太田述正コラム#718(2005.5.10)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(その14)>

 とりわけ、民進党の多くの議員を怒らせたのが、この講演の中で連戦が、台湾の「独立」派が、民主主義の導入を悪用して親中勢力と反中勢力、及び本省人と外省人の間の抗争を生んだ、と批判したことです。
 第三者に対して台湾の民主主義を貶めるとは何ごとか、というわけです。
 (以上、(http://www.nytimes.com/2005/05/01/international/asia/01taiwan.html?pagewanted=print&position=(5月1日アクセス)による。)

エ 台湾の世論に変化なし
4月29日に北京で胡錦涛・連戦会談が行われた直後の30日に三つの台湾の新聞が公表した世論調査によれば、連戦の訪中を評価する者が51%から60%を占め、陳水扁政権を慌てさせました(NYタイムス上掲)。
しかも、5月4日にある台湾の新聞が行った世論調査で、陳水扁総統がよくやっているとする者が34%、よくやっていないとする者が50%、という結果が5日に公表されたので大変なことになりました。何せ、同じ新聞が3月に行った世論調査では、よくやっているとする者が41%、よくやっていないとする者が37%だったのですから。(http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2005/05/06/2003253355。5月6日アクセス)
こういう結果が出たのは、中共による連戦の大歓待に一時的に目を眩まされたか、(台湾の新聞の大部分は国民党系であるところ、)調査方法そのものに問題があったのかどちらかでしょう。
 5月3日と4日に実施された、独立系のシンクタンクによる世論調査の結果が8日に公表されると、すべてが杞憂であったことがはっきりしました。
 すなわち、中共による連戦の招待は善意に基づくものとする者は40.9%であるのに対し、台湾世論の分裂を図るものとする者は45.2%に達しました。また、連戦が台湾の主権を擁護したかという問に対して然りと答えた者は28.9%にとどまったのに対し、否と答えた者は55.2%にのぼり、連戦が中共の台湾に対する軍事力による恫喝に抗議したとする者は16.2%に過ぎなかったのに対し、抗議しなかったとする者は66%もいたのです(http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2005/05/08/2003253654。5月9日アクセス)。
 結局連戦訪中は、台湾世論に何の変化ももたらさなかった、ということになります。

  オ 中共の「世論」にこそ変化あり
 連戦訪中の唯一の「成果」は、中共内の反体制派から連戦にエールが送られたことです。
 胡錦涛・連戦会談が行われた4月29日、錚々たる46名の反体制派が「中共における国民党支部設立申請」と題する公開書簡を連戦に送ったのです。
 その書簡は、孫文と国民党の業績を称えた上で、「台湾海峡を挟んだ双方の繁栄と平和を確保すべく、三民主義(Three Principles of the People)に則り、貴殿と国民党指導部の指導の下で努力したい<ので、>・・支那(China)各省に国民党支部の設立を申請したい。すみやかなる承認と回答を求める」と締めくくっています。
またこの書簡には、「われわれは貴殿と国民党中央常任委員会が、支那に信頼を寄せるとともに、その将来に期待を抱いて、支那に戻り、この国の民主政治の発展に寄与し、三民主義を再提起することで究極的には中国共産党と競い合えるようになることを希望する」というくだりもあります。
(以上、http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2005/05/08/2003253705(5月9日アクセス)による。)
 どうせ連戦は、この書簡を握りつぶすのでしょうが、彼と国民党は、まことに罪作りなことをしたものです。

 (3)「独立」派はどうすべきか
この間、陳水扁総統は、連戦に引き続いて中共を訪問する親民党主席の宋氏に胡錦涛宛の陳書簡を託すことにしたり(http://www.sankei.co.jp/news/050501/kok096.htm。5月2日アクセス)、中共との間で不測の事態による交戦が起こるのを防止するための信頼醸成措置を提案してみたり(http://www.nytimes.com/2005/05/02/international/asia/02taiwan.html?pagewanted=print&position=。5月3日アクセス)、逆に胡錦涛を台湾に招待してみたり(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-china4may04,1,3649732,print.story?coll=la-headlines-world。5月4日アクセス)、揺れ動く心中が推し量れるような、思いつき的対応を矢継ぎ早に行いました。
 陳水扁は、よほど連戦訪中によって自分がハシゴをはずされる形になることを恐れたと見えます。
 台湾建設同盟等、最右翼の「独立」派に至っては、この世の終わりのような周章狼狽ぶりでした。
 彼らには、日々成熟しつつある台湾の民主主義が信じられないとみえます。
 中共の台湾野党招待攻勢など、高見の見物を決め込んでおればいいのです。
 それよりも、懸案の米国の武器購入予算を通したり、台湾人アイデンティティーを醸成するための教育に更に力を入れたりするとともに、次の総統選挙で再度必ず「独立」派の総統を当選させ、とりわけ、次の総選挙で「独立」派による過半数奪取を図ることに、全力を傾注すべきなのです。

(続)