太田述正コラム#0428(2004.8.1)
<没落する米国(その3)>

 (本篇はコラム#308、312の続きです。)

4 各論

 (1)無駄だらけの米国経済
 米国が8000億ドル近くも国防費に使っており、世界の国防費の半分近くを占めており、それがイラク戦争等の影響で更に増える見込みであることが無駄かどうかは微妙なところです。
 しかし、米国が医療費にGDPの15%も費やしているというのに、65歳以下の米国人のうち4300万人も医療保険に入っていない人がいるのは明らかに問題です。例えば、欧州では国民皆保険になっていてなおかつ医療費にはGDPの10%以下しか費やしていません。これだけ医療費を費やしながら、米国人の健康総合指標は、乳児死亡率が高い等個々の指標が低いため、先進13カ国中ブービーの12位というありさまです。
 また、米国では犯罪が多い結果、刑務所に入っている人が600万人もおり、総人口比で先進国中最高であり、刑務所経費の対GDP比も従って最高となっています。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/0701/p17s01-cogn.html(7月1日アクセス)による。)
もっとも、このように米国経済に無駄が多いことは今に始まったことではありません。
以下、最近の懸念事項を取り上げます。

(2)経常収支赤字限界に?
米国による貿易(経常収支)赤字の垂れ流しはそろそろ限界だ、と何度も言われても今までは何も起こりませんでしたが、ついに年貢の納め時が近づきつつあるのではないか、という声があがっています。
すなわち、このところ米国の株や社債に対する需要が減退気味であり、今年5月にかけての三ヶ月、外国人は米国株を売り越しています。日本も経済が上向きであるため、円高の防止に力を入れなくなっており、米国財務省証券の購入額が減っています。
米ドルも2002年2月の高値以来、外国主要通貨バスケットに対する価額が19%も目減りしています。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/0729/p17s01-stgn.html(7月29日アクセス)による。)

(3)一人あたり所得の減少
ブッシュ政権になってからの三年半で、米国の職の数は200万人分も減少しています。大統領の一任期中職が減少を続けるというのは、大不況の初期におけるフーバー(Herbert Hoover)大統領の時以来のことです。
また、北米自由貿易協定ができてからの10年間で、米国の平均実質賃金は減少してしまいました。
(以上、http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/05/15/2003155595(5月16日アクセス)による)。
更にこの二年間は、上記の二つの要因に加えて、2000年にIT株バブルがはじけたこともあり、米国民の課税前所得総額も連続して減少しました。2000年と比べると2002年の課税前所得総額は5.1%減少し、人口増があるため、一人あたり平均課税前所得は5.7%、物価上昇分を差し引いた実質ベースでは9.2%も減少したのです。(http://www.nytimes.com/2004/07/29/business/29tax.html?hp=&pagewanted=print&position。7月29日アクセス)

(4)科学技術の相対的衰退
 長期的観点から懸念されるのが米国の科学技術の相対的衰退です。
 20世紀の最後の20年間で仏独英の年間理学工学博士号取得者数は二倍に増え、日本ではそれ以上増えたのに対し、米国では減っています。
 米国の物理学学術誌のPhysical Reviewは、同誌に掲載される論文について、1983年には61%が米国人執筆のものだったのに、2003年には29%まで落ちているとし、同じ傾向はすべての学術雑誌で見られると指摘しました。
 そういうわけで、かつては米国人がノーベル科学賞受賞を殆ど独占していたというのに、2000年代に入ってからは51%と5割を切る直前になってしまっています。
 また、米国の工業特許保有総数は減少してきており、今では世界の52%と、これも5割を切る直前です。
 そこに追い打ちをかけているのが、2001年の9.11同時多発テロ以来の特殊事情です。訪米外国人に対するビザ規制が強化されたため、米国の大学への入学希望者数が四分の一も減ったままですし、米国の科学技術予算は、国防、NASA、及び新設された国土安全省に重点配分され、この三つ以外の省庁への配分は減らされて現在に至っています。
(以上、http://dbs.cordis.lu/cgi-bin/srchidadb?CALLER=NHP_EN_NEWS&ACTION=D&SESSION=&RCN=EN_RCN、_ID:21976、http://iblnews.com/news/noticia.php3?id=107194(どちらも7月31日アクセス)による。)

(続く)