太田述正コラム#9093(2017.5.14)
<米国のファシズム(その2)>(2017.8.28公開)
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[米帝国主義と産軍複合体]
一、前置き
 米帝国主義は、人種主義国たる米国が、19世紀末に北米大陸内でのフロンティアがほぼ消滅した段階において、有色人種との混淆を避けるため、それ以上の領域的拡大を伴わない形で、大洋や外国における軍事的プレゼンスを増大することによって、まつろわぬ勢力を成敗しつつ、自らが睥睨できる地域を拡大していく、というものとして始まったわけです。(コラム#省略)
 しかし、先の大戦までは、米国が睥睨できる地域は、カリブ海地域と東太平洋地域に限られ、その他は、西太平洋のフィリピン周辺及びグアム周辺だけでした。
 それが一挙に、全球にまで広がったのが、第二次世界大戦の時からです。
 ベースヴィッチは、米帝国主義の起源を、ヘンリー・ルースの米国の世紀の提唱に求めています(コラム#4268)が、それは、単なる、米帝国主義の全球化の促進を求める雄叫びに過ぎません。
 (なお、彼の「米国が自由で民主主義的で人道的な国である」(同上)が誤りであることは、お分かりのことと思います。)
 但し、全球化フェーズの米帝国主義についての彼の下掲の一連の描写は的確です(同上)。
 「<米国の>政策決定者達の愚行と倨傲は、ちょっとばかり気の狂った<ヒットラー>によってしかこれまで到達しえなかった水準に近づい<ている>」、「世界は、この過剰武装をした全球的警察官がいなくても十分やっていけるし、より重要なことは、米国は、これほどもその財産(gifts)を外国で浪費していなかったとしたら、国内ではるかにうまくやっていけていたはずだ」、「米国の欧州と東アジアの同盟諸国は、自分自身で十分うまくやっていけるから心配する必要などない」(いずれも、同上)。
 このうち、全球化フェーズの米帝国主義をナチズムに(婉曲に)準えた点は、彼の勇気を称えたいと思います。
 「現在<の>・・・<米>産軍複合体・・・<は、>政府幹部OB達と政治家達に金銭的インセンティブを与え、政治家達が自分達の選挙区に職と政府のカネをもたらすことを可能にし、軍部により多くのカネ、人員、そして新しい兵器や新しい理論なるものを試す機会、を与え<ている>」(コラム#4266)、と、産軍複合体が米帝国主義の全球化フェーズにおいて果たしている重要な役割を、彼が指摘している点も高く評価すべきでしょう。
 なお、若干補足すれば、米帝国主義の全球化フェーズにおいては、米国の主要敵は、独・日→ロシア(ソ連圏崩壊後の後始末を含む)→中東イスラム世界→中共、という変遷を遂げてきたわけです。
 いや、より露骨に言えば、主要敵が、米国によって、次々にでっち上げられてきた・・但し、ロシアだけは、日本によって主敵として事実上押し付けられた側面がある・・といったところでしょうか。
二、米産軍複合体について
 産軍複合体(Military–industrial complex)の英語ウィキペディア
https://en.wikipedia.org/wiki/Military%E2%80%93industrial_complex
を見ると、冒頭部分でファシズム、末尾部分で日本、に、それぞれ、一言ずつ言及されているのを除けば、米国の話しか出て来ません。
 このことは、現在、産軍複合体が存在し、或いは、話題になる、のが米国だけであることを物語っています。
 なお、日本については、自衛隊が、マンガを自衛官募集の手段として用いている、というどうでもよい記述です。
 他方、ファシズムについての、「ダニエル・ゲラン(Daniel Guerin)(注3)<の>、1936年の、ファシスト政府の重工業に対する支援に関する『ファシズムと大企業(Fascism and Big Business)』」への言及は重要です。
 (注3)1904~88年。フランスの、歴史家、反植民地主義者、同性愛者の権利擁護者であり、マルクス主義と無政府主義を統合させようとした。大学中退。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%8B%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%83%A9%E3%83%B3
https://en.wikipedia.org/wiki/Daniel_Gu%C3%A9rin
 この本には、彼自身によるナチスドイツの視察を踏まえ、以下のようなことが書かれています。
 「大企業は、新たな武器の諸注文がもたらされるところの、侵略的政策を承認するものの、<独伊の>ファシストの指導者達が、自国民を、その惨めさから目を逸らさせようと、当該国の孤立と敗北に帰結しかねない、早まった戦争を引き起こさないか、と恐れている。・・・
 彼らは、武器の諸注文による濡れ手に粟の諸利潤を懐にすることに余念がないものの、この政策の可能性ある諸帰結に戦慄している。
 同様、彼らは、・・・「戦争経済」態勢が、彼らに対して、より煩わしい国家諸規制を恒常的に課すことで、神聖にして侵すべからざる「私的イニシアティヴ」を永久に侵食してしまうことに不満を述べている。」
https://www.marxists.org/history/etol/writers/guerin/1938/10/fascism.htm
 私は、現在では、ファシズム概念を一部変更し、それを、20世紀以降において、人種主義に基づいて(注4)、自国の勢力圏の大幅な拡大を図る体制、と考えるに至っており、20世紀以降の米国もファシスト国家に仕分けされるのであって、このうち、独伊は民主主義個人独裁、米国は形の上では民主、共和両党の二大政党制だが、両党は大同小異で、事実上の民主主義一党独裁、の形をそれぞれ採った、と見たらどうか、と思っています。
 (注4)ナチや米国だけでなく、ムッソリーニ、ひいてはファシスト党、もまた、人種主義に立脚していたことを忘れてはなるまい。
 リビア等のアラブ人等のイスラム教徒に対してはイタリアへの同化政策を推進したが、黒人差別は明確だったし、ユダヤ人達に対しても、ナチスのニュルンベルク法に倣った人種法で、(実施は不徹底だったけれど、)ユダヤ人差別を行ったほか、ホロコーストへの協力を行っている。
http://ja.yourpedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%A0%E3%83%83%E3%82%BD%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%8B
 (中国国民党政権は、人種主義政権ではありませんでしたから、ファシスト政権ではなく、単なる一軍閥政権、ということになります。)
 そして、独伊米のうち、米国だけが、産業界の全面的協賛取り付けによる産軍複合体の形成に成功し、そのファシスト体制の半恒久的な維持を可能にした、とも。
 それは、米国は、1945年7月に核兵器を(世界で初めて)保有したことで戦争に完全敗北することがありえなくなったこと、そもそも、英国(カナダ)及びメキシコとさえ深刻な敵対関係に陥らない限り、その他のいかなる国・勢力からも侵攻し難い地政学的位置にあること、経済力が、20世紀に入る少し前から世界一を維持してきていること、から、産業側として、ゲランが指摘したような協賛を躊躇する理由がなくなったという消極的理由、及び、政府による(産業政策を含む)規制は最小限度に抑えつつ、巨額の政府予算を広義の武器の研究開発に投じることで、そのスピンオフが米産業界の他国の産業界に対する技術上の比較優位の維持を可能ならしめてきたという積極的理由、によるのです。
 (なお、米産軍複合体は、ベースヴィッチの叙述からも分かるように、より正確には、米産軍議会複合体(military–industrial–congressional complex=MICC)である
https://en.wikipedia.org/wiki/Military%E2%80%93industrial_complex 前掲
ことに注意。)
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(続く)