太田述正コラム#1407(2006.9.14)
<レバント紛争がもたらした大変化(その2)>

 駐米シリア大使が、シリア政府は米国との対話の用意があるとして、「シリアはあらゆる問題や焦眉の懸案事項を解決するためには対話が重要であると常に信じてきたのであり、この事件は両国の関係を改善するチャンスである」と述べたところを見ると、シリア政府は、あたかもこの種襲撃事件が起きるのを待ち構えていたかのようです(
http://www.nytimes.com/2006/09/13/world/middleeast/14syriacnd.html?ref=world&pagewanted=print
。9月14日アクセス)(注2)。

 (注2)その後、重傷を負っていた4番目の襲撃犯の死亡が発表された。シリア当局は、この襲撃犯から全く証言は引き出せなかったとしているが、米国務省は、この襲撃犯はシリア当局の捜査に協力的だったと言っており、仮に後者が正しいとすると、シリア当局がこの襲撃犯を殺害した可能性がある。そうなると、この襲撃の背後にシリア当局があったということになり、これは、シリア政府の米国との対話への希求には尋常ならざるものがあることを意味する。
     いずれにせよ、今月末までには出るはずの、ハリリ殺害事件に係る国連報告書において、バシャール・アサド・シリア大統領の関与が明記されるかどうかが注目される。

4 ハマスとの和解?

 挙国一致内閣組閣に係るファタとの合意に基づき、9月13日、パレスティナのハマス内閣の全閣僚は、ハニヤ首相に辞表を提出し、総辞職しました。次はハニヤ首相が辞職し、その上でアッバス議長の手で、再びハニヤ氏を首相とする、ただしハマス・ファタ・その他各派・学識経験者、からなる挙国一致内閣が組閣される予定です。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/09/13/AR2006091301204_pf.html。9月14日アクセス)
 英国以外のEU諸国は、かねてより挙国一致内閣さえできれば、パレスティナ当局への援助再開に前向きでしたが、このほど英国のブレア首相も前向きの姿勢を打ち出しました(注3)(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-uspal13sep13,1,6724171,print.story?coll=la-headlines-world
。9月14日アクセス)。

 (注3)ちなみに、英国のブレア政権は、イランの核問題についてもその他のEU諸国と足並みを揃え、イランの姿勢の変化を受けて、イランとの対話に前向きだ(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-uspal13sep13,1,6724171,print.story?coll=la-headlines-world
。9月14日アクセス)。

 ハマスは、(オスロ合意に基づいて設置されたパレスティナ当局の母体となった)PLO・・ハマスはそのメンバーではない・・がイスラエルの存続を認めたこれまでのイスラエル等との合意文書を受け入れて、この挙国一致内閣に加わることになったことから、これは、ハマス自身が事実上イスラエルの存続を認めたことを意味すると受け止められています。
 しかし、イスラエル政府は12日、改めて、それだけでは凍結しているパレスティナの関税収入の凍結解除(パレスティナ当局への引き渡し)や国際的経済制裁緩和支持はしないとし、暴力を放棄し、かつイスラエルの存続をはっきり認めることをハマスに促しています(注4)。しかもイスラエルは、この3条件に加えて、6月25日にパレスティナ過激派に拉致されたイスラエル兵1名の解放をも、条件にしています。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/09/12/AR2006091201405_pf.html(9月14日アクセス)による。)

 (注4)この3条件は、今年1月に、米・国連事務局・EU・露、によってハマス政府に突きつけられたものだ(ロサンゼルスタイムス上掲)。

 米国政府は、自分自身の対パレスティナ援助は再開しないものの、EUの援助再開については、黙認するのではないかと見られています。その場合米国政府は、基本的に1967年以前の境界線でイスラエルとパレスティナを仕切り、かかる領域を領土とするところのパレスティナ国家の成立に向けてのEUとパレスティナ当局(挙国一致内閣)の間の対話についても黙認することになるでしょう。(ロサンゼルスタイムス上掲)
 パレスティナに関しても、EUを介する形で、事実上米国とハマスとの和解が始まろうとしているのです。

(完)