太田述正コラム#10329(2019.1.22)
<中華人民共和国憲法と軍(その1)>(2019.4.13公開)

1 始めに

 中共の日本文明総体継受に関連して、ふと気になって、私の言うところの「幕府」軍たる中共軍(人民解放軍)の中共憲法(注1)
http://www.togenkyo.net/modules/reference/28.html ※
上の位置付けを調べてみました。

 (注1)中共の現行憲法は、1982年に制定され、爾後、1988、1993、1999年、2004年、の4回修正されている。(上掲)

 というか、党軍なのですから、憲法上位置付けられていないことを確認したかったのです。
 調べるためにネット上でちょっとあたった限りでは、日本では中共の憲法が余り研究されていない、また、中共軍の法的研究はなおさら行われていない、という印象を、私は受けました。
 例えば、「中国においては天賦人権思想は否定されている・・・<。また、>中国においては権力分立制は民主集中制に矛盾する制度として否定されている。」
http://www.lec-jp.com/h-bunka/item/v4/wtr/china.html
という、重要かつ基本的な指摘がなされているものとして、司法試験予備校のLECの講師と思しき弁護士による論考くらいしかすぐには検索でヒットしない、という状況です。
 (これが中共当局の考え方であるとすれば、二つとも、我が意を得たり、ですけどね。)
 どうやら、依然として、日本の憲法学者達は、比較憲法の関心が、欧米、就中、米国憲法、の方にばかり向いているようです。
 とまれ、「1945年8月に設置された党中央軍事委員会は、中華人民共和国の建国により、政府機関である中央人民政府人民革命軍事委員会に接収された。1954年9月の憲法制定により中央人民政府人民革命軍事委員会が解体されて、国家機構である国防委員会と中国共産党の軍事機関である党中央軍事委員会が設置された。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B3%E6%AF%85
ということは、人民解放軍(中共軍)がこの間を除いて党軍であり続けていることを意味する、と、少し前に(コラム#10285で)指摘したところですが、党軍であることが、果たして、中共の現憲法の規定から言えるかどうかの確認、を私は試みた、いうことです。

2 中国共産党の位置付け

 さて、中共軍が党軍であるかどうかを確認する前に、まず、中国共産党の憲法上の位置づけを再確認しておく必要がある、と考えました。
 一般には、以下が通説です。↓

 「中国の憲法学者の多くは、<憲法に言う>「各政党」の中には当然、共産党も含まれると解釈しており、一見、共産党は憲法体制の枠内にあるかのようである。しかし他方、憲法前文に、「4つの基本原則」が規定されており、しかもこの原則の中核が「共産党の指導」の堅持であるがゆえに、共産党は、実質的に超憲法的存在となっている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95

 しかし、実態としてどうであれ、法解釈上、本当にそう言えるのかどうかについては、明治憲法や現行の日本国憲法と違って、中共建国後、体制変革があったわけでもないのに、現行憲法が4つ目の憲法・・1954、1975年、1978年、そして現行の1982年。1949年の「中国人民政治協商会議共同綱領」をカウントすれば5つ目の憲法
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95
・・である上、現行憲法についても「注1」から分かるように改正が頻繁に行われていることもあって、私としては、率直に申し上げて自信がない(注2)のですが、ここは目をつぶることにします。

 (注2)現行憲法上、中国共産党への言及がなされているのは前文の中においてだけであり、多めに引用すれば、以下のくだりが問題となる。↓
 前文:「・・・中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に、マルクス・レーニン主義、毛澤東思想、鄧小平理論及び”三つの代表”の重要思想に導かれて、人民民主独裁を堅持し、社会主義の道を堅持し、改革開放を堅持し、社会主義の各種制度を絶えず完備し、社会主義市場経済を発展させ、社会主義的民主主義を発展させ、社会主義的法制度を健全化し、自力更正及び刻苦奮闘につとめて、着実に工業、農業、国防及び科学技術の現代化を実現し、物質文明、政治文明および精神文明の調和のとれた発展を推進して、我が国を富強、民主的、かつ、文明的な社会主義国家として建設する。・・・
 長期の革命と建設の過程において、中国共産党の統率的指導のもとで、各民主党派と各人民団体が参加し、社会主義的勤労者、社会主義事業の建設者、社会主義を擁護する愛国者および祖国統一を擁護する愛国者のすべてを含む、広範な愛国統一戦線が結成されたが、この統一戦線は引き続き強固になり発展して行くであろう。・・・
 中国共産党指導の下における多党協力及び政治協商制度は長期にわたり存在し、発展するであろう。・・・
 全国の諸民族人民並びにすべての国家機関、武装力、政党、社会団体、企業及び事業組織は、いずれもこの憲法を活動の根本準則とし、かつ、この憲法の尊厳を守り、この憲法の実施を保障する責務を負わなければならない。・・・」
 第1章 総則:「・・・第5条4 すべての国家機関、武装力、政党、社会団体、企業及び事業組織は、この憲法及び法律を遵守しなければならない。この憲法及び法律に違反する一切の行為に対しては、その責任を追及しなければならない。
 いかなる組織又は個人も、この憲法及び法律に優越した特権を持つことはできない。・・・」(※)

 この通説を前提にすれば、中共憲法には規範性がない、ということになるのであって、日本文明総体継受を私見によれば図ってきているところの、中共当局は、日本の憲法(明治憲法と現行憲法)の規範性のなさもまた継受している、ということになるわけです。

(続く)