太田述正コラム#1469(2006.10.26)
<他民族統治のできない米国>

1 始めに

 英国出身のハーバード大学教授のニール・ファーガソンが、日本の過去の歴史の一断面を歪曲して取り上げることで、大英帝国瓦解という自分を含めた英国人一般のトラウマの解消を図っている、と私が考えるコラムを先般(コラム#1433で)ご紹介したばかりですが、今度は彼が英国人として、できそこないのアングロサクソンである米国(注1)をバッシングしていると私が考えるコラム(
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-ferguson24oct24,0,2375550.column?coll=la-opinion-center
。10月25日アクセス)をご紹介することにしましょう。
 (以下、2は、特に断っていない限り、上記コラムによる。)

 (注1)実は米国は、日本とは違った意味で、やはり大英帝国の瓦解に寄与した故意犯なのだ。そういう意味でも米国は英国人から見て、できそこないのアングロサクソンなのだ。

2 ファーガソンのコラムの要旨

 米国は、世界の人口の4.6%(
http://arkot.com/jinkou/
。10月26日アクセス)を占める3億人も人口があるのに、人口わずか2,600万人のイラクと3,100万人のアフガニスタンの統治に手こずっている。
 しかし思い出しても見よ。第一次世界大戦直前の時点で、英国(現在のアイルランドを含む)の人口は4,600万人で、世界人口の2.5%に過ぎなかったが、世界人口の五分の一以上にあたる3億7,500万人もの人々を統治していた。
 私は以前から、米帝国は英帝国ほど長く持続はできない、と言ってきた。
 その理由として、財政・通商赤字(financial deficit)、気配りの欠如(attention deficit)、が挙げられるが、一番決定的なのはマンパワーの欠如(manpower deficit)だ。
 2004年時点で、米国の現役軍人の総数は142万7,000人に過ぎないが、これは米国の刑務所の収容者総数の200万人よりはるかに少ないのであって、わずか人口の0.5%にも満たない。このうち五分の一しか海外におらず、うち17万1,000人がイラクに駐留していた。現在では、イラクに駐留する米軍兵力は14万人を切っている。
 この14万人という数は、1920年に、当時英国領であったイラクで起こった反乱を鎮圧するために派遣されていた英軍の兵力とほぼ同じだ。しかし、当時のイラクの人口は、現在の十分の一でしかなかった。
 ずっと以前から米国はこうだった。
 ちょうど100年前、現役軍人の数の人口比は、フランスが1.6%、ドイツが1.1%、英国が0.9%であったのに、米国は0.1%でしかなかった。
 当時の仏独英がそれぞれ帝国であったように、現在米国は帝国だが、現役軍人の人口比が0.5%未満では少なすぎるのだ。
 通常、帝国は、本国から統治者と植民者を輸出するものだ。
 ところが米国は反対に、毎年約150万人の移民を受け入れている。
 つまり米国は、人々を輸出することによってでなく輸入することによって拡大してきたというわけだ。
 これでは、イラクやアフガニスタンの統治がうまくいかないのは当たり前だ。

3 コメント

 このファーガソンのコラムは、現在の米国の一断面を歪曲して取り上げている、とは私は思いません。
 長年米国で暮らしてきたファーガソンは日本と違って米国は知悉していると考えられますし、日本について変なことを書いても日本人は何も言わないことが多いけれど、米国について変なことを書いたら米国人から袋だたきに遭うからです。もちろん、米国人には英国人に対するコンプレックスがあるので、袋だたきとは言っても、手加減はするでしょうが・・。
 彼は、このコラムでは、主としてマンパワーの話をしていますが、要するに彼の言っていることを私の言葉に直せば、米国は、カネを出し惜しみ、気配りが足らず、人手もかけないことから、他民族統治が度し難いほどヘタだ、ということであり、我が意を得たりという思いがします。