太田述正コラム#8817(2016.12.27)
<米リベラル知識人の内省三(その6)>(2017.4.12公開)
 (3)イスラエルでの研究
 その研究が載っているのがこの記事です。↓
http://www.haaretz.com/israel-news/science/.premium-1.756727
(12月8日アクセス)
 「・・・<紹介するのは、>アラブ-ユダヤ諸関係と取り組むための史上初めての神経科学的研究だ。
 それは、双方の側の頭の中における、共感諸メカニズムに紛争が及ぼしている効果を検証したものだ。・・・
 我々の共感諸メカニズムは、進化の産物であり、生存、継続性、及び、諸種の増殖、の諸必要性に合致すべく設計されている。
 それは、若干のあちこちのレベルで、他の野生諸動物の間でも見出だされるところの、基本的で原初的な(fundamental primitive)生存メカニズムだ。・・・
 ・・・その生物学的基盤においては、共感のための脳の機能(faculty)は、諸脅威を検出(detect)するメカニズムと不可分の関係にある。・・・
 ・・・他者と、生理学的-神経的レベルで認識しあい同定しあう<という>属性は、「同調効果(mirroring)」<(注3)>として知られており、我々が他者の痛みに遭遇した時に肉体的同定を感じることを可能にする。
 (注3)「 『ミラーリング効果(Mirrorring Effect)』とは、好感を寄せている相手のしぐさ、表情あるいは動作を無意識に真似てしまったり、 自分と同じような仕草や表情を行う相手に好感を抱くような効果のことです。 『ミラー効果』、『同調効果』あるいは『姿勢反響』と呼ばれることもあります。 無意識・意識的に関わらず、相手を真似るという行為は、相手に対する尊敬や好意の気持ちを表現したものとして認識されています。 『自分のしぐさを真似る人は仲間であり味方である』という認識で無意識のうちに認識されます。」
https://astrology.neoluxuk.com/psychology/index.php/Cat1No/P100/Cat2No/200/
⇒ミラーリングについては、私自身は良く知っていると思い込んでいましたし、過去コラムで真正面から取り上げたこともある、という認識だったのですが、検索をかけた結果、どうやら記憶違いだったらしいことが分かります。
 そこで、ミラーリングについて少し詳しく調べようと思ったところ、日本語でも英語でも、すぐには役に立つ解説を見つけられませんでした。
 (IT用語としての解説は豊富に出回っているのですが・・。)
 「(注3)」に掲げた解説も、学者による解説ではありませんし、私自身の今までの認識とは若干ズレがあります。
 私自身は、ミラーリングは、もう少し中立的なもの、という認識でいたところです。
 本文中の「共感のための脳の機能・・・は、諸脅威を検出・・・するメカニズムと不可分の関係にある」、という興味深い指摘を踏まえ、ミラーリングは、他者の外形的言動を真似ることで、その他者の内心を映しとろうとするものであって、その他者が敵か味方かの判定を下すための手段である、という気が私はし始めており、これは、私の今までの、中立的なミラーリング認識とも合致するのですが・・。(太田)
 このシステムは、齧歯動物達(rodents)<(注4)>、及び、猿達(monkeys)<(注5)>、を含む、他の哺乳類達にも見出される。
 (注4)齧歯類。「哺乳綱齧歯目に属する動物の総称。物をかじるのに適した歯と顎を特徴とし,多くは草食性であるが,雑食性のものもある。ビーバー,リス,ハツカネズミ,レミング,トビネズミ,ヤマアラシ,チンチラなどが含まれる。」
https://kotobank.jp/word/%E9%BD%A7%E6%AD%AF%E9%A1%9E-59642
 (注5)monkey・・・は、学術的な定義上はオナガザル科(旧世界猿、old world monkey)と広鼻猿(新世界猿、new world monkey)の総称である。つまり、サルのうち原猿(曲鼻猿とメガネザル)と類人猿を含まない(メガネザルは分類学上の地位が不安定だが、それとは関係なくmonkeyには含めない)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%AB
 ちなみに、「類人猿(ape)は、ヒトに似た形態を持つ大型と中型の霊長類を指す通称名。ヒトの類縁であり、高度な知能を有し、社会的生活を営んでいる。類人猿は生物学的な分類名称ではないが、便利なので霊長類学などで使われている。一般的には、人類以外のヒト上科に属する種を指すが、分岐分類学を受け入れている生物学者が類人猿(エイプ)と言った場合、ヒトを含める場合がある。ヒトを含める場合、類人猿はヒト上科(ホミノイド)に相当する。
 テナガザルを含めた現生類人猿では尾は失われている。
 類人猿には現生の次の動物が含まれる
小型類人猿(lesser ape):テナガザルとフクロテナガザルを含むテナガザル科
大型類人猿(great ape):オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボ(+ヒト)」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A1%9E%E4%BA%BA%E7%8C%BF
 しかし、我々の共感の感覚は、原初的な脅威同定システムだけに依存しているわけではない。
 進化の後の方の諸段階で、ヒトの脳の大きさが増大し、その結果として生じたところの、より高度な諸システム・・主として前頭葉(frontal lobe)(前頭前野=前頭前皮質(prefrontal cortex))・・の発達が見られた。
 これら<の部位>は、友と敵とを区分けすることを含む、精緻な認知的かつ行動的な諸機能の入り組んだ一連のもの、に責任を負っている。
 これが、我々が、より大きな社会諸集団内における、より複雑な意思決定と取り組むことを可能にしているのだ。
(続く)