太田述正コラム#12962006.6.14

<ザルカウィの死(その4)>

6 ブッシュのイラク訪問

 6月8日のザルカウィ死亡の直前に米国でAP通信が行った世論調査によれば、米国民の59%が米国はイラクに介入すべきではなかったと答え、ブッシュ大統領のイラク政策に肯定的評価を与える米国民は33%と今までの最低になりました(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-zarqawi8jun08,0,2787491,print.story。6月9日アクセス)。

 同じ6月8日には、ザルカウィ死亡が発表された直後に、これがはずみとなって(?)、マリキ(Nuri Kamal al-Maliki)がイラクの首相になってから3週間も経っていたのに、議会内各派の調整が難航して決まらなかった国防・内務・安全保障の各大臣の名前が発表され、39名の閣僚全員が揃いました(http://www.nytimes.com/2006/06/08/world/middleeast/08cnd-iraq.html?ei=5094&en=d6d9b3b68ae5cc4a&hp=&ex=1149825600&partner=homepage&pagewanted=print。6月9日アクセス)。

これで、ブッシュにとってのイラクでの当面の二大懸案事項が一挙に解決されたことになります。

そこで、ブッシュは6月13日に突然イラクを訪問し、マリキ政権激励方々、自分の人気の浮上を図ったのです。

この訪問がいかに極秘裏に行われたかが興味深いので、お話ししましょう。

6月12日には、米国の大統領用別荘のキャンプデービッドで、閣僚や大統領補佐官を集めたイラクに関する2日間の会議の1日目が開かれていたのですが、夕食後、その後の会議をブッシュは欠席して、安全保障担当補佐官らとイラクに向かったのです。この時点でブッシュのイラク訪問を知っていた閣僚は、副大統領・国務長官・国防長官の3人だけでした。ホワイトハウスに残留していたスタッフは誰もこのことを知りませんでした。

ブッシュはまずヘリコプター(注7)でアンドリュー空軍基地へ飛び、そこで、随行記者団(14名)(注8)を既に乗せて、ターミナルから見えないように格納庫の横に待機中であった大統領専用機(Air Force One)に乗り込み、2100過ぎにイラクに向けて飛び立ちました。

(注7)わざわざ、大統領専用ヘリコプター(海兵隊のMarine One)ではなく、目立たないヘリコプターを使用した。

(注8)彼らは、飛行機が出発する24時間前に、それぞれ自宅もしくは出かけた先のレストランや喫茶店でブッシュのイラク行きを知らされたが、固く口止めされ、出発当日は全員がバージニア州アーリントンのホテルに集められ、携帯電話等の通信手段を取り上げられた上で、裏道を通ってアンドリュー空軍基地に連れて行かれた。

イラク時間の1600過ぎに、その1時間前から閉鎖されていたバグダッド国際空港に大統領専用機が到着し、ブッシュは今度はブラックホーク・ヘリコプターに乗り換え、6分間の飛行で、グリーンゾーン内にある米国大使館近くのヘリポートに降り立ったのです(注9)。

(注9)ブッシュが初めてイラクを訪問したのは、200311月の感謝祭の日であり、この時は、バグダッド国際空港で、駐イラク米兵士達に七面鳥等を給仕して激励しただけでとんぼ返りした。今回は二度目の訪問、ということになる。

マリキ首相に、ブッシュがイラクに突然やってきたことが初めて伝えられたのはその時でした。

もともと、その時間に米キャンプデービッドと駐イラク米大使館をTV回線でつないだTV会議が開催されることになっており、大使館には、既にマリキ首相以下のイラク側閣僚・駐イラク米大使・駐イラク米軍司令官らが集まっていたのです。予定と違ったのは、キャンプデービッドで米側の閣僚らとともにこのTV会議に参加するはずだったブッシュと安全保障担当補佐官が、駐イラク大使館でこの会議に参加したことだけでした。

ブッシュはその後、マリキ首相との対談及び駐イラク米軍兵士達の激励を行い、イラクに都合6時間滞在した後、一泊するのは危険なので、その日のうちに、英国経由で米国に戻りました。

(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-061306bush,0,1712329,print.story?coll=la-home-headlineshttp://www.nytimes.com/2006/06/13/world/middleeast/12cnd-trip.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=printhttp://www.nytimes.com/2006/06/13/world/middleeast/13cnd-iraq.html?ei=5094&en=5129d14357181634&hp=&ex=1150257600&partner=homepage&pagewanted=print(いずれも6月14日アクセス)による。)

(続く)