太田述正コラム#0169(2003.10.13)
<イスラエルの核への米国の協力>

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 ロサンゼルスタイムスと(これを引用する形で)英オブザーバー紙に衝撃的な記事(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iznukes12oct12.storyhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iznukesgraphic12oct12,1,4401644.story及びhttp://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,1061399,00.html(いずれも10月12日アクセス))が載りました。
 イスラエルが潜水艦に核巡航ミサイルを装備しており、米国がこのことに「協力」しており、しかもその事実を米国とイスラエルの政府高官が認めた、という記事です。
 
 両紙の記事の内容を要約すると以下のとおりです。
 先週、ボルトン備管理担当米国防次官は、イスラエルは米国にとって脅威ではないので、その核装備計画を詮索するつもりはないと語った。
 その後、ボルトン次官以外の米国政府高官二名が以下のことを明らかにし、イスラエル政府高官一名もこれが事実であることを認めた。(この米国政府高官のうちの一人は、「我々は英国やフランスの核装備を認めているのと同じ理由でイスラエルの核装備を認めている。我々はイスラエルを脅威であるとはみなしていない」と語った。)
 イスラエルは、保有している潜水艦三隻に、核装備が可能、かつ陸上攻撃が可能で、射程も恐らく延伸されるように改造されたハープーン巡航ミサイル(本来は対艦ミサイル。米国も陸上攻撃用のハープーンを開発し、保有している(http://www.chinfo.navy.mil/navpalib/factfile/missiles/wep-harp.html。10月12日アクセス))を搭載しており、米国製のハープーンミサイルをこのように改造することについて、米国政府も同意していた。
 イスラエルが核装備をしており、米国製のF-15やF-16戦闘機が核爆弾を搭載し、あるいはイスラエル国産のジェリコ等の地対地ミサイルが核弾頭を搭載していることは公然の秘密だった。しかし、これら陸上に配備された核は、周辺イスラム諸国が長距離ミサイルを保有するようになった現在、先制攻撃をうければ破壊されてしまう恐れが出てきていた。
 しかし、核ミサイルを潜水艦に搭載すれば、これを攻撃して破壊することは困難(潜水艦探知能力が極めて弱体なイスラム諸国には不可能と言ってよい(太田))であり、イスラエルは有効な第二撃核能力を持ったことになる。
 米政府高官がこれを非公式に認めた意図は、イスラエルになお敵対的なシリアや、核開発疑惑のただ中のイランを牽制するためだが、むしろアラブ諸国やイランを硬化させる恐れがある。
 (文末の二つの参考を参照のこと。)

 日本の核政策を考えるにあたって、以上の意味するところは重大です。
 まず、日本は核燃料も、スーパーコンピューターも、F-15も、(F-16をベースにして日米共同開発した)F-2も、そしてハープーンミサイル(水上艦艇、潜水艦、及びP-3Cに搭載済み)、も持っているということです。
特に、すべてハープーン搭載可能な潜水艦を16隻も持っていることが重要です。(イスラエルはわずか三隻です。)これらの潜水艦に、対地攻撃が可能なように改修されたハープーンを搭載して北朝鮮や北京の領海すれすれから、更には対潜水艦能力の劣る両国の領海内に侵入し、このハープーンを発射すれば、北朝鮮の平壌はもとより、上海、天津等の中国の沿海都市、更には射程を若干延伸すれば北京や南京等を攻撃できます。核弾頭を核実験なしで開発し、このハープーンに核弾頭を装備すれば、それだけで日本は有効な核戦力を保有できることになるわけです。(英国は潜水艦搭載核戦力しか持っていないことを思い起こしてください。)
イスラエルでもできたことですから、数年もあれば日本にできないはずがありません。
しかも、米国はイスラエルによるハープーン改造とハープーンへの核弾頭装備に消極的に協力したのですから、日本にはこれを許さない、というオプションをとることは論理的にも道義的にも困難でしょう。同じ文明を共有する英国に対しては、米国は核装備(核搭載原子力潜水艦)を供与するという積極的協力をしていますが、消極的協力、しかも対イスラエル並の対応を求めるだけなのですから・・。
多分、北朝鮮も中国も、この記事を見てショックを受けているはずです。それも本件をリークした米政府高官達の意図するところでしょう。
時代はまことに急速に動いています。

<参考1:各国の保有核爆弾数>
ロシア  :8,232
米国   :7,068
中国   : 402
フランス : 348
イスラエル: 100??200前後
英国   : 185
インド  :  50??100
パキスタン:  50??100
北朝鮮  :  2??6(保有していない可能性もある)

<参考2:イスラエル核装備史>
1949年:フランスの協力の下にイスラエル、核装備計画に着手。ネゲブ砂漠でウラン鉱脈発見。
1956年:フランスの協力の下にネゲブ砂漠で原子炉建設着手。
1960年:米国、イスラエルが核装備を計画しているとの疑惑を持つ。
1961年:米ケネディ政権、イスラエル政府に核査察を承諾させ、数年にわたって査察を実施。しかし、イスラエルは核装備計画を隠し通し、米国をあざむくことに成功。
1965年:プルトニウムを初めて抽出。フランス、核装備可能なジェリコ地対地ミサイル開発への協力開始。
1967年:核爆弾二個の製造に成功。
1968年:米国、イスラエルの核装備を察知。
1969年:米ニクソン政権、核保有を公表しないとの条件の下、イスラエル政府に対し、核装備を黙認すると密約。その後、米国、核実験をシミュレートできるスーパーコンピューターを供与。
1975年:米国、核装備可能なランス地対地ミサイルを供与。その後、米国、核装備可能なF-15(行動半径2000マイル)、F-16戦闘機(行動半径1000マイル)を供与。
1981年:イスラエル、建設中のイラクの原子炉を空爆し、破壊。
1986年:英サンデータイムズ紙、イスラエルが核装備していることを暴露。
1987年:ジェリコ??地対地ミサイル(射程930マイル)の実写実験を行う。
1990年代中頃:ドイツにディーゼル潜水艦(ドルフィン級。行動半径数千マイル。一ヶ月間行動可能)三隻を発注。1999年と2000年に取得。
2000年:核装備可能でかつ対地攻撃が可能なように改修され、かつ射程も延伸された可能性のあるハープーンミサイル(射程80マイル超)を潜水艦から実射実験(於インド洋)。その後、潜水艦を核装備し、三隻中常に一隻はペルシャ湾に、もう一隻は地中海に配備。
2002年:この事実を暴露した本(カーネギー財団)が出版される。

<問い>
数ヶ月前のサンデープロジェクトで田原と森本教授で次のようなやり取りがありました。
田原「日本が核兵器開発をやるとして法律は考えないことにして技術的にどのくらいの期間で開発・配備できますか」
森本「そうですねぇー。最短で3ヶ月ぐらいかな」

如何なんでしょうか。
専門家によって様々な意見がありますが本当のところどうなんですか。

<答え>
  率直に言って森本さんの答えは間違いです。
 核「爆弾」をつくるだけなら、あるいは三ヶ月でもできるかもしれませんが、安全性に疑問があって、しかも重く、かさばり、国外に運び出す手段が輸送船か輸送機しかないようなものは核「兵器」とは言えないでしょう。
  物が物だけに何重にも安全措置を講じながら開発しなければならず、小型化した上で、しかも軍事的に意味のある運搬手段の確保もあわせ行わなければならないことから、核兵器の開発には、どんなに急いでも2??3年はかかると思います。