太田述正コラム#8602005.9.10

<郵政解散の意味(補論)(続x7)>

 なかなか結論に到達しなくて申し訳ありませんが、もう少しおつきあい下さい。

 われわれが目にしている近代国家の国家機関は何のためにあるのでしょうか。

まず、王・大統領といった国家元首は、アングロサクソンならずとも、軍の最高司令官そのものであることは言うまでもありませんが、アングロサクソンの歴史に照らせば、議会は軍の最高司令官を承認ないし選出するとともに、軍隊を維持する経費や戦争の経費を国民に税金を課して確保する権限を軍最高司令官に付与するための機関であり、中央銀行は、軍最高司令官のために、戦費が足らなくなった暁に(戦債を引き受ける等によって)貨幣を増やして臨機応変に戦費を調達するための機関として生まれ、行政府は、軍事力を背景とした外交交渉の実施(=外交)、軍隊維持と戦争遂行(=軍務)、軍隊維持経費と戦争遂行経費の確保(=財務)、を行うところの、軍最高司令官の補佐機関として発展してきたのです(注17)(注18)。

(注17)コラム#128。以上のことを、きちんと典拠付きで説明するお約束はなかなか果たせそうもない。

 (注18)ワシントンを大統領とする最初の1989年の米連邦政府の閣僚は、国務(外務)・財務・軍務(War)の3名のsecretary(長官)とAttorney General(検事総長=司法長官)の4名だけだった(http://www.enchantedlearning.com/history/us/pres/washington/。9月9日アクセス)。

 このような背景があるからこそ、英米等のアングロサクソン諸国においては、軍隊や戦争以外のことに国家が関与することへの違和感があり、常に小さい政府への志向があるのです。

 ところで、アングロサクソンの世界を舞台にした侵攻・掠奪、その結果としての世界制覇は、一体どのようになしとげられたのでしょうか(注19)。

 (注19)本シリーズにおいては、単純化のため、アングロサクソンの中での英国と米国との区別や両国の抗争等は捨象して論じている場合が多いことに注意されたい。

 彼らは、原住民が少なくてかつ住みにくいところは、将来天然資源等を活用することを含みに先占(併合)宣言をし、原住民が少なくて住みやすいところは、植民しつつ「侵攻」する形で併合しました。

また、原住民が多いところでは開港をさせるか自ら港を建設して貿易や投資を行い、原住民を経済的に隷属させる形の「掠奪」を行いました。この場合、半植民地のままにしておいたケースもあれば、最終的に植民地にした(併合する)ケースもあります。

そして、以上はことごとく、軍事力を誇示ないし行使することによってなしとげられたのです。

ただし、西欧諸国や東欧諸国、更に中南米諸国(植民地であり続けたカリブ海諸国を除く)のように、準アングロサクソンと認めて、最初から対等の関係をとり結んだり、後に半植民地(隷属)状態から解放して対等の関係を取り結んだりした(1910年以降の)日本のようなケースもありました(注20)。

 (注20)アングロサクソンは、その植民地や半植民地に対して、アングロサクソンのイデオロギーである「経済学」の教えるところに従い、自由貿易を行い、自由に投資を行い、財産権を確立させた。(これに加えて植民地に対しては、小さな植民地政府で統治した。)

 他方、(アングロサクソンと張り合って植民地や半植民地を持った西欧諸国や日本以外の)独立国は、どの国もおおむね「経済学」に反する重商主義的政策をとった。

興味深いことに、独立国の方が植民地ないし半植民地より高い一人当たりGDP成長率を達成している。(GDP成長率をとっても基本的に同じ。)これは、アングロサクソンに経済的に隷属すると経済パーフォーマンスが低くなることを意味する。つまり、植民地や半植民地は「掠奪」(搾取)されていたということだ。

(以上、http://www.atimes.com/atimes/Global_Economy/FH18Dj01.html(8月17日アクセス)による。この典拠は、アングロサクソンの植民地や半植民地だけでなく、すべての列強の植民地や半植民地を一括して論じているが、アングロサクソンのシェアの圧倒的大きさを想起せよ。)

ただし、対等とは言っても、それは経済の分野に限った話であり、軍事においては、非アングロサクソン全ての軍事力を併せたよりも強力な軍事力を保持することによって世界的覇権の維持に努め、現在では、アングロサクソンに代わる覇権国の出現を決して許さないという方針を打ち出しています(注21)。

(注21)米ブッシュ政権は、2002年9月に発表した国家安全保障戦略(National Security Strategy)において、米国は強力になりつつある国を妨害(check)することにより、世界的なバランスオブパワーの中で支配的地位を維持する旨を宣言したが、ブッシュ政権によるイラク戦争等の予防的戦争(preemptive war)の実施を批判する米国内のリベラル勢力も、この宣言については何の異議申し立てもしていない(http://www.foreignpolicy.com/story/cms.php?story_id=2740&print=1。9月4日アクセス)

 アングロサクソンが、準アングロサクソンと認める対象国・地域が、先の大戦以降、次第に増えてきていることはご承知のとおりです。