太田述正コラム#0456(2004.8.29)
<両極分解する米国(続)(その1)>

以前(コラム#331)、米国が、「保守的な人、すなわち高齢、低学歴で、配偶者を有し、非組合員であって、せっせと教会に通い、田舎に住む人をコアメンバーとする・・共和党支持者」、すなわち保守派と「リベラルな人、すなわち若年、高学歴で、独身であるか離婚していて、組合員であって、教会に行かない、都市に住む人をコアメンバーとする・・民主党支持者」、すなわちリベラルに両極分解し、この両勢力があい拮抗していると指摘したことがあります。
ただし、米国の保守派は、「せっせと教会に通」うキリスト教原理主義者(コラム#93、95、149、331、386、419)が多いという点で、先進諸国における保守派の中では特異な存在です(注1)。

(注1)先進国ではおおむねどこでも保守派とリベラルが存在し、両者間の対立が見られる。保守派とリベラルは大脳の働きが違う、という説が唱えられている。すなわち、UCLAでの研究によれば、リベラルは保守派に比べて大脳辺縁系の中の感情中枢である扁桃体(amygdala)(http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2004_14453/slides/13/51.html。8月27日アクセス)の働きがより活発だというのだ。このため、リベラルは他人の艱難に同情し、死刑に反対であり、反軍的であり、自分達の艱難を察知することのできる候補者を支持すると考えられる。(このような扁桃体の特性は先天的に決定されるというわけではなく、後天的に形成されることもある。)これをもってリベラルは感情的で保守派は理性的である、と短絡的に結論を出すことはできない。アイオワ医科大学(UI Health Care)のダマジオ(Antonio Damasio)教授の研究によれば、人は豊かな感情を持っていて初めて真に論理的な意志決定ができるからだ。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.nytimes.com/2004/08/22/magazine/22IDEA.html?pagewanted=print&position(8月24日アクセス)による。)

米国の保守派の特異性は、彼らが「キリスト教的価値と黙示録に記されている未来を・・信じ」、キリストがやがて再臨する(注2)との「聖ヨハネの予言は恐らく彼らの生涯中に実現するであろうと信じて」いる59%の米国人(タイム誌による世論調査)とオーバーラップしているところにあります。
彼らはかかる宗教的信条から、「同性愛者同士の結婚・妊娠中絶・銃規制・税金・国連(とりわけ・・アナン事務総長)(注3)・イラクからの撤退・マイケル ムーア・そしてジャネット ジャクソンの乳房ポロリ事件・・に反対」しているのです。(http://www.guardian.co.uk/uselections2004/comment/story/0,14259,1208413,00.html。5月3日アクセス)

 (注2)キリスト再臨に至るプロセスについて、米国のキリスト教原理主義者の多くは、19世紀に米国て唱えられるようになった特異な聖書解釈を信じている。
まず、イスラエルが建国され、次いでイスラエルによって聖書の土地(中東の大部分)の占領とエルサレムの岩のドーム/アルアクサ・モスクの場所に第三神殿(Third Temple。約3000年前にソロモン王がつくったとされる第一神殿、ヘロデ王による第二神殿の大拡張やその紀元70年のローマによる破壊については、http://www.thehope.org/Sagiv/theories.html参照)の再建がなされ、イスラエルとアンチキリスト勢力との戦いが起き、ハルマゲドンの谷で雌雄が決せられる。そしてユダヤ人は焼かれるかキリスト教に改宗する。この時点でキリスト再臨となる、というのだ。ハルマゲドンでの最終決戦の前に真のキリスト教徒は神のもとに誘われ、この決戦を見物できる。
理の当然として、彼らはイスラエルの右派を支持し、米国政府に、そのパレスティナ政策をイスラエル右派寄りにすべく働きかけることになる。
(以上、http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,1195729,00.html(4月20日アクセス)による。)
(注3)一昨年までに既に累計で1500万部も売れている続き物のベストセラー小説が米国にある。著者はキリスト教伝道説教師のTim LeHayeだ。ストーリーは、黙示録に記されているところに従い、キリストが再臨するというものだが、その中に国連はアンチキリストだ、というくだりがある。(http://newssearch.bbc.co.uk/2/hi/americas/2670591.stm。2003年1月20日アクセス。)

 このように、感情面が未発達でカルト的末世観を抱いている人々が超大国たる米国で現在過半数を占めている、ということを、われわれはしっかりと肝に銘じる必要があります。

(続く)

<読者>
キリスト教原理主義の人たちが感情的に未発達という前提は、僕が観察したことのある実態とはかけはなれているように思います。僕は、インディアナ、ミシガン、バージニア、ケンタッキーなどの、いわゆる福音派と呼ばれる、今回のブッシュ支持のコアの部分の人たちと交流がありますが、極めて感情豊かな人たちです。例えば、メンバー100人そこそこの教会で、あるアジア系の留学生(ちなみに教会の会員など身内ではない)が資金難で勉強を続けることが困難になっているという話が出ると、即座に1万ドル以上の寄付金が集まったりします。外国からの客人には親切でフレンドリーです。
 もっとも、彼らは白人の教師や医師、エンジニアが多く、ローカルでは中の中・上くらいに位置すると思われますが、外国への関心、抽象的な議論への関心は低い印象を受けました。つまり、遠くの世界での戦争被害者に心を動かされることは少なく、身近で具体的に目にすることのできる不幸な境遇には涙をこぼすというメンタリティがあるようです。
 一方で知的でリベラルな人たちには、割と逆の方向性があるんじゃないでしょうか?世界の不幸については情熱的に語るが、自分の周辺で起きていることには割りと冷淡であるとか・・。それに、そもそも、ある集団が「感情的に未発達」という分析は乱暴に過ぎる気がします。死刑賛成だと感情面が未発達ということであれば、保守派が胎児の死に相当に感情的に思い入れを持っている点を説明できないのではないでしょうか。
 それと、日本ではどちらかというと知的レベルが高いほど保守派が多い気がしますが、アメリカとの差はなぜ生じるんでしょうか。例えば死刑について、名門校の学生に聞くのと、なんとか女子大とかなんとか福祉大みたいなところで聞くのでは、後者の方が反対論が強いのではないか・・という気がしますけれど、どうでしょう。長文投稿になり、すみません。

<太田>
  「感情が豊か」の定義をさておけば、おっしゃっていることは、私の行った議論を補強するものです。

>遠くの世界での戦争被害者に心を動かされることは少なく、身近で具体的に目にすることのできる不幸な境遇には涙をこぼすというメンタリティ

 これこそ、私に言わせれば、「感情が貧しい」ということなのです。なぜなら、サルの母親すら自分が授乳している子ザルの死には悲しむからです。「感情が豊か」なヒトとは、「身近で具体的に目にすることのでき」ない「遠くの世界での戦争被害者に心を動かされる」ヒトを指すのです。

 蛇足を二点。

>死刑賛成だと感情面が未発達ということであれば、保守派が胎児の死に相当に感情的に思い入れを持っている点を説明できない

 「保守派」はキリスト教原理主義のドグマに忠実なだけであり、「リベラル」こそ「胎児の死に相当に感情的に思い入れを持っている」のですが、「リベラル」は堕胎せざるを得ない立場の妊婦の気持ちにも「相当に感情的に思い入れを持って」おり、その両方の感情の折り合いをどうつけるかに腐心している、といったところでしょう。

>日本ではどちらかというと知的レベルが高いほど保守派が多い

 私の知っている人について言えば、その反対です。
 いずれにせよ、こういった話は、具体的なデータなしに議論するのはやめましょう。