太田述正コラム#0470(2004.9.12)
<両極分解する米国(番外編)(その1)>

1 米国のキリスト教原理主義化

 両極分解した米国は今後どうなるのでしょうか。
 今、ほぼきれいに二分されている米国は、早晩、保守派ないしキリスト教原理主義勢力が多数を占めるようになるのは必至です。
 これは、米国への移民にもキリスト教原理主義信奉者が多いこともありますが、そもそも保守派ないしキリスト教原理主義者の人々の出生率の方がリベラルの人々の出生率より高いからです。
 実際、前回の2000年の大統領選挙でブッシュが勝った州の女性の出生率は2.11だったのに対し、ゴアが勝った州の女性の出生率は1.89しかありませんでした。これはフランス並みの出生率であり、リベラルが強い州の人口は、他州や外国からの人口流入を考慮しても、今後どんどん減っていくことになります。
 ちなみに、出生率の最も高い州は、モルモン教徒(広い意味ではキリスト教原理主義宗派と言ってよい)が人口の69%を占めるユタ州であり、一番出生率の低い州は、米下院にただ一人の社会主義者の議員を送り込み、最初に同性愛者同士のcivil union(民事結合)を認めたバーモント州です。この二つの州の出生率は実に二倍の差があります。
 世論調査によれば、3人以上の子供が欲しい人は、毎週教会に行く人では47%もいるのに、ほとんど教会に行かない人では27%しかいないことが以上のことを裏付けています。
 (以上、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A54700-2004Sep1.html(9月11日アクセス)による。)

 私が、もともとbastardアングロサクソンであった米国(コラム#109、225、307等)が、文字通りアングロサクソンとは似ても似つかない存在になりつつあると申し上げた(コラム#458)ことの人口動態的背景は以上の通りです。
 米国は現在世界の覇権国ですから、このような米国の変容は世界に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

2 ローマのキリスト教化

 実は現在の米国で起こっているのと同じようなことが過去にも一度起こりました。
 紀元後しばらくしてのローマ帝国のキリスト教化による変容です。これは、当時の地中海・欧州における覇権国であったローマが滅亡する主要要因となったと言われています。
 ではどうしてローマ帝国内でキリスト教徒が増えたのでしょうか。
 それはキリスト教がローマ帝国の人々に受け入れられたからだ、ということですが、キリスト教徒が増えたもう一つの理由は、キリスト教徒の方が出生率が高かったからです。
 ローマ帝国は男性優位の社会であり、女の子は生まれてきても大量に間引きされました。堕胎も盛んに行われており(注1)、そのために命を落とす女性が少なくありませんでした。

 (注1)ギリシャ人も同じだった。プラトンもアリストテレスも、堕胎を推奨していたし、間引きも認めていた。なお、ローマはギリシャ以上に人命軽視の文明だった。ローマ市民が、闘技場で剣闘士が互いに傷つけ合い殺し合うのを鑑賞することを最大の喜びの一つとしていたことを想起して欲しい。

 ところが、キリスト教は女性を尊重し、かつ堕胎や間引きを禁止しました。
 このため、非キリスト教徒のローマ市民の間では女性が不足し、人口は減少傾向が続いたのに対し、キリスト教徒たるローマ市民の人口はどんどん増え、おのずからローマ帝国ではキリスト教徒が過半を占めるに至ったのです。
 コンスタンティヌス帝による313年のキリスト教公認、テオドシウス帝による383年のキリスト教国教化・392年のキリスト教以外の宗教の禁止(コラム#413)は、キリスト教徒の圧倒的増大という事実の後追い・追認以外のなにものでもなかったのです。
(以上、http://www.jknirp.com/stark.htm(9月11日アクセス)による。)

(続く)