太田述正コラム#0473(2004.9.15)
<険悪化する米韓関係>

 9月末までに開かれるはずだった六カ国協議が北朝鮮の熱意のなさから開かれそうもありません。
 これは、米国の11月の大統領選挙で、北朝鮮に対するあたりが柔らかそうなケリー候補が当選することを期待して、北朝鮮が様子見を決め込んでいるのだろうという憶測がなされています(http://www.nytimes.com/2004/09/15/international/asia/15korea.html?pagewanted=print&position=。9月16日アクセス)。
 しかし北朝鮮が、ブッシュ再選の可能性が高いこと、万一ケリー候補が当選したとしても対北朝鮮政策に大きな変化が生じるわけがないこと、を知らないはずはありません。
 私は北朝鮮が、険悪化する米韓関係を見て、米国として、韓国を完全に北朝鮮側に追いやるような、北朝鮮核関連施設への一方的攻撃はしないだろうという計算の下に、対米政策の抜本的軌道修正を行い、六カ国協議を無視し始めた可能性が高い、と見ています。
 6月に韓国で行われた世論調査によれば、20代から40代までの韓国人は米国を韓国の主要な敵と考えており、依然北朝鮮を主要な敵と考えているのは50代以上だけだという結果が出ました(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200406/200406300034.html。7月1日アクセス)。もはや、米国が韓国の最大の敵だとする見方は韓国で確立したと言っていいでしょう(コラム#231)。
これでは米国が、米韓関係の将来に見切りをつける気持ちになったとしても不思議ではありません。
 そこへ8月中旬、米国は欧州と東アジアから計7万人の駐留米軍を引き揚げることを正式に発表しました。これに対しては、米国内からも、中長期的には避けられないとしても、北朝鮮の核問題が懸案となっている現在、発表のタイミングが悪すぎる、という批判の声が出ました(http://www.nytimes.com/2004/08/17/opinion/17tue2.html?hp=&pagewanted=print&position。8月17日アクセス)。つまり、これは韓国へのあてつけではないか、というわけです。
 9月に入ると、追い打ちをかけるように、ブッシュ大統領の共和党大会における次期大統領選候補者指名受諾演説において、イラクにおいて協力してくれている諸国を列挙した際に、韓国に言及しないという「事件」が起こりました。
 すなわちブッシュは、現時点での派遣兵力数の順番に、英国・ポーランド・イタリア・日本・オランダ・デンマーク・エルサルバドル・オーストラリアの8カ国に言及したにも関わらず、英国に次いで二番目の3,600人もの大兵力を派遣している韓国は無視されたのです。(これは、ブッシュの言い違いではなく、配布された演説文にも韓国は入っていませんでした。)(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200409/200409050030.html。9月6日アクセス)
この共和党大会で採択された党綱領においても、日本を"key ally"としたのに対し、韓国は"valued democratic ally." と「差別扱い」されており(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200409/200409050032.html。9月6日アクセス)、韓国の親米派の間で対米疑心暗鬼が一挙に高まりました。
また、このところ韓国が昔に行った核研究疑惑が急に浮上しましたが、今になって、しかもこのようなタイミングでこんな話が出てきたのは米国のリークによるのではないか。米国のねらいは韓国バッシングと中国への警告(中国が北朝鮮の核開発を止めさせなければ、日本だけでなく、韓国にも核開発のゴーサインを出すぞ。韓国が核武装の準備を怠っていないことが分かったろう。)ではないか、という金大中氏(前大統領とは別人。コラム#437)の論説が韓国で登場しました。(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200409/200409150043.html。9月16日アクセス)。これは当を得ている分析のような気が私にはします。
9月9日に北朝鮮北部で起こったとされる大爆発をめぐっても、改めて米韓関係の険悪さが指摘されています。
14日に韓国の統一相が「北朝鮮はこの爆発は発電所の建設のための発破だったと言っているが、われわれはほかの可能性も排除していない。」と語ったのとほぼ同時刻にパウエル米国務長官は「北朝鮮による説明は米国の見方と合致している」と語り、米韓両国の食い違いが露呈してしまいました。
こんなことになるのは、韓国政府が自前の情報(米国民間企業の衛星写真と爆発の衝撃波の記録)しか持ち合わせておらず、米国から一切情報をもらえないからだというのです。
(以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200409/200409150031.html(9月16日アクセス)による。)
これ以上の米韓関係の悪化を食い止めるのは日本政府の役割だと思うのですが、一向にそんな動きは見えてきませんね。