太田述正コラム#680(2005.4.4)
<パキスタン(その3)> 
4 地域間の対立

 (1)パキスタンの各地域と言語
 遠心力の第三は、これが一番深刻だという見方もありますが、「地域間の対立」です。
 パキスタンは、アザドカシミール(Azad Kashmir。人口280万(1998年国勢調査。ただし、アザドカシミールと北方地域は推定値))、バロチスタン(Balochistan。657万)、部族地域(Federally Administered Tribal Areas。318万)、(首都)イスラマバード(Islamabad。81万)、北方地域(Northern Areas。91万)、北西辺境(North-West Frontier。1774万)、パンジャブ(Punjab。7362万)、シンド(Sindh。3044万)という八つの地域からなっています(http://www.statoids.com/upk.html。3月28日アクセス)。
 次にパキスタンの主要言語を見てみましょう。
 高等教育以上の場と中央官庁では英語が用いられており、憲法・法律は英語で書かれています。英語はパキスタンの公用語です。
 初等中等教育の場ではウルドゥー語が用いられています。ウルドゥー語(Urdu)はインドのヒンドゥー語(Hindi)と似ていますが、アラビア文字が用いられます。ムハジール(Muhajir。分離時にインドから主としてシンドに移住してきたイスラム教徒の人々)の大部分の言葉がパキスタンの国語となったもので、パキスタン人の8%の母語です。
 パンジャブ語(Punjabi)は主としてパンジャブで用いられており、パキスタン人の48%の母語です。
 パシュトン語(PashtoまたはPashtu)は主として北西辺境で(パキスタンとアフガニスタンにまたがって住むパシュトン族(Pashtun)によって)用いられており、パキスタン人の15%の母語です。
 シンド語(Sindhi)は主としてシンドで用いられており、パキスタン人の12%の母語です。
 シライク語(Siraiki)はパンジャブ語の方言で、主としてパンジャブ南部で用いられており、パキスタン人10%の母語です。
 バロチ語(Balochi)は主としてバロチスタンで用いられており、パキスタン人3%の母語です。
 これらの言語はすべてインド・ヨーロッパ語系ですが、パキスタン人の大多数が二つ以上の言語を身につけていて、その言語生活が極めて複雑であることがお分かりいただけると思います。
 (以上、http://www.answers.com/main/ntquery?method=4&dsid=2222&dekey=Demographics+of+Pakistan&gwp=8&curtab=2222_1及びhttp://www.uh.edu/~sriaz/thecountry/languages/(どちらも4月3日アクセス)による。)

 (2)パンジャブ対反パンジャブ
 以上からただちに見て取れることは、人口でも言語でもパンジャブ州の比重の圧倒的な高さです。
 ですから、バロチスタン・シンド・北西辺境の各地域は結束してPONM(Pakistan Oppressed Nations Movement)なる団体をつくり、しばしばそれぞれの地域の首都(クエッタ・カラチ・ペシャワール)で全面ストや荒れるデモを敢行して、パンジャブ系が牛耳っている中央政府に対し、平等な取り扱いとより多くの財政支援を求め続けています。
 (以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/4397315.stm(4月1日アクセス)による。)

 (3)分離傾向
  ア 部族地域
 アフガニスタンと1600kmの国境線を持つ部族地域では、米国等による2001年のアフガニスタン戦争以来、アフガニスタンのタリバン/アルカーイダ残党が逃げ込んできており、米国の意向を受けてパキスタン軍がこの地域で、アフガニスタン側の米軍と連携しながら、残党狩り作戦を実施しています(注5)。

  • (注5)2002年7月に、パキスタン建国以来55年ぶりにパキスタン軍が部族地域に入った。

 この関連で、これまで連邦直轄とはいっても、放置されてきたに等しい部族地域にパキスタン中央政府は飴と鞭による梃子入れを始め、現在に至っています。
 すなわち、残党狩り作戦に協力しない部族の人々を厳しく罰する一方で、この地域の7つの地区ごとに議会と裁判所を設けることとし、かつ北西辺境地域の議会に議員を送ることを認めるとともに、この地域に財政支援(米国負担のものも少なくない)を積極的に行い始めたのです(注6)。

  • (注6)罰としては、家屋の破壊・店舗やオフィスの封印・車両の没収・政府の役職からの追放等。財政支援は、教育・保健・通信等が中心。

 しかし、空爆も伴うこの残党狩り作戦に巻き込まれて地域の一般住民の間から死傷者が続出していることに加え、このような中央政府の動きは自分達の、ジルガ(コラム#635、636)等による自治権の侵害であるとして反発し、武力でパキスタン軍に抵抗する部族もあり、パキスタン軍は、これら部族の鎮圧作戦と残党狩り作戦を平行して進めざるをえず、苦戦を強いられています。
 (以上、http://www.irinnews.org/report.asp?ReportID=27514http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/south_asia/3532841.stmhttp://news.bbc.co.uk/1/hi/world/south_asia/3645114.stm(以上3月28日アクセス)、及びhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/4396359.stm(4月1日アクセス)による。)

(続く)

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