太田述正コラム#9541(2017.12.24)
<映画評論51:ユダヤ人を救った動物園 ~アントニーナが愛した命~(その2)>(2018.4.9公開)

https://womensvoicesforchange.org/the-zookeepers-wife-an-extraordinary-true-story-of-humanity.htm β
http://www.krakowpost.com/14750/2017/08/review-zookeepers-wife-film γ
https://variety.com/2017/film/reviews/the-zookeepers-wife-review-jessica-chastain-1202011801/ Δ
https://www.nytimes.com/2017/03/29/movies/the-zookeepers-wife-review-jessica-chastain.html?referrer=google_kp&_r=0 Ε
http://www.sfgate.com/movies/article/The-Zookeeper-s-Wife-World-War-II-11036397.php Ζ
http://www.latimes.com/entertainment/movies/la-et-mn-zookeepers-wife-review-20170330-story.html Η

 この原作たる、Diane Ackermanの 『The Zookeeper’s Wife: A War Story(ユダヤ人を救った動物園 ヤンとアントニーナの物語)』は2007年に上梓され(A、B)、同年から翌年にかけて、米国でベストセラーになっています。(β)
 この映画のストーリーは、この映画の英語ウィキペディア(B)に比較的詳しく載っているので、できればお読みいただきたいが、悪役として登場する、動物学者にしてベルリン動物園園長にしてナチスドイツ軍将校であるルッツ・ヘック(Lutz Heck)が、この映画の舞台であるワルシャワ動物園で、戦時中に、動物品種「改良」実験群を行った話は事実であるものの、この映画の主人公のアントニーナ(Antonina)と彼との「親密な」関係は誇張されています。(β)
 それ以外は、彼女の夫のヤン(Yan)が、ナチスドイツの目を欺くために、戦時中に、この動物園で行ったのは最初は食用豚の飼育で途中からは毛皮採取用動物の飼育だった(α)のが、この映画では前者だけになっている点くらいが事実と違っているだけです。
 で、この映画が描いているのは、ヤンとアントニーナのザビンスキ(Zabinski)夫妻が、戦時中に、この動物園内の夫妻の家の地下室(注3)に、延べ約300人の、ワルシャワ・ゲットーから脱出させたユダヤ人を匿い、彼らの命を救うことに概ね成功した、という事実(B、β)なのです。

 (注3)邦語ウィキペディア(A)は、夫妻が「ユダヤ人を動物用の檻に匿い」としているが、発狂レベルの誤りだ。なお、夫妻が「飼育されている動物の命をも守り抜いた」も誤りに近い。

 但し、私に言わせれば、この原作にせよ、映画にせよ、「Zookeeper(飼育員)」という言葉をタイトルで用いることで、このザビンスキ夫妻が、あたかも労働者階級に属す人々であるかのような先入観を読者や観客に抱かせていることは、必ずしも意図的ではないのかもしれませんが、微妙な事実操作です。
 この映画を見る前に英語ないし邦語のウィキペディアにちょっと目を通した人々は、この二つのウィキペディアが、どちらも、このタイトルに引きずられた記述内容になっている(B、A)ために、この先入観は一層強化されるはずです。
 英語ウィキペディアに関しては、きちんと読めば、ヤンが博士である、という記述もある(B(、Η))ので、大丈夫なのですが・・。」
 実際には、ヤンは、博士であるばかりではなく、この動物園の園長でもありますし(β)、極め付きは、この、当時の欧州で最も規模が大きく動物の数も多い動物園の一つであった、この動物園のオーナーでもあること(Ζ)、です。
 つまり、夫妻は、貴族階級に属していた、のですからね。

3 女性尽くしの映画

(続く)