太田述正コラム#9589(2018.1.17)
<映画評論52:否定と肯定(その2)>(2018.5.3公開)

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[現在のドイツとホロコースト]

 「・・・<昨>年の1月、ドレスデンでの集会でヘック(Höcke)<(注4)>氏は、現代ドイツを方向付けている戒律(guiding precept)・・第二次世界大戦とホロコーストに係る同国の有責性(culpability)・・に疑問を投げかけ、ドイツ人達に、自分達が自身の歴史への見方を「180度」転換させるよう呼びかけた。

 (注4)Björn Höcke。AfD(後出)所属の政治家で、かつて東西ドイツの国境線近くに位置しているボルンハーゲン(Bornhagen)地区の責任者。
http://www.spiegel.de/kultur/gesellschaft/bjoern-hoecke-kuenstler-schliessen-holocaust-mahnmal-neben-wohnhaus-a-1180281.html 及び☆(下出)

 ベルリンのホロコースト記念碑(Holocaust memorial)<(注5)>に言及しつつ、ドイツ人達は、「自分達の首都の中心に恥の記念碑(monument)を樹立する唯一の人々」だ、と述べた。

 (注5)「虐殺された<欧州>のユダヤ人のための記念碑」(・・・Denkmal für die ermordeten Juden Europas, 通称ホロコースト記念碑)は、2005年5月12日、ベルリンのブランデンブルク門の南に開設された、ホロコーストで殺されたユダヤ人犠牲者のための記念碑。1万9073㎡の敷地にグリッド状に並ぶコンクリート製の石碑2,711基が一般公開された。・・・
 地下にはホロコーストに関する情報センターがあり、イスラエルの記念館ヤド・ヴァシェムが提供したホロコースト犠牲者の氏名や資料などが展示されている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%99%90%E6%AE%BA%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%91%E3%81%AE%E3%83%A6%E3%83%80%E3%83%A4%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E8%A8%98%E5%BF%B5%E7%A2%91

 すると、最近のある水曜日の朝、ヘック氏は、田舎にある彼の自宅で目が覚めると、彼の寝室の窓の外にこのホロコースト記念碑が設けられているのに気付いた。
 24個の長方形のコンクリートの厚板群が、彼の土地に隣接する土地に、縮尺されて作られていたのだ。・・・
 <このドイツには、>戦後、初めて、公然とナショナリズムを掲げる政党<(注6)>が議会に議席を獲得している。・・・

 (注6)「ドイツのための選択肢(・・・ Alternative für Deutschland、略称:AfD(アーエフデー))・・・メルケル政権によるギリシャほか欧州連合諸国への救済措置に不満を抱く勢力が中心となって・・・2013年2月6日に・・・結成された。<EU>からの脱退を目標とし、ユーロ圏からの離脱とドイツ・マルクの復活を当面の最優先課題に挙げている。党の政策は全体的に右派色が強いが、国粋主義や移民排斥は掲げていないとされる。・・・
 2017年9月のドイツ連邦議会選挙では・・・637<の総議席中、>・・・94議席を獲得することに成功した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E9%81%B8%E6%8A%9E%E8%82%A2
 2人いる党首のうち、1人はイェルク・モイテン(Jörg Meuthen。1961年~)であり、彼は、ケルン大博士(経済学)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%82%A4%E3%83%86%E3%83%B3

 <こういうことをやってのけた側も、相当なものであり、>例えば、ヘック家を撮影したり、ヘック氏自身の人種的純粋性<の有無>を検証するためのDNAサンプルを得る目的でヘック家のゴミを渉猟し採取したりしている。
 (その結果、ヘック氏にはポーランド人とポルトガル人の血が混じっていることが分かった。)・・・
 <これをやった政治活動を旨とする美術団体の>一人は、「そりゃ、不愉快だろう、がしかし、ドイツの歴史は不愉快なのだ」、と言ってのけた。」
https://www.nytimes.com/2017/12/25/world/europe/germany-bjorn-hocke-bornhagen.html?rref=collection%2Fsectioncollection%2Fworld&action=click&contentCollection=world&region=rank&module=package&version=highlights&contentPlacement=2&pgtype=sectionfront ☆
(2017年12月26日アクセス)

⇒このいやがらせ行為の、ち密な計画性、陰湿性、徹底性、は、政治的立場こそ表見的には対蹠的ではあるものの、ナチを髣髴とさせます。
 やはり、ドイツ人は変わりようがないようで・・。(太田)
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 それでは、この映画の主な諸評論(下掲)のさわりをご紹介し、私のコメントを付す形で話を進めたいと思います。

a:https://www.theguardian.com/film/2017/jan/26/denial-review-holocaust-rachel-weisz
b:https://www.theguardian.com/film/2016/sep/12/denial-review-rachel-weisz-holocaust-david-irving-toronto-film-festival
c:https://www.nytimes.com/2016/09/30/movies/denial-review-rachel-weisz-denial.html
d:https://www.theatlantic.com/entertainment/archive/2016/09/denial-review/502298/

(続く)