太田述正コラム#703(2005.4.25)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(その11)> 
 (6)反日行動の収束
  ア なぜ収束へ?
 週末だけ三回連続して繰り返された反日行動は、四回目の週末にはウソのように消え失せてしまいました(24日午後1時現在。http://www.sankei.co.jp/news/050424/kok039.htm(4月24日アクセス)。
 反日行動収束に向けての中共当局のこれみよがしの派手なパーフォーマンスを改めてご紹介するまでもありません。中共当局による中共当局のための中共当局の反日行動は、すべてが事前の計画通り進行したという意味でも、目的を達成したという意味でも、成功だった、と中共当局はほくそ笑んでいることでしょう。
 もとよりこの間、中共が払ったコストは決して少なくありません。
 第一に、EU諸国における対中警戒感の醸成です。
 その表れが、EUの対中武器輸出禁止解除措置の先送りであり、少なくともルクセンブルグがEU議長国を務める間、及び7月にその後を襲う英国の任期である今年一杯は解除がないことがはっきりしました。ドイツでも、解除に未練たらたらのシュレーダー首相に対し、フィッシャー外相は公然と反旗を翻しました(注14)。(http://www.guardian.co.uk/armstrade/story/0,10674,1460094,00.html。4月15日アクセス)。反国家分裂法の採択によって流れが変わったのですが、トドメを刺したのが今回の反日行動だと言えるでしょう(http://www.csmonitor.com/2005/0422/p01s03-woap.html。4月22日アクセス)。

  • (注14)ところが呆れたことに、訪中中のフランスのラファラン(Jean-Pierre Raffarin)首相は、21日、温家宝首相との共同記者会見の場で、明確に反国家分裂法と武器輸出禁止措置の解除に賛意を表した(http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2005/04/22/2003251430。4月24日アクセス)。

 第二に、米国の対中観の悪化です。
 その表れが、(六カ国協議で「お世話になっている」中共への配慮からか、)慎重な姿勢を崩さなかった米国が、一転、安保理改革に明確なゴーサインを出したことです。すなわち、ホームズ米国務次官補(国際機関担当)は19日、「アナン国連事務総長が求めた九月までの合意達成に反対や妨害はしない」と述べ、また、日本などが目指す安保理常任理事国の拡大に反対するイタリアなどが主張するコンセンサス(総意)についても、「総意を得ることは望ましいが、必要ではない」とし、「コンセンサス自体が目的となれば、非民主国家が容易に国連改革を妨害できる。米国はたとえ孤立してもこの種のコンセンサスを拒否する」と述べました(注15)。(http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20050422/eve_____kok_____001.shtml。4月23日アクセス)。

 第三に、第三世界からの中共への苦言の提示です。
 時あたかもバンドン会議50周年記念首脳会合がジャカルタで開催されようとしており、20日にはアジア諸国の外相達が、アナン国連事務総長とともに、日中双方に対話を促しました(CSモニター上掲)。この時点では、中共側がまだ、ジャカルタでの日中首脳会談に応じるかどうか回答をしていなかったことを考えれば、これは、中共側に苦言を呈した、ということです。

 第四に、中共国内における新たな嫌共産党層の出現です。
 今回の反日行動を見て、悪夢のような時代を思い出したのが文革世代の年配層です。彼らは、共産党当局が若者をけしかけてやらせた、当局お仕着せの横断幕文言とスローガンをひっさげた暴力的な街頭行動に参加したり、その街頭行動の被害者になったりして、かけがえのない半生を無茶苦茶にされた人々です。彼らからみれば、今回の反日行動は、小規模ではあるけれど、文革の二番煎じ以外のなにものでもありません。一旦は共産党に絶望していた彼らは、その後共産党が政策を抜本的に転換し、高度経済成長を実現したことで、共産党を許す気持ちになっていたところ、またもやこんなことを始めたと、かつて抱いていた嫌共産党意識が蘇ったというのです。(http://www.nytimes.com/2005/04/21/international/asia/21letter.html?pagewanted=print&position =。4月22日アクセス)。
 また、当局にけしかけられて今回の反日行動に積極的に参加した若者達の少なからぬ部分は、当局が事細かに彼らの街頭行動を振り付けただけでもうざったいと思ったのに、今度はもはや収束段階だとして彼らの行動を押さえにかかったことで、当局に対するわだかまりと疑念を抱くに至ったというのです(http://www.nytimes.com/2005/04/15/international/asia/15china.html?ei=5094&en=b4fbd8e7f37c73ad&hp=&ex=1113624000&partner=homepage&pagewanted=print&position=。4月15日アクセス)。

(続く)