太田述正コラム#9475(2017.11.21)
<石野裕子『物語 フィンランドの歴史』を読む(その15)>(2018.3.7公開)

 「フィンランドはドイツが戦争に勝利することを前提にしていたため、1918年10月、ドイツの支持を取り付けるためにドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の親戚であるヘッセン<=カッセル>公フリードリッヒ・カール<(注30)>をフィンランド国王として迎える計画が策定された。・・・

 (注30)Friedrich Karl von Hessen-Kassel。1858~1940年。「当<初、>フィンランド議会は共和制支持者が多数を占めて<おり、>共和制を宣言<したが、>内戦を経て王制支持者が主導権を握った<という経緯があった。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%B3

⇒確かに、彼は、「<ドイツ>皇帝ヴィルヘルム2世の義弟」(上掲)ではありましたが、「従姉のマリア・フョードロヴナ<の子供が、ロシアの>ニコライ<2世>」(上掲)でもあり、かつまた、父親は「デンマーク・・・<の>王位継承<候補者>の一人と目された<人物であって、そのこともあり、>・・・フリードリヒ<自身、彼がドイツで生まれではあった・・1866年にデンマークからドイツへ割譲されたシュレースヴィヒ=ホルシュタイン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%92%EF%BC%9D%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3%E5%B7%9E
生まれなので微妙ではある・・けれど、>デンマークで長く暮らした」(上掲)、という人物です。。
 そもそも、当時の英/欧州/ロシアの皇帝/国王達は、全て、多かれ少なかれ親戚関係にあった(典拠省略)のであり、石野のここの筆致もいかがなものか、と思います。
 「歴史的にヘッセン=カッセル家は北欧と縁が深く、北欧の諸王家とは互いに通婚関係があった。また、1代限りで終わったがスウェーデン国王フレドリク1世は同家出身であ<り>(ヘッセン王朝)<、>・・・フィンランドにおける君主制支持者のほとんどはスウェーデン系フィンランド人であった」(上掲)というのも、同工異曲ながら、まだ、石野の筆致よりはもっともらしい感じがします。
 いずれにせよ、彼が、皇帝ヴィルヘルム2世のお眼鏡にも適っていたことは間違いないでしょうが・・。
 なお、この邦語ウィキペディア執筆者達が、彼がフィンランド国王に短期間(1918年10月9日~12月14日)とはいえ就任したとしているのは、完全に誤りです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Kingdom_of_Finland_(1918) (太田)

 <しかし、1918年11月に第一次世界大戦はドイツの敗北により終結<し>、・・・ドイツも共和制となり、・・・フィンランドがドイツ寄りであるならば独立を認めないとするイギリスとアメリカの意見もあった<ことを踏まえ、>・・・フリードリッヒ・カールが丁重にフィンランド王の座を辞退したことで君主制の道は閉ざされた。・・・

⇒英語ウィキペディア(上掲)は、彼に引導を渡したのはフィンランドの首相だったとしているのに、石野は、彼の方から「丁重にフィンランド王の座を辞退した」としているところ、その根拠を知りたいものです。(太田)

 1919年7月の初代大統領選には内戦の英雄であり、18年12月12日に摂政に就任していたマンネルヘイムが立候補した。
 だが、自由主義者で憲法制定委員会の委員長であったK・J・ストールベリ<(注31)>(1865~1952)が勝利する結果となった。

 (注31)Kaarlo Juho Ståhlberg。フィンランドの1919年憲法起草に中心的役割を果たしたところの、法学者にしてリベラルなナショナリスト。両親ともに代々ルター派牧師を輩出してきた家系でスウェーデン系。ヘルシンキ大法学部卒、同大博士。
https://en.wikipedia.org/wiki/Kaarlo_Juho_St%C3%A5hlberg

 マンネルヘイムは社会民主党から右翼とみなされ、支持を得ることができなかったのである。」(116~118)

(続く)