太田述正コラム#10393(2019.2.23)
<映画評論53:ラ・ラ・ランド(その5)>(2019.5.13公開)

 チャゼルにとって、ポリティカルコレクトネスは、自分の知名度アップのための手段でしかなかった、ということでしょう。
 満を持して、今度は、映画評論家達にも大衆にも受ける、商業映画を作った、というわけです。
 (但し、という話を、「4 終わりに」でします。)
 とはいえ、チャゼルは、ポリティカルコレクトネスへのリップサービスはこの映画でも忘れてはいません。
 彼は、(「注3」に掲げたYoutube映像をご覧いただきたいが、)この映画のオープニング場面には、白、黒、茶の多様なロサンゼルス住民達に歌い踊らせています。
 もっとも、その場面は長くはなく、白人である主人公の二人の出会いの場面に切り替わります。(D、及び、私自身の視聴)
 そして、もちろん、商業映画としてのこの映画のもう一つのウリが、ミュージカル映画であることです。
 この点について、この映画公開直後に急逝したところの、英国のある映画評論家が、かつて記したことが紹介されていました。
 「米国のスゴイところは、何か、古くて馴染みがあってしわくちゃの(wrinkled)ものを手にして、それを再包装することで、何か、新しくて、ワクワクする、滑らかなものににすることだ」。(E)

4 終わりに

 さて、『ラ・ラ・ランド』の大成功で、一躍、若くして巨匠の仲間入りを果たしたチャゼルの第4作は、現在、公開中の、私にとっては未見の『ファースト・マン』(2018年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%B3
です。
 この映画は、ユニバーサル映画ではあるものの、制作にチャゼル自身も関与している(上掲)ことと、彼が、主演に、前作と同じ、カナダ人のライアン・ゴズリング(上掲)(注9)を選んだ(上掲)ことに、米国とカナダの両国籍を持っているチャゼル(γ)の米国に対する辛辣なメッセージが込められている気が私にはしています。

 (注9)『ファースト・マン』主演後のインタビューで、ゴズリングは、「チャゼルの映画には、幼い頃の憧れや夢を思い起こさせてくれる魔法が宿っている気がする。それは彼のストーリーテラーとしての独特の手腕なんだろうね」と語っている。
https://www.asahi.com/articles/ASM214JLHM21UCVL00Y.html?iref=comtop_fbox_d1_02
(2月12日アクセス)

 つまり、この両作品は併せて鑑賞されるべきものであって、米国の世界史への貢献は、広義のクラシック音楽に対するところの、旧仏領のニューオーリンズの黒人達発祥のジャズ<(注10)>というジャンル/テイスト、の付加による豊饒化、と、1969年7月20日の月への人間の送り込み、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E9%9D%A2%E7%9D%80%E9%99%B8
という、科学技術力というよりは、移民科学技術者達の力を結集したシステム力の賜物である(典拠省略)ところの、ロケット技術、つまりは核ミサイル技術、の、ロシア(当時ソ連)に対する絶対的優位を見せつけたことでもって、その20年後の1989年の冷戦終焉、ひいては1991年のロシア解体(ソ連崩壊)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%B7%E6%88%A6
への時限爆弾を仕掛けたこと、のわずか2つだけではないのか、というメッセージが・・。

 (注10)「アフリカ・・・<就中、>西アフリカ、西サヘル(サハラ砂漠南縁に東西に延びる帯状の地域)・・・からアメリカ南部に連れてこられたアフリカからの移民(多くは奴隷として扱われた)とその子孫の・・・音楽<が>・・・ニューイングランドの宗教的な賛美歌やヨーロッパの軍隊音楽<の影響を受け>・・・ニュオーリンズ・・・に移住した黒人ミュージシャンによってジャズとしての進化を遂げたといわれている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%BA
 「ニューオーリンズ<は、>・・・英語名New Orleans・・・およびフランス語名La Nouvelle-Orléans・・・は、「新オルレアン」という意味でルイ15世の摂政オルレアン公フィリップ2世に因む。かつてはフランス領ルイジアナの首府であり、市内のフレンチ・クオーターと呼ばれる地区には、今なおフランス植民地帝国時代の雰囲気を残している。」
http://ysklog.net/tool/japanese-url-encode.html

 この映画に対して、「ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面に星条旗を立てるシーンが存在しないことが物議を醸した。また、・・・ゴズリング・・・が「アームストロングが成し遂げた偉業はアメリカの偉業ではなく人類の偉業だと思っています」と発言した<・・チャゼルがそう発言させた?(太田)・・>ため、アメリカの保守層の反感を買うことになった。ついには、マルコ・ルビオ上院議員が自身のTwitterで「これは全く以てふざけた話です。(中略)。アポロ計画に必要だった費用はアメリカ国民の血税で賄われました。宇宙船はアメリカ人の手で建造されましたし、アメリカ人が生み出した技術によって生み出されたものです。また、搭乗していた宇宙飛行士もアメリカ人です。アポロ計画は国連のミッションではありません。」とツイートするに至った」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%B3 前掲
と騒動が起ったのは、チャゼルが計算し、仕組んだ通りの展開であった、と、私は見ています。

(完)