太田述正コラム#11698(2020.12.5)
<2020.12.5東京オフ会次第(その1)>(2021.2.27公開)

1 「講演」原稿に即した話以前に行った話の概要

 いつも通り、オフ会の2週間くらい前に、今回も「講演」原稿の作成に着手したのですが、いつもと違って、使えそうな(インターネット上の)諸資料の抜き書きコピー集が半分くらいしか準備されていないことを「発見」し、愕然としました。
 しかも、予定を変えて、原稿冒頭部分にご紹介した説の話を追加し、その部分から書き始めたために、更に時間がひっ迫してしまったのです。
 その結果が、ご覧の原稿であり、重複を完全に排除することすらできず、論旨に(微妙なものが多いと思いますが)食い違いがある個所がなん箇所も生じてしまっていますが、どうかあしからず。
 さて、手前みそながら、聖徳太子コンセンサス/桓武天皇構想という補助線の切れ味は相当ある、と、今回の「講演」を準備する過程で改めて思いました。
 どういうことかというと、説が分かれているどの箇所でも、どの説が(形の上でですが)妥当なのかを判断する時、或いは全て妥当ではなく別の説をひねり出さなければならない時、容易に答えが出てきたからです。
 今回に関し、大きな例をあげれば、第一に、荘園公領制と荘園整理令の目的、意義について、最後の方で取り上げていますが、説はたくさんあれど、どれを読んでも頭がむしろ混乱してしまうのが、上述の補助線を使うと、簡単に整理ができてしまいました。
 第二に、今回、時代的には対象外なのですが、副産物的に『源氏物語』についての私の長年の疑問・・どうしていきなり大長編の傑作小説が日本に出現したのか、どうしてそれが単発で終わってしまったのか、・・が解けてしまったのには、我ながら驚きましたね。
 で、解くカギになったのが、上述の桓武天皇構想の実現過程に必然的に生ずると想像されたところの、権力の自主的不行使による無聊、と、不行使してきた権力を久しぶりに行使し続けなければならなくなった時のストレス、です。
 で、一条天皇に生じた前者がショートカット的に申し上げれば、私見では、同天皇をデフォルメした光源氏を主人公とする『源氏物語』を生み出したのですし、摂関家に生じた前者と白河上皇に生じた後者が桓武天皇構想の完結場面を、保元の乱、平治の乱、の形で不必要なまでに複雑化してしまった、ということになったわけです。
 不必要なまでに、というのは、清和源氏の嫡流の河内源氏の嫡流が、オウンゴールを連発することで、白河、鳥羽、後白河、という三代の、治天の君たる上皇達が河内源氏の嫡流の嫡男を武家総棟梁に指名するのを累次にわたって困難にしてしまったことが、この完結場面を複雑化させた根本原因だったからです。
 
2 2020.12.5東京オフ会次第

※順不同。Oは私です。

A:日本政府のコロナ対策は冴えないがどう思うか。
O:政府は脳死状態なので、あんなものだろう。
A:有能かつ良心的な官僚がまだいて、歯噛みしている、と、想像しているのだが。
O:官僚達も脳死状態であり、期待するだけムダだ。
 とにかく、私が現役だった頃には到底ありえないような、なさけなく、ひどい不祥事を官僚がやらかすようになっている。
 そんな官僚達の中に、まともに仕事ができる人物がまだいる、とは思えない。
 しかし、有事とはいえ、コロナ禍は、外敵が武力侵攻してきたような場合とは違って、内なる敵との戦いであり、(町会等を通じ)殆ど全国民・・しかもその大部分は人間主義者で、平均的な知的レベルも高い・・が統治に携わっている日本においては、中央が脳死状態でも、総体としては概ね適切な対処ができるし、現にできてきている、と、私は考えている。
A:それにしても、中央が脳死してしまった日本の行く末が心配だ。
O:米国の属国として、脳死する以前から、日本の行く末を心配することなく何とか戦後日本はやってこれたが、将来、中共の属国になった場合も同じことだろう。
 戦後においては、一貫して日本の行く末を考える主体は日本ではなかったのであって、これまで米国だったのが、中共に代わるわけだ。
 むしろ、中共の方が、米国よりもはるかに親身になって日本の行く末を考えてくれるのではないか、というのが私の希望的観測だ。
 蛇足的に申し上げれば、そもそも、日本が日本が、という発想はそろそろやめた方がいいのではないか。
 杉山元が、先の大戦は、日本のためというよりは、支那、そしてアジア、ひいては非欧米世界、究極的には世界全体、のために戦った、と、私が申し上げていることを想起して欲しい。
B:日本の政治学者や歴史学者は、世の中に知力が自分達に較べて隔絶した人間がいることを知らず、それが彼らのハンデになっている的なことを太田さんが書いたことがあるが、本当にそんな人間がいるのか。
O:仕事相手の官僚に、そういう人間が確かにいた。
 ごくわずかな断片的な情報だけで、全体を、しかも、深く、把握することが彼はできた。
 逆立ちしても、私の及ぶところではなかった。
B:杉山元もそういう人間だったのだな。
O:そうだ。
 彼は、長期海外滞在経験は、インド駐在武官時代のものしかないが、それだけでも、イギリスのことも、ひいては米国のことも、ほぼ完全に理解するに至っていただろう、と、私は見ている。

(続く)