太田述正コラム#1391(2006.8.29)
<果たして韓国は豊かさで日本を凌駕できるか(その2)>

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 読者から、ホームページの掲示板に次のような投稿がありました。
 「前近代に関しては、地域による経済格差はあまり無かったのでは?
 現代のように国や地域によって経済水準が大きく異なるようになったのは、18世紀の産業革命により、化石燃料に大きく依存した経済構造になることによって、化石燃料を上手く入手・取り込むかどうかで、経済水準に大きな格差が生じ始めた。
 前近代のように太陽エネルギーに依存した農耕社会経済では、国や地域によってさほど経済水準に差は生じなかった。太陽エネルギーというのは国や地域によって大差が無いからだ。
 そういうふうに考えると世界の経済循環が効率化することによって、化石燃料によって動く現代社会も、前近代のような太陽エネルギー(農耕)社会のように、経済水準が均一化してきているだと思う。
 韓国の経済水準が日米を追い抜くかどうかだが、韓国がつらいのは早老化現象だ。現代社会では、経済水準が高くなると総じて少子化現象が加速していく傾向にある。そういうふうに考えると、国全体や長期的視点で考えると、その国は成熟・衰退化していっているように思う。つまり、韓国の国力は、もうそろそろ頭打ちの傾向が強いということだ。
 その場合、韓国は日本以上に中国の人口・経済圧力を受けるようになる。中国の強みというのは、あの国の中には先進国のような地域もあれば、発展途上国のような地域があり、そこが新たな成長・人口供給地域になるということだ。
 そういうふうに考えた場合、経済水準が異様に高くなることが、長期的な視点で見て、国やその民族の成長にプラスばかりになるとは思えない。韓国の少子化は日本よりも激しく、しかも、国際結婚なども日本より激しく韓国のアイデンティティーを大きく揺るがすと思う。その場合、中国に隣接するあの地域は、中国の新たな吸収ターゲットになる可能性が高い。」

  「前近代・・産業革命以前・・に関しては、地域による経済格差はあまり無かったのでは?」
というご指摘は、基本的に正しいのですが、紀元元年時点では一人当たりGDPが最高のイタリアは453ドル、最低は南米一帯の400ドルだったので確かに経済格差はほとんど無かったものの、1500年時点になると、一人当たりGDPが最高のイタリアは1,100ドル、最低のブラジルは400ドルとかなりの経済格差が生じていた、ということが私の引用している資料(
http://www.sasi.group.shef.ac.uk/worldmapper/data/nomap/159_worldmapper_data.xls
、及び
http://www.sasi.group.shef.ac.uk/worldmapper/data/nomap/160_worldmapper_data.xls
)から分かります。地中海地域における奴隷利用と商品作物交易の発展が、このような経済格差をもたらしたということのようです(
http://www.sasi.group.shef.ac.uk/worldmapper/display.php?selected=160
)。
 少子化の影響については、私も懸念材料として紹介したところですが、この点を敷衍したこの読者の指摘には傾聴させるものがあります。
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 韓国では、購買力平価による一人当たりGDPの動向よりも、通常の為替レートによる(国全体の)GDPの動向の方により関心が集まっています。
 こちらに関しては、韓国は、一昨年にインドに世界第10位の地位を譲り渡したかと思ったら、昨年にはそれに引き続きブラジルに世界第11位の地位を譲り渡してしまい、世界第12位へと順位を落としてしまいました。しかも、現在13位のメキシコの経済は低迷しているものの、14位のロシアの経済は好調であり、このままではここ一両年でロシアとの逆転も考えられるのです(
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200608/200608280030.html
)。8月29日アクセス)。
 
3 私の見解

 それでは話を元に戻しましょう。
 購買力平価による一人当たりGDP、すなわち豊かさにおいて、韓国は2015年までに日本を凌駕することは本当にできるのでしょうか。
 結論から先に申し上げると、私は困難ではないか、という感じを持っています。
 その理由の第一は、韓国経済の日本経済への依存体質です。
 このところ、「韓国産業の日本への依存度が低くなっている一方で、日本産業の韓国への依存度が徐々に高くなって<おり、>・・韓日経済の依存関係は韓国の日本への一方的依存関係から相互依存関係に移行しつつある」(
http://www.igss.ynu.ac.jp/library/collection/thesis/2003/81.htm
)とはいうものの、今年の韓国の対日貿易赤字は史上最高となる見込みであり、今年前半の対日貿易赤字は、実に韓国の貿易黒字の1.8倍にも達する(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/08/14/20060814000001.html
。8月14日アクセス)ことに鑑みると、中間財等の面での韓国経済の日本経済への依存度は依然高い、という感は拭えません。
 このような日本経済への依存体質が、今後10年以内に解消するとは思えません。
 理由の第二は、第一ともオーバーラップするのですが、韓国が世界有数の知財輸入国であって、米国や日本に対し、知財面で大幅に依存関係にあることです。
 2002年のロイヤルティー/ライセンスフィーの純支払額を見ると、アイルランドの10,718(百万米ドル。以下同じ)、支那(中共2,981及び香港1,269)4,250に次いで、韓国は2,167と世界第3位の知財輸入大国です(注6)。(ちなみに、日本は599。)(
http://www.sasi.group.shef.ac.uk/worldmapper/data/nomap/100_worldmapper_data.xls

 (注6)ここでも、アイルランドと韓国が似たもの同士で登場するのは興味深い。

 知財創造中枢とも言うべき大学を見る限り、韓国の大学の国際評価は、世界大学ランキング百位以内に入る大学が一つもないという低さ(注7)(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/08/15/20060815000038.html
。8月16日アクセス)であり、韓国が知財輸入大国から脱するきざしは全くない(注8)と言わざるをえません(注9)。

 (注7)このランキングは、科学専門誌の「ネイチャー」や「サイエンス」に記載された論文数や社会科学論文引用指数であるSSCI、芸術及び人文科学論文引用指数であるA&HCIの数値、外国人教授と外国人学生数、学生対教授の比率、図書館の蔵書量などを基準に評価されたもの。ちなみに、ランキング1位は米ハーバード大学であり、日本もいばれたものではなく、16位の東京大学を始め、京都、大阪、東北、名古屋の5校しか100位以内に入っていない。中共からは0だが、香港からは2校、シンガポールからも2校が100位以内に入っている。
     なお、世界の大学の国際評価には、さまざまなやり方があるけれど、オックスフォードが1位になったり(コラム#1064)、ハーバードが1位になったり、といった違いはあるが、マクロ的にはおおむね同様のランキングが出てくる。
 (注8)そもそも韓国(朝鮮半島)の人々には、自然を観察することから始まる科学的探求心そのものが欠けているように見える。例えば、生物分類学は欧米では1500年代、日本では1800年代に始まったが、朝鮮半島では日本統治時代に始まり、いまだに(北朝鮮はもとよりだが、)韓国では脊椎動物以外、とりわけ昆虫の生態はほとんど明らかになっていない。(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/23/20060723000008.html
    。7月24日アクセス)
 (注9)朝鮮日報が、現在の韓国の課題のトップに「世界のトップ100校にも届かない韓国の大学教育」の改善を挙げている(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/08/23/20060823000053.html
。8月24日アクセス)ことに敬意を表しておきたい。もっとも、大学教育の改善は、日本にとっても最大の課題の一つであることは、私がかねてから(「on the job training・実学・学問」シリーズ(コラム#1059以下)等で力説しているところだ。

(完)