太田述正コラム#717(2005.5.9)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(その13)>

 (本篇は、コラム#706の続きです。)

 (2)連戦の中共訪問の結果
ア 中共訪問
 台湾の連戦国民党主席は、4月26日?5月3日の8日間、中共を訪問しました。
 現在、入れ替わりに親民党主席が中共訪問中ですが、連戦訪中の総括をしておきましょう。
 私は、この訪問は、中共にとっても連戦にとっても失敗に終わったと見ています。

イ 拙劣な胡錦涛政権の対台湾戦略
 中共の、最初にまず鞭をふるう、という台湾に対するやり口は余りにも見え透いていました。台湾を狙ったミサイルをどんどん増やして来たというのがそうですが、今回の一連の合わせ技であるところの、反国家分裂法の採択(コラム#661、664、665、687)・台湾経済人への脅迫(コラム#692)・反日行動(コラム#687、689?700、702、703、706)、も鞭の三連発です。
 鞭をふるった後で飴を差し出せば、その落差で籠絡できる、と思ったのでしょうが、台湾の人々も舐められたものです。
 それにしても胡錦涛政権は、連戦に対する国家元首並み接遇とリップサービスだけでなく、せめてもう少し飴を奮発すべきでした。
 胡錦涛が訪中した連戦に提示して両者が「合意」したのは、ア 輸入関税の低減、イ 軍事対話の開始、ウ 台湾の外交的ステータスの向上、でしたが、これらは「一つの支那論」を陳水扁政権が飲む(=陳水扁政権が「独立」を断念する)か、国民党が台湾の政権に復帰することが条件であり、要するにカラ手形に過ぎません(注18)。

  • (注18)中共側が無条件で差し出した飴は二頭のパンダの贈呈くらいだ。しかし、さすがにはずかしいのか、この話を持ち出したのは中共主席の胡錦涛ではなく、台湾弁公室(中国共産党中央台湾工作弁公室/国務院台湾事務弁公室。Taiwan Affairs Office)主任の陳雲林(Chen Yunlin)だった。ちなみに、数年前にも同様の話が中共側からあったが、その時台湾政府は受け取りを拒否している(http://www.guardian.co.uk/china/story/0,7369,1475455,00.html。5月4日アクセス)

 これでは、国民党の中からも、落胆の声が出るのは当然です。
 (以上、特に断っていない限りhttp://news.ft.com/cms/s/85702204-b864-11d9-bc7c-00000e2511c8.html、及び(http://www.nytimes.com/2005/04/30/international/asia/30taiwan.html?ei=5094&en=ffa5b655f000cead&hp=&ex=1114833600&partner=homepage&pagewanted=print&position=(どちらも4月30日アクセス)による。)
 また、選挙で二度も台湾の人々の信任を得た台湾政府の総統を相手にせず、中共シンパの野党国民党の党首を国家元首待遇で接遇し、「合意」まで行う、という善玉悪玉峻別的アプローチを行ったことで、胡錦涛政権は、いかに民主主義の何たるかが分かっていないかを天下に晒しました(http://www.csmonitor.com/2005/0502/p08s03-comv.html?s=u。5月3日アクセス)。
 胡錦涛政権は、トウ小平亡き後、初めて生まれた純粋なポスト革命世代の政権ですが、胡錦涛や温家宝は、毛沢東・周恩来・トウ小平らの百戦錬磨の革命世代の強者達に比べると、戦略的手腕において月とすっぽんの違いがあることがこれではっきりしました。
 教育程度の低い農民が依然過半を占めるところの情報操作の容易な国民を支配する、という経験しか持ち合わせていない、純粋培養された党官僚であったところに、彼らの限界があった、ということでしょうか(CSモニター上掲)。

ウ 男を下げた連戦
 昨年の台湾総統選挙の際のTV討論で連戦は、「中華民国は主権を持った独立国家だ。われわれはこの国が中華人民共和国に加わったり、併合されたり、合併したりすることを許さない」と述べたものです(http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2005/05/06/2003253400。5月6日アクセス)。
 その連戦は、訪中を終えるにあたって、ワシントンポストのインタビューで、「本土」との統一問題について聞かれて、台湾は民主的な社会であり、様々な意見があって当然だ、としつつ、現在の台湾の民意の多数は現状維持ということであり、今は国民党としては、この民意に従わなければならない、と答えています(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/05/03/AR2005050301796_pf.html。5月4日アクセス)。
 後者では統一反対の姿勢がやや弱まっていますが、いずれにせよ、中共との統一に反対であるはずの連戦が、中共の台湾併合戦略に荷担することになることを承知の上で、台湾政府を出し抜いて訪中したこと自体が問題です。
 しかも、北京大学での講演において連戦が、統一反対を唱えるどころか、反国家分裂法についても、台湾の自由・民主主義についても一言も語らず、むしろ中共の推し進める漢人(中華)民族主義(コラム#690)への迎合発言を行ったことで、連戦はすっかり男を下げてしまいました(http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2005/05/08/2003253658。5月9日アクセス)。

(続)

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