太田述正コラム#1463(2006.10.23)
<日本の核武装をめぐって(その1)>

1 始めに

 北朝鮮の核実験をきっかけに、米国で日本が核武装するかどうか、議論が活発化しています。
 それぞれの代表的なものをご紹介した上で、私のコメントを付したいと思います。

2 日本は核武装する

 アリソン(Graham Allison)ハーバード大学教授は、米国と世界が北朝鮮の核武装を事実上黙認するようなことになれば、米国の核抑止力そのものの信頼性が低下するとし、そうなれば、10年以内には、被爆体験のある日本も、そして韓国も核武装国になるだろう、と述べています(
http://www.foreignpolicy.com/story/cms.php?story_id=3620&print=1
。10月21日アクセス)。
 この論考の載った米フォーリン・ポリシー誌電子版には、同誌編集部がまとめた、「次の核武装国リスト」という資料も掲載されており、筆頭に掲げられているのは日本です。 日本の後は、イラン・台湾・シリア・韓国と続きます。
 ちなみに、韓国については、「高度な民間核セクターを持ってはいるが、濃縮ウランや核兵器に使用できる品質のプルトニウムを生産する能力は多分有してはいない」と評しています。
 (以上、
http://www.foreignpolicy.com/story/cms.php?story_id=3616&print=1
(10月21日アクセス)による。

3 日本は核武装しない

 一方、米国の著名な安全保障研究所であるCSIS(The Center for Strategic and International Studies) の幹部のグロッサーマン(Brad Glosserman)は、日本は核武装しない、と言い切っています。
 彼は、10年も前に当時の羽田孜首相は、日本は核武装する能力を持っていると認めた(注1)が、日本には核武装の能力はあっても依然その意思はない、というのです。

 (注1)現在民主党代表である小沢一郎も、自由党党首の時代の2002年に、「われわれには原子力発電所に豊富なプルトニウムがあるので、3,000から4,000発の核爆弾をつくることができる」と述べたことがある(
http://www.atimes.com/atimes/Japan/HH16Dh02.html
。8月16日アクセス)。

 その理由としてグロッサーマンが挙げるのは、
 第一に、日本国民は相変わらず核をタブー視している点です。(彼は、いずれ世論調査でこのことははっきりするだろうとつけ加えています。)
 第二に、米国の核抑止力のおかげで、あの巨大なソ連の核戦力すら意に介さなかったのだから、ささやかな北朝鮮の核戦力ごときに憶するのはおかしいことに日本人が気付くはずだという点です。
 第三に、1990年代前半の第一次北朝鮮核危機の後で防衛庁で行われた研究が下した結論・・日本が核武装すれば、日本のイメージが悪化し、核不拡散条約を形骸化させ、地域の他の諸国の軍拡や核武装を引き起こし、もはや自主防衛ができるのだからと日米同盟の存続を危うくする反面、日本はその国土の狭さと人口の集中からして核攻撃に脆弱である(注2)ことから、核武装は日本の安全にほとんど寄与しない・・は今なお正しい、という点です。

 (注2)日本の核攻撃への脆弱性を強調するのが、アジアタイムス記者のクロウェル(Todd Crowell)だ。彼は、日本は中共に対し、相互確証破壊(MAD=mutual assured destruction) 戦略をとれないので核武装は無意味だとする。すなわち、日本は首都圏に3発、関西圏に2発核攻撃を受けたら終わりで、報復攻撃することもままならないのに対し、昨年中共の国防大学の国防研究所の所長(Zhu Chenghu 少将)が、台湾問題で米国を牽制して、「中共は西安以東のすべての都市を破壊されてもやむをえないと思っている」と言ったくらいであって、日本が5発核を打ち込んだくらいではほとんど痛痒を感じない、というのだ。クロウェルは、1981年に防衛庁が行った研究でも、日本が核武装してソ連との間で相互に核攻撃した場合、日本側は約2,500万人が死亡するが、ソ連の極東地域では約100万人しか死亡しない、という結果が出ていると指摘する。(アジアタイムス前掲)

 ただし、グロッサーマンは、米国の日本防衛へのコミットメントに疑問が生じた場合は別だと留保をつけています。
 しかし彼は、北朝鮮による核実験以降も日米両国政府が日米同盟の強化に努めてるいることからして、懸念の必要はなさそうだ、と締めくくっています。
(以上、特に断っていない限り
http://www.glocom.org/debates/20061012_gloss_straight/index.html
(10月22日アクセス)による。)

(続く)