太田述正コラム#0482(2004.9.24)
<イラク情勢の暗転?(その2)>

 (最近、読者数の伸びが殆ど見られません。愛読者の皆さん、何度もお願いして大変心苦しいのですが、広報宣伝をぜひともよろしくお願いします。)

  イ シーア派地区
 サドル派民兵(al-Mahdi army)の蜂起がなかなか収束しなかったものの、シスタニ師の仲介とシスタニ師を支持するシーア派群衆の「蹶起」のおかげで、サドル師にようやく引導が渡されたのが8月末でした(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A34370-2004Aug26?language=printer。8月27日アクセス)。
 とは言うものの結局、サドル派民兵は武装解除をしないまま現在に至っています(http://www.nytimes.com/2004/09/14/international/middleeast/14baghdad.html?pagewanted=print&position=。9月15日アクセス)。しかし、イラク南部のシーア派地区では比較的平穏な状況が続いています。
その証拠に、シーア派地区の(バスラ等を含む)南部を、14,000人の多国籍軍の中核として担当しているイラク派遣英軍の大幅な兵力削減が決まりました。この地域における治安維持と復興支援が順調に伸展しているとの判断の下、英軍総兵力8,000人の約六分の一(歩兵及び機甲部隊5,000人の約三分の一)の約1,500人が10月の終わりまでに削減される予定です。(http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1307980,00.html。9月19日アクセス)

  ウ スンニ派地区
 現在イラクには不穏分子として、上記のサドル派民兵(ア)のほか、アルカーイダ系「戦士」(ザルカウィ(al-Zarqawi)系「戦士」と言うべきか) (イ)、旧体制派ゲリラ(ウ)、不穏市民グループ(エ)、そして犯罪諸グループ(オ)が存在していますが、(イ)??(エ)の三つはいずれも主としてスンニ派地区、就中スンニ・トライアングル(Sunni triangle)、で活動しています。(アルカーイダ系「戦士」が、イラク人を殺害のターゲットにするか否かをめぐって、(ア)-1外国系「戦士」と(ア)-2イラク系スンニ派原理主義「戦士」に分裂したという説もあります。また、(オ)の犯罪諸グループは、単独で、あるいは(ア)??(エ)と「提携」しつつ暗躍しています。)
 (エ)の不穏市民グループ(私が仮に命名)は、どちらかと言えばかつて米国ファンであったものの、イラク戦争開戦後の一般市民の死傷やフセイン政権打倒後の治安の悪化と復興の遅れ等に反発し、反駐留米軍に転じた人々が、ゆるやかな組織の下に散発的ゲリラ戦を行っているものです。彼らの多くには米軍の黒人兵への人種的偏見があり、かつアルカーイダ系「戦士」とは異なりイスラム原理主義信奉者ではなく、またイラク人への攻撃や避ける、という特徴があります。
 (以上、http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1302718,00.html(9月11日アクセス)及びhttp://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1309264,00.html(9月22日アクセス)による。)
 この中では、アルカーイダ系「戦士」が急速に勢力を拡大しており、ファルージャを拠点として、最近ではバグダッドにも拠点を設け、ここも米軍にとってオフリミット地区となっています。アルカーイダ系「戦士」は味方でない者はイラク人であってもすべて敵とみなし、ゲリラ・テロ攻撃の対象としていることはご承知の通りです(http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,1101040927-699341,00.html?cnn=yes。9月20日アクセス)。
 彼らの行動はますます大胆かつ緻密になっており、最近では外国人誘拐も、路上で相手を選ばず襲うやり方ではなく、外国の企業等の幹部の自宅を調べた上、人通りの少ない時間帯に自宅の中や前で誘拐する、というやり方に変わってきています。こうして既に100人以上の外国人が誘拐され、うち30人以上が殺害されています。(http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/FI22Ak02.html(9月22日アクセス)、http://www.csmonitor.com/2004/0920/p01s01-woiq.html(9月20日アクセス)及び上記ガーディアン・9月22日アクセスサイト)
 そして今や、イラク、とりわけスンニ派地区は本格的ゲリラ戦の様相を呈してきているのです。
たまったものではないのが一般市民です。イラクの厚生省が統計を取り始めた本年4月からだけで、不穏分子や米軍等の手にかかって(イラクの治安部隊や不穏分子の死者を除いた)一般市民から3,200人もの死者が出ています(クリスチャンサイエンスモニター上掲サイト)。
 また、アルカーイダ系「戦士」や犯罪諸グループがそれぞれ単独で、或いは「提携」しつつイラクの大学教授等のインテリや小金のありそうな中産階級(特にキリスト教徒)を誘拐や脅しの対象にしていることもあり、これらインテリや中産階級の人々の海外脱出が続いています(http://www.csmonitor.com/2004/0921/p06s01-woiq.html。9月21日アクセス)。

  エ スンニ派地区が「荒れる」理由
 このようにスンニ派地区が「荒れる」理由はちょっと考えてみれば不思議でも何でもありません。
 それは、スンニ派の人々はフセイン政権の下で、少数派であるにもかかわらず、スンニ派であるフセイン大統領のおかげで、多数派のシーア派と(スンニ派と同規模の)少数派であるクルド人双方の上に君臨していたのに、今ではクルド人並の少数派の地位に甘んじなければならなくなったからです。
 このことは、シーア派の人々とスンニ派の人々の間で、来年1月に予定されているイラク総選挙に対する態度に明確に温度差がある(http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1307898,00.html。9月19日アクセス)ところにも現れています。スンニ派の多くの人々にしてみれば、どうあがこうと負け犬になるという結果が見えている選挙になど、夢も希望も抱けるわけがないのです。
 だからこそスンニ派の少なからぬ人々は、米軍を始めとする多国籍軍やイラク政府、更にこれらに協力するイラク人に対して八つ当たりしてきている、ということです。

(続く)