太田述正コラム#0415(2004.7.19)
<疲弊する米軍(その1)>

対テロ戦争で、米軍が疲弊しています。

1 米地上部隊

(1)数の不足
イラク戦争始まって以来の50歳以上の米兵の死亡者は10名に達しています。
死亡者の最高齢は何と59歳でした。この兵士も含め、7名は戦闘外で、そして3名は戦闘によって死亡しています。
他方、イラク戦争始まって以来の米兵の総死亡数は900名近いのですから、一見50歳以上の死亡数の割合は取るに足らないように見えるかもしれませんが、この割合はベトナム戦争の時の10倍です。10名という数についても、朝鮮戦争における50歳以上の兵士の死亡数に既に達しているのです。
どうしてそんなことになったのでしょうか。
対テロ戦争で、米軍の特に地上部隊(陸軍及び海兵隊)のフルタイムの兵士は目一杯アフガニスタン、イラク及びその周辺に派遣されており、他方で徴兵制が行われていないため、米軍は、50歳以上の兵士がめずらしくない州兵(National Guard)や予備役(Reserve)たるパートタイマーを活用せざるを得なくなっているからです。(ちなみに、米軍は、勤務年数等に応じ、52歳から62歳の間に兵士を解雇できますが、兵士に定年年齢はありません。)
ちなみに、アフガニスタン及びイラクに派遣されているかこれから派遣されようとしている米兵27万5,000名中約5,570名が50歳以上であり、その大部分は州兵や予備役なのです。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/07/18/international/middleeast/18OLDER.html(7月19日アクセス)による。)
そもそも、朝鮮戦争やベトナム戦争の時の比べて、現在米軍のフルタイムの兵力数、とりわけ地上部隊の兵力ははるかに小さくなっていることから、対テロ戦争において、州兵や予備役の負担が大きくなるのは当然です。
より根本的な問題は、フルタイムの兵力ではあっても短期間兵役をつとめて除隊し、その後は市民生活に復帰する徴兵が兵力の大部分を占めていた朝鮮戦争やベトナム戦争の時とは違って、現在イラクやアフガニスタン等に派遣されている米軍の兵士は、(州兵や予備役を含め)全員長期志願兵であり、イラクやアフガニスタン等に長期間にわたって大兵力を派遣し続けることは、仮に母基地と往復させるローテーションが組めたとしても、兵士の士気を低下させるだけでなく、新たな志願者数の減少をもたらす、と見込まれることから困難であることです。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/04/16/opinion/16KRUG.html(4月16日アクセス)による。)
かかる状況の下で、米軍当局がやむなく行っているのは、一つには除隊予定者の除隊期日の延伸です。すなわち米陸軍は、除隊予定者の所属部隊がイラク等に派遣される場合、派遣の90日前から派遣が終了して部隊が母基地に帰還した日から90日後までの間、フルタイム及びパートタイムの兵士の除隊を禁止する措置(Stop Loss Order)(注1)をとっています。

(注1)陸軍のみがこの措置をとる権限を持つ。ベトナム戦争後に米議会がこの権限を陸軍に付与した。最初にこの措置がとられたのは、湾岸戦争準備たけなわの1990年だったが、6ヶ月間除隊禁止措置がとられただけであり、しかもその期間経過後、この措置は解除されている。9.11同時多発テロ以降、久しぶりにこの措置がとられるようになったが、当初は特殊な技能を持った兵士の除隊を禁止するにとどまっていたのが、次第に対象が拡大されて現在に至っている。

この措置をとらなければ、2万人の師団で言えば、その兵力の四分の一の5,000人はこの間に除隊してしまう、と予想されています。一部兵士からは、これは徴兵制の復活に等しいと不満の声があがっています。
米軍当局が行っているもう一つのやむを得ざる措置は、Individual Ready Reserveのメンバーのうち5,000名の招集です。この予備役は、フルタイムの兵士を辞めたばかりの予備役、各種軍学校の学生、及び軍から奨学金をもらっている大学生、の三つから構成されています。この予備役は、訓練招集を受ける義務が免除されており、国家緊急事態以外、招集されることはありません。この予備役が前回招集されたのは、湾岸戦争準備たけなわの1990年でしたが、その時の招集規模はささやかなものでした。
(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-troops3jun03,1,1767647,print.story?coll=la-headlines-world(6月4日アクセス)による。

(続く)

州兵の一年間の動員期間の延伸(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-guard21jul21,1,3718700,print.story?coll=la-headlines-world。7月22日アクセス)