太田述正コラム#1547(2006.12.4)
<ポロニウム210をめぐって>

 (新規有料読者の申し込みがいまだにゼロです。
 他方、現在の有料読者の中には、長期にわたって配信コラムが宛先不明で戻ってきたり、私のミスでコラムの大部分が配信されなかったりしたにもかかわらず、全く私にコンタクトしようとされなかった方がおられること等から、有料読者として継続されない方が出てくるのは間違いないでしょう。
 情報屋台開店効果も今のところ全くありません。
 大事件がないために太田ブログ(と恐らく太田HP)への訪問者数が激減しており、また、無料コラムの削減宣言以来、無料読者が更に目減りしていることはやむをえないとしても、このままでは、有料読者までかなり減少した形で年末を迎える、ということになる恐れが大です。
 そうなった場合は、まことに残念ながら、私としては、2001年4月から掲げてきた「日本人の意識改革による日本の自立」という旗はおろし、年明けから太田述正コラムを完全有料制に移行させ、趣味と実益を兼ねて細く長くコラムを書きつづって行くつもりです。 (現在のホームページは閉鎖し、「まぐまぐ」と「E-Magazine」からは撤退することになります。)
 ただし、情報屋台に月2回程度コラムをアップロードしますので、情報屋台が無料一般公開されている間は、月2回程度、有料読者に配信するコラムの中に無料コラムが交じることになります。
 そうなことにならないよう、切に祈っています。
 とまれ、そうなった場合の無料読者への餞別も兼ねて、年末まで、無料コラムの割合を再び(少しですが)増やすことにします。)

1 始めに

 ポロニウム殺人事件をめぐっては、その後、殺されたリトヴィネンコと11月2日にロンドンの寿司バーで会ったイタリア人の男もポロニウム210を盛られていたことが判明したこと、また、リトヴィネンコの立ち寄り先のいくつかと、英国航空のロシア便のいくつかの機からポロニウム210が少量発見されたこと、更には、リトヴィネンコは相当のワルであること、は日本でも報道されており、ご存じのことと思います。
 この事件の米国での報道ぶりは、当然のことながら、英国のメディアとは違って、一歩引いた感じです。
 その中から、ニューヨークタイムスの二つの記事の要旨をご紹介しましょう。

1 ポロニウム210入手の容易性

 米国でありふれている静電気防止ブラシには、1個につき500マイクロキュリー(注)のポロニウム210が含まれている。 

 (注)1キュリー(Ci)とは、1秒間に370億個の原子核が崩壊している状態の「放射能の強さ」を指す。1キュリーの千分の一はミリキュリー(記号mCi)、ミリキュリーの千分の一はマイクロキュリー(記号μCi)、マイクロキュリーの千分の一はナノキュリー(記号nCi)、更にナノキュリーの千分の一はピコキュリー(記号pCi)と呼ばれる。
http://www.nsc.go.jp/hakusyo/S58/F1-1-1.htm。12月4日アクセス)

 ポロニウム210の致死量は3,000マイクロキュリーだとされているので、静電気防止ブラシ6個分のポロニウム210で人一人殺せることになる。
 静電気防止ブラシは、インターネットで33.99米ドル出せば1個買えるので、203.94米ドルプラス税金で6個、すなわち致死量のポロニウム210が手に入る。
 だから、ポロニウム殺人事件にロシアがからんでいる、とは必ずしも言えない。
 ただし、この種ポロニウム210の原産地は、ほとんどがロシアであることは確かだ。
米国は、月8グラム、年にして96グラム、ポロニウム210をロシアから輸入している。
(以上、
http://www.nytimes.com/2006/12/03/weekinreview/03broad.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
(12月4日アクセス)による。)

2 タバコとポロニウム

 タバコ1本には、0.04ピコキュリーのポロニウム210が含まれている。
 世界全体で毎年5兆7,000億本のタバコが吸われているので、四分の一キュリーのポロニウム210が吸われている計算になる。
 また、毎日タバコ1箱半を空にする人は、一年間にX線写真を300枚撮ったのに相当する放射線を浴びている勘定になる。
 もっともタバコには、タールやニコチンやシアン化物(cyanide)等、山のように有害物質が含まれているので、ポロニウム210だけを取り出して議論をしても始まらないかもしれない。
 何せ、20世紀には1億人がタバコのせいで命を落としたと推計されており、2020年には毎年1,000万人・・その三分の一は支那人・・がタバコで亡くなる、と予想されているのだから・・。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2006/12/01/opinion/01proctor.html?pagewanted=print
(12月2日アクセス)による。)

3 感想

 そんなにポロニウム210が簡単に手に入るのでは、ポロニウム殺人事件は、たとえ捜査にロシア当局の全面的な協力が得られたとしても、迷宮入りの可能性が大ですね。
 しかし、こんな効果的な殺人の新手法が知られてしまったことは恐ろしいとしか言いようがありません。
 誰かが、静電気防止ブラシからのポロニウム210の取り出し方や、集め方、運び方等をインターネット上で流すようなことがあれば、取り返しがつきません。
 市場から静電気防止ブラシを回収し廃棄したとしても、既に売られたブラシの回収・廃棄には限界がありますし、ポロニウム210はほかの製品、例えば一部の扇風機の羽にも使われているようです(最初に引用したNYタイムス)から、これらすべての製品を回収・廃棄することなど到底不可能でしょう。
 話は変わりますが、タバコをまだ飲んでいる方は、来年こそタバコを止めませんか。