太田述正コラム#12862006.6.9

<ザルカウィの死(その1)>

 (本篇は、6月10日に上梓しました。)

1 始めに

 米英のメディアはこの一両日、イラクにおけるアルカーイダ系テロリストの元締めであったザルカウィ(Abu Musab Zarqawi1966??2006年)の死の話題で持ちきりです。

 「戦争」をしている相手の巨頭を斃したのですから、分からないでもありません。

 他方、日本では比較的小さい扱いにとどまっています。

 そこで、米英のメディアの報道ぶりの一端をご紹介することにしましょう。

2 ザルカウィは即死ではなかった

 隠れ家に500ポンド爆弾を2個も落とされたにもかかわらず、地上部隊が踏み込んだ時にはザルカウィはまだ生きていた、という報道(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/06/09/AR2006060900473_pf.html。6月10日アクセス)に最初に接した時には首をかしげました。

 しかし、この記事を良く読むと、隠れ家の爆撃を行った米軍のF-16 2機は、イラクの幹線道路沿いに設置されている爆発物を探知するための通常の偵察任務に従事していたところ、突然命令が出て、隠れ家爆撃に赴いた、と書いてありました。

 そのため、この2機のF-16は、常時携行している500ポンド爆弾(注1)を1個ずつ投下したけれど、それらは汎用性の爆弾であって、人員殺傷用に特化した爆弾ではなかったため、ザルカウィは即死しなかった、ということのようです。

 (注1)使用された2個の爆弾は、GBU-12という606ポンドのレーザー誘導爆弾とGBU-38という552ポンドの衛星誘導爆弾だった。なぜどちらも500ポンド爆弾と呼ぶかというと、両者は500ポンドのMK82という爆弾に導火線・誘導システム・翼/尾翼等を付け加えたものだからだ。また、500ポンド爆弾とはいっても、爆薬は200ポンドだけであり、残りの300ポンドは鉄鋼製の外殻の重さであり、これによってこの爆弾は目標物を貫徹するとともに、破砕効果を生じる。なお、MK82TNTより強力な爆薬を使用しているので、1個の爆発威力はTNT240ポンドに相当する。(http://www.slate.com/id/2143302/。6月10日アクセス)

3 次はビンラディンか?

 次にはいよいよアルカーイダのリーダーのビンラディン(Osama bin Laden1957年??)か、と思いたいところですが、そうは問屋がおろさないようです。

 ザルカウィは、イラクの首都バグダッドからわずか30マイルの所に潜み、そこからテロ活動の陣頭指揮をとっていたのに対し、ビンラディンは、人影の稀なアフガニスタンとパキスタンの国境地帯に潜み、ほとんど活動らしい活動をしないでいるからです。

(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-binladen9jun09,1,122338,print.story?coll=la-headlines-world(6月10日アクセス)による。)

致命的だったのは、ビンラディンが彼に忠誠を尽くす住民達によって守られている(ロサンゼルスタイムス上掲)のに対し、ザルカウィはアルカーイダ系の中ですらお荷物になりつつあったことです。

というのは、ザルカウィ一味による、シーア派の一般住民を対象にした爆弾テロや、ザルカウィ自身が手を下したこともあるとされる、しばしばビデオ放映されてきたところの人質の首切り、というやり方は、シーア派はもとより、スンニ派の過激派の多くをも離間させつつあったからです(注2)。

(以上、特に断っていない限りhttp://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-brannan9jun09,0,1100800,print.story?coll=la-news-comment-opinions(6月10日アクセス)による。)

(注2)ビンラディンは、ザルカウィに比べるとはるかに「人道的」な人物だ。ビンラディンは9.11同時多発テロの首謀者だが、これは「敵国」の不特定多数の人々の大量殺戮を目的とした行為であり、蛮行には違いないけれども、米国だって日本への原爆投下という蛮行を行ったことを忘れてはなるまい。そのビンラディンは、特定の個人の暗殺にあたっては、子供が巻き添えにならないように配意するような人物なのだ。1991年にアルカーイダは当時のアフガニスタン国王(Zahir Shah)の(亡命先のローマでの)暗殺を試みたが、その時ビンラディンは、子供が巻き添えになるようだったら、決して手を出すな、という指示を出している(http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/HF10Ak01.html。6月10日アクセス)。

(続く)