太田述正コラム#0414(2004.7.18)
<在日米軍の再編計画>

1 始めに

5月26日(コラム#301)に、「米地上部隊の軽量化と機動性の向上によって、特定の前方地域に地上部隊を配備しておく必要性は少なくなった」、しかし「日本(沖縄)から地上部隊である海兵隊・・の撤退が計画されているという話は聞こえてきません」、「韓国だけから米地上部隊が大幅に撤退するということは、米国は北東アジアにおける同盟国として、米軍の前方展開及び兵站・中継ハブとして機能を担っているところの「親米」日本を選択し、反米韓国は見限り放棄したということだ」、と申し上げました。
日本が親米であるかどうかはともかく、米国民の親日ぶりは明らかです。
2003年度の対日世論調査によれば、日本を「信頼できる」と答えた米国民は68%(前年度比1ポイント上昇)で、調査を開始した1960年以来、過去最高となり、「米国と価値観を共有している国」はトップが英国で、日本は2位だ(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20040715AT1E1500915072004.html。7月16日アクセス)というのですから。
 しかしその後、断片的に報道されるようになった在日米軍再編計画は、親日だからというだけでは到底説明することはできません。

2 在日米軍の再編計画

 まず、在日米軍再編計画についての報道を整理しておきましょう。(?はホントかね、という部分。)

 ア 米空軍は、グアムの第13空軍司令部を廃止し横田基地の第5空軍司令部に統合、太平洋全域(?)を管轄させる。運用・作戦部門はグアムに集約される見通し(?)だが、司令官は横田基地に置く。
 イ 米陸軍は、第1軍団(米ワシントン州フォートルイス)司令部を座間に移転し、太平洋全域を管轄させる。これに伴い、第5空軍司令官が兼務していた在日米軍司令官(空軍中将ポスト)を第1軍団司令官が兼務することとし、これを陸軍大将ポストとした上で、在日米軍司令部を横田から座間に移転させる。
 ウ 米海軍は、西太平洋とインド洋を管轄する第七艦隊の旗艦及び空母(次は原子力空母)の母港は横須賀にとどめるが、空母艦載機の母基地は厚木から岩国に移転させる(?)。
 エ 米海兵隊については、在沖縄海兵隊約1万6000人の2??3割を日本本土(キャンプ富士(静岡県)や座間か)に移転させる。
(以上、http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20040710AT1E0900E09072004.html(7月10日アクセス)、http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20040715k0000m030163000c.html(7月15日アクセス)、http://newsflash.nifty.com/news/tk/tk__kyodo_20040717tk004.htm(7月17日アクセス)、http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20040718i101.htm(7月18日アクセス)による。)

3 再編計画の評価

 この再編計画については、日本をアジア太平洋における頭脳と情報の拠点にするつもりなのだろう(上掲毎日サイト)といった憶測がなされており、米側は自衛隊との連携を深めるためと言っています(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20040710AT1E0900E09072004.html。7月10日アクセス)。
自衛隊との連携を深めるために、米側は(弾道ミサイルに対処するための地上配備型システムを運用する)航空自衛隊の航空総隊司令部(東京都府中)を米第5空軍司令部のある横田へ移転すべきだとの構想も打診しているとも報じられています(上掲読売サイト)。
 確かにこの再編計画から、日本を地上部隊拠点プラス兵站・中継ハブから、西太平洋における指揮統制中枢へと格上げしよういう米国の意志を読み取ることも不可能ではありません。
 しかし、本当にそうなのでしょうか。
 以下のことを思い出してください。
 冷戦終焉以降、国防費に大なたが振るわれた結果、米軍は大幅に削減されてきており、海外に駐留する米軍の削減幅はとりわけ大きいものがありました。現在米国は対テロ戦争に大わらわであり、イラク・アフガニスタン及びその周辺における兵力確保並びに戦費捻出のための経費節約、に汲々としており、在韓米軍の縮小もそのための措置である側面が大きいと言えるでしょう。また、司令部と隷下部隊との間の距離、あるいは司令部と与国の関連部隊の司令部との間の距離は、通信手段と移動手段の飛躍的発達によって決定的な問題ではなくなっています。(現に、現在の米国にとって最も重要な戦域である中東地域を管轄する米中央軍の司令部は、フロリダ州にあります。)
 そうだとすれば、米本土や米領を含む太平洋各地域から日本へ、日本の中では首都圏へ、というベクトル(空母艦載機基地だけは方向が反対ですが、これはNLP実施のためのやむをえざる措置でしょう。)を持つこの再建計画は、米軍の世界的再編のベクトルとは正反対であると言っていいでしょう。
そもそも、冷戦終焉から9.11同時多発テロまでの間の在日米軍の削減が微々たるものであったことも思い出してください。
 ここまでくれば、この再編計画のねらいは明らかですね。
 世界で他に例を見ない日本の米軍駐留経費負担(コストシェアリング)、をあてこんだ経費節約以外の何者でもない、ということです。
 もっとも、これだけでは「首都圏へ」というベクトルまでは説明できません。
 考慮すべきもう一つのファクターは、米軍の幹部や下士官のアメニティ志向です。
グアムより、沖縄より、(考えようによってはワシントン州フォートルイスより、)日本の首都圏の方が家族を住まわすのに魅力的だ、ということです。彼らが基地内で、米本土より安く、(無税・無関税である上、店舗の従業員の給与はコストシェアリングの一環で基本的に日本政府持ちで)食品・日用品を購入でき、基地内の学校に子弟を通わすことができることをお忘れなく。(基地内住宅の光熱水料もコストシェアリングの一環で基本的に日本政府持ちです。)その上に、日本の首都圏のレストラン・パブ・美術館・演奏会等のアメニティを享受できる魅力は抗いがたいものがあるはずです。しかも、首都圏ならば、彼らの配偶者の英語教師等の高給のアルバイト口がいくらでもあります。

 このように日本国民の税金を湯水のように使って、これまで米軍の戦略的資源配分をねじまげ、今回またも、しかも一層甚だしくねじまげることで、一体日本はこれまで何を得、今後何を得ようとしているのでしょうか。
 そもそも首都圏に外国軍を駐留させ続けて恥じない国は世界広しといえども、(事実上占領が継続していると言ってよい)イラクとアフガニスタンくらいなものです。首都ソウルからの米軍の移転をかちとった韓国は、その限りにおいては当然のことをしたのです。(いわんや、首都圏内で原子力空母の母港を提供しようなどという素っ頓狂な国は空前絶後であることを保証してもよろしい。)
 みなさん、ほんの少しで結構ですから、誇りと怒りを取り戻そうではありませんか。

<読者>
在日米軍の指摘は興味深いですね。この問題は重いテーマなので、私は、是非についての結論はまだありませんが、日本にとっての在日米軍の最大のメリットは、日本文化の輸出拠点だと思っています。
第二次世界大戦のころと違い、米軍は志願制になり、軍人も壮年化しています。在韓米軍の前線基地とは違い、日本には、家族同伴で赴任してくるのがほとんどです。軍人は、学者や経済人と違い、基本的に純朴ですから、日本で厚遇されたら、ほとんどが家族ぐるみで親日家になって帰国します。夫は、親日ロビイストになり、妻は、日本料理や着物に興味をもち、そして、子供は、パケモンに興味をもち、帰国していきます。しかも日本と違い、アメリカでは軍人の社会的影響力は非常にあります。
近年顕著な日本文化の世界的流行というのは、在日米軍抜きでは語れないと思います。

<太田>
 確かに大多数の在日米軍軍人について、高田さんのご指摘はあてはまると思います。(日本のアニメは米国とは無関係に世界を席巻していると私は思いますが、日本食の世界への普及については米国が先陣を切ってきたことは事実です。)もっともその「効果」が毎年ウン千億円もの予算を費やして得られている馬鹿馬鹿しさをどう考えるのかという問題は残ります。
より深刻な問題は、コストシェアリングの問題とか、日本の安全保障当局(防衛庁キャリアや外務省キャリア等)のやる気のなさ、に向き合わざるを得ない在日米軍のエリート軍人達が、日本政府、ひいてはそのような日本政府を支えている日本人一般に対する軽蔑の念を抱いて帰国して行っていることです。
 この観点から、コラム#414で引用した米世論調査(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20040715AT1E1500915072004.html。7月16日アクセス)では、実は有識者と一般人とに分けて調査結果が出ており、「日本を「信頼できる」と答えた人は一般人の部で68%・・有識者の部では89%・・だった。「米国と価値観を共有している国」は一般の部トップが英国で、日本は2位。有識者の部では英独に次いで日本が3位だった」ことが注目されます。
 有識者(エリート)は日本がコストシェアリングで世界でただ一国カネを湯水のように貢いでくれ、しかも日本が対外政策で米国の言うなりになっていることをもって9割もが日本を「奴隷の国」として「信頼」してくれている反面、ドイツのように、かつてナチスを生み出し、今では米国の対外政策にことごとに反抗しているけれど「フツーの市民の国」である方に、「奴隷の国」である日本より親近感をおぼえる、ということでしょう。

<読者>
> より深刻な問題は、コストシェアリングの問題とか、日本の安全保障当局(防衛庁キャリアや外務省キャリア等)のやる気のなさ、に向き合わざるを得ない在日米軍のエリート軍人達が、日本政府、ひいてはそのような日本政府を支えている日本人一般に対する軽蔑の念を抱いて帰国して行っていることです。

なるほど、戦前の日本軍も、兵卒一流、司令官三流でしたね。戦後の場合、いろいろ原因はあると思いますが、ここはとりあえず、「吉田ドクトリン」のせいだと言うことで、お茶を濁しておきましょう。