太田述正コラム#10952006.2.26

<荒川さんの金メダル(その2)>

 (2)台湾

 台湾の台北タイムス(英字紙)は、本紙の20頁目にAP電をそのまま掲載しているだけで、同じ日の冬季オリンピック競技が紹介されている中で、冒頭に荒川さんの金メダルの話が出てくるだけです(http://www.taipeitimes.com/News/sport/archives/2006/02/25/2003294640。2月25日アクセス)。

 台北タイムスは台湾「独立」派寄りの新聞ですが、台湾の安全保障等にとって切っても切り離さない関係にある二大国たる日本と米国が、冬季オリンピック最大のイベントである女子フィギュアで金メダルを争ったというのに、そして日本で大ニュースになっているというのに、更に、アジアからの初めてのフィギュアでの金メダルだというのに、このようなベタ記事扱いとは、理解できません。

 急速に台湾の人々の意識の中から、日本の存在感が薄れつつあるのではないかという懸念を持たざるをえません。

 (3)中共

中共国営の新華社通信は、荒川さんの金メダル獲得を、「冬季五輪フィギュアスケートでアジアが初の金メダル」と伝え、フリースタイル男子エアリアルの韓暁鵬が中国にスキー競技初の金メダルをもたらしたことと併せ、「中日の選手が歴史をつくる」「すべてのアジア人が興奮した日」と、両国選手の大活躍を手放しでたたえ、更に、荒川さんについて「完ぺきに近い演技で、ロシアのフィギュア金メダル独占の夢を打ち破った」と記しました(http://inews.sports.msn.co.jp/torino2006/news/2006/02/24/20060224-39-1370.html。2月24日アクセス)

また、人民日報は、日本語電子版の1面で、「トリノ五輪は23日、フィギュアスケート女子の自由を行い、日本の荒川静香が金メダルに輝いた。トリノ五輪では日本選手初のメダル。フィギュア女子ではアジア選手初の金メダルで、長年にわたる欧米選手の独占状態を打ち破る快挙だ」と報じ、更に同じ1面で朝日新聞(Asahi.com)の記事を転載して補足する、という力の入れようです(http://j.peopledaily.com.cn/2006/02/24/jp20060224_57717.html、及びhttp://j.peopledaily.com.cn/2006/02/24/jp20060224_57732.html(どちらも2月25日アクセス))。

しかし、これが日本向けの単なるプロパガンダに過ぎないことは、北京語版の1面にも英語版の1面にも、どこにも荒川のあの字も登場しないことが如実に物語っています。

ここまで鉄面皮なプロパガンダに徹するとは、呆れて開いた口が塞がりません。

 (4)韓国

 私は、朝鮮日報が、韓国の新聞の中では、反日的トーンが比較的抑制されている点を評価してきたのですが、荒川さんの取り上げ方では、久しぶりにがっくりきました。

 まず、いつも私が読んでいる英語電子版では、全く黙殺されています。

 日本語版を調べて見たところ、ここですら1面には登場せず、スポーツ欄にようやく登場するというひどさです。

しかもそのスポーツ欄のメインはイチロー「舌禍」事件(注1)であり、荒川さんの記事については、項目が顔を覗かしているだけなのです(http://japanese.chosun.com/sports/。2月25日アクセス)。

 (注1)発端は、イチローが「今度のWBCで、戦った相手が“向こう30年は日本に手は出せないな”という感じで勝ちたいと思う」と語ったことだ。これを、「直接名指しこそしなかったものの、今度のWBCアジアラウンドの相手国が韓国、台湾、中国であることから、事実上、韓国に向けての発言と受取られる」と曲解したのだから恐れ入る。

この曲解を踏まえて、ありとあらゆる批判・あてこすりがイチローに対しなされている。面白いので、http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/22/20060222000037.htmlhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/23/20060223000033.htmlhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/24/20060224000042.htmlhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/24/20060224000043.htmlhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/24/20060224000037.htmlhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/25/20060225000014.html(いずれも2月25日アクセス)を読むことをお勧めする。

 その上、スポーツ欄の「今週のアクセス数」の多い方から15位までの中で、上位4位までを含め11はイチロー「舌禍」事件関係であり、荒川さんの話は2つだけ(5位と9位)で、残りの2つのうちの1つは、荒川さんが金メダルをとる前に上梓されたところの、日本の今冬季オリンピックの惨憺たる成績を好調の韓国と比較して溜飲を下げている記事なのです(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/24/20060224000006.html、及びhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/24/20060224000006.html(どちらも2月25日アクセス))(注2)(注3)。

 (注2)ちなみに、最後の1つは、韓国系米国人たる女子ゴルファーのミシェル・ウィーの記事だ。

 (注3)「31節(191931日に起きた31独立運動記念日)」を目前に控え、日本に対する感情が今更ながらに沸き起こる今日この頃、韓国のスポーツファンとしては日本の苦戦が特別なものとして受け止められるのは事実だ」とさ。

 しかも、荒川さんの記事自体が、首をかしげるような内容のものなのです。

「競技前まで「ノーメダル」で沈痛なムードに包まれていた日本は、冬季オリンピックの華、女子フィギュアで金メダルを獲得するという快挙でプライドを取り戻した。」(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/24/20060224000014.html。2月25日アクセス)と皮肉った上、荒川さんの2004年の世界選手権優勝の原因と今回の金メダルの原因をそれぞれ、それまでのコーエンのコーチと振り付け師に直前に教えを請うて、コーエンの「長所を自分のものにした」からだ、というのです(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/02/24/20060224000037.html。2月25日アクセス)。

4 感想

 福沢諭吉が「脱亜入欧」と言った頃と、状況は(「脱亜入欧米」と言い換えれば)全く変わっていないということを思い知らされますね(注4)。

 (注4)ただし米国でも、スレート(Slate。かつてマイクロソフトのメルマガだったが、ワシントンポストに売却された)のように、コーエンやスルツカヤを持ち上げ、荒川さんについて、「日本が金メダルをとったことは喜ぶべきことだが、荒川静香の演技は感動を与えるようなものではなかった(oddly unmoving)。また、彼女の衣装は不格好(oddly trapezoidal)だった。」とこきおろす、人種偏見としか言いようのない記事もあった(http://www.slate.com/id/2136860/nav/tap1/。2月25日アクセス)こと、そしてこれこそが米国人のホンネであろうことは、よくよく肝に銘じておこう。

(完)