(2004.6.26)
<二人の韓国人をめぐって(その2)>

2 ロバート・金

 ロバート・金は、韓国生まれで1974年に米国の市民権をとった男です。
 ロバートは、米海軍情報局(Office of Naval Intelligence)に勤務していましたが、北朝鮮や中国の海軍艦艇の作戦情報を無償で在米韓国大使館海軍武官に流していた(注1)ことが露見し、1997年に逮捕、起訴されました。

 (注1)ロバートは、自分が「長老(elder)」を務めていたプレスビテリアン(Presbyterian)の教会(日本では長老教会という)で駐在武官に情報を渡していた。ロバートに判決を下した判事は、教会で犯罪が行われたことを強く非難している。

 ロバートは20万ドルもの借金を抱えていた上、定年が間近かったことから、米海軍の衛星を使った指揮通信システムを(不法に)リバース・エンジニアリングして韓国で売ってカネを稼ぐ計画を立て、そのために必要な輸出許可とライセンスも取得した上で、この計画を実行する際、韓国海軍に便宜を図ってもらう等の目的で、上記犯行に及んだと考えられています。
 ところが、逮捕後ロバートはこの犯行は自分の生国であり両親がいる韓国への愛国心から行ったものだと主張し、これを真に受けた韓国のプレスがそのまま韓国で報道した結果、ロバートは韓国の市民と韓国系米国人の間で英雄に祭り上げられてしまいました。
 米国政府は、1994年の北朝鮮との合意枠組み(Agreed Framework)を北朝鮮に履行させるためには米韓両国の緊密さをアッピールする必要があると考えた模様であり、ロバートと司法取引を行った結果、裁判所では懲役9年という軽い刑が言い渡され、しかも7年ちょっとでロバートは出所しました(注2)。

 (注2)ロバートのケースと瓜二つといってもいいのだが、海軍情報局で勤務していた米国人ジョナサン・ポラード(Jonathan Pollard)は、イスラエルへの同情から、在米イスラエル大使館に中東諸国の大量破壊兵器等に関する機密情報を無償で流していたことが1985年に露見し、逮捕、起訴され、(出所(parole)抜きの)終身刑を言い渡されて現在も服役している。イスラエル政府は1995年にポラードにイスラエル市民権を与え、歴代のイスラエル政府は米国政府にポラードの解放を求め続けてきている。(http://www.jonathanpollard.org/facts.htm、及びhttp://www.jonathanpollard.org/2004/060804.htm。6月26日アクセス)
     ここから、米国政府がユダヤ人によって牛耳られているなどということは神話であること、米国政府はこと安全保障に関しては恐ろしいほどの自由裁量権を有すること、更にはいずれにせよ、スパイ行為は(日本と違って)大変な犯罪であること、が分かる。

 現在韓国の与党ウリ党は、ロバートを韓国に「帰還」させる運動を行っています。(ロバートの弟の一人は現在ウリ党の国会議員。)また、韓国のロバートを支援する会は、ロバートに400万ドルの「補償金」を贈呈すべく、募金活動を行っています。

 しかしこのようなロバートと韓国は、韓国系米国人以外の米国の世論の憤激をかっています(http://marmot.blogs.com/korea/2004/01/robert_kim_your.html。6月26日アクセス)。

(以上、特に断っていない限り、http://www.atimes.com/atimes/Korea/FF12Dg04.html(6月12日アクセス)、及びhttp://www.jonathanpollard.org/1997/071297.htmhttp://www.jonathanpollard.org/1996/100696.htm(6月26日アクセス)による。)

3 感想

私は以前、韓国人の「エリート」について、ア 頑固なまでに自国中心のナショナリストであって、イ あまり他国の立場に立って物事を考えないし、いわんや、ウ 世界のことなど基本的に眼中にない、と評したことがあります(コラム#262)。
 今回は、韓国の二人の「庶民」に関わるエピソードをご紹介しました。
この二人の「庶民」は、どちらも自分の国(金氏にあっては韓国、ロバートにあっては米国と韓国)や宗教(二人ともクリスチャン)を自分のエゴを充足する手段としてしか考えていないように見受けられます。しかも、どちらも事実や論理を無視したストーリーを臆面もなく語ることに良心の仮借を覚えないようです。金氏のエピソードの方に登場する他の「庶民」のお歴々も似たような感じですね。しかも金氏やロバートを批判する韓国人が殆どいないところを見ると、どうやらこれはこの二人のエピソードに登場する人々だけの特異な例、ということではなさそうです。
 以上から、「エリート」と「庶民」とを問わず、韓国の人々の多くは自己中心的であって事実や論理を尊重しない、つまりは、厳しい言い方をすれば、倫理感覚に問題がある、ということが言えるのではないでしょうか。
 これは、日本による韓国統治が韓国人の倫理感覚を破壊してしまったのか、或いは(統治期間が38年間と比較的短かったため)十分日本人の倫理感覚を植え付けることができなかったのか、或いは日本からの独立以降に問題があったのか、興味があるところです。
 ここまでくると、今度は現在の日本人の倫理感覚には問題はないのか、戦前までの倫理感覚とどこが違うのか、現在の日本人の倫理感覚が仮にグローバルスタンダードに照らして依然水準を抜いているとすれば、その原因はどこにあるのか、つまり、欧米的な宗教なくして、しかも戦後においては学校における道徳教育も撤廃されて、なお日本人に倫理感覚が備わっているとすればそれはなぜなのか、といったことを考えさせられてしまいます。こちらの方の話は、いずれまた。

(完)