太田述正コラム#1827(2007.6.22)
<安全保障をめぐる読者とのやりとり(続)>
1 始めに
 引き続き、バグってハニー(BH)さんとのやりとりを続けます。
 前回同様、BHさんのメールをぶつ切りにして私の回答を挿入させていただきました。
 本篇も即時公開します。
2 読者とのやりとり
<バグってハニー(BH)>
 いつの間にか「名誉」会員に格上げしていただいて、私もうれしいです。もちろん、継続させてください。
 <ホークについてですが、>すいません。私、2002年度版の話をしてたので、話が通じなかったみたいです。2002年度版以降ではホークはT.1Aを含めて戦闘用航空機にはカウントされてないです。ちなみに、航空自衛隊のT2は2003年度まで戦闘用航空機にカウントされた後、表記されなくなります。
<太田>
 分かりました。
 何せ、ミリバラだって再入手した2000~2001年版と2007年版以外は手元にない・・というか、およそ印刷情報は一切手元にないという状況なので、困ったものです。
<BH>
>ついでに言うと、なぜミリバラが、航空自衛隊のT2はすべて戦闘用航空機にカウントしているのにホークT1は戦闘用航空機にカウントしていないのかも私には謎です。
 それは、T.1Aを除くただのT.1は空対空ミサイルが積めないからで、そもそもホークは音速がでないからだろうとJSFさんは言ってますよねえ。逆に、T2はバルカン砲しかないのに戦闘用航空機に含まれるのは超音速だからじゃないでしょうか。
 私が見たのはウィキペディアだけで、まあ、先生の言いたいことはそれを英国政府の公文書など、客観的信頼性のある資料で裏付けろ、ということなのでしょうが。
 もちろんこの推量が正しいかどうかはIISSに聞かなきゃ分からないですが、何を根拠に戦闘用航空機にカウントするのかしないのか知らなければ両軍の比較ができないということはないと思うのです。
 要するに、正確な根拠がわからなくても、ミリタリーバランスが一定の基準を当てはめて戦闘用航空機を数えていることに変わりはないので、その数値を元にすればいいのではないかと。英空軍はニムロッドが含まれているのでそれは引いて、後は海軍の戦闘用航空機を足す。ただし、航空自衛隊は予備/保管機が含まれていないので、英軍も保管機は足さない。航空自衛隊はそのまま。このような比較方法には客観性が十分にあると思いますが。
<太田>
>正確な根拠がわからなくても、ミリタリーバランスが一定の基準を当てはめて戦闘用航空機を数えていることに変わりはないので、その数値を元にすればいいのではないか
 ここは同意です。
 拙著でも最初からそうすべきでした。
 そうするにあたって、予備機等については決着がついていますが、保管機の問題が残っています。
 軍事のみならず安全保障にも関心を持つBHさんが、保管機はカウントすべきでない、などと言い出すとがっくりきますね。
 前にも若干ご説明したと思いますが、なぜ英国に保管機があって日本にはないかをぜひご理解ください。
 自衛隊は戦う力を整備し維持することを国家・国民から求められていないところの、単なる米国向けの見せ金です。
 その論理的帰結として、大方の防衛官僚と大方の幹部自衛官とにとっては、装備の調達・維持は、もっぱら、自らの天下り後の給与確保のために防衛産業に国民のカネを横流しするための手段となっており、またこのうち大方の幹部自衛官にとっては、付随的には、高度な装備(オモチャ)で遊ぶ(訓練する)ための手段となっているのです。
 ここから、カネが足らなくなった時に、英国なら、まだ使える装備については極力、いつでも再使用できるような良い状態で保管しようとするのに対し、日本では、保管にはスペースが必要でスペースを確保するにも、またモスボールするためにもカネが多少はかかることから、新品の高度な装備の調達・維持を最優先し、まだ使える装備をどんどん廃棄してしまう、ということになりがちです。
 だからこそ、英国にはある保管機が日本にはないのです。
 また、見せ金の自衛隊ですから、当然予備役(予備自衛官)は現役の規模に比べて著しく少なく、たとえ保管機があっても、いざという時にそれに乗る予備役操縦士がいないので保管機を維持する意味がないし、更に言えばそもそも、いざという時に戦闘で失われる操縦士を補充することすら困難である、ということも覚えておいてよいでしょう。
 すなわち、保管機をカウントしないのだったら、予備役もカウントしてはいけないことになってしまうのです。
<BH>
 <最後に、>コラム#30と#58<について、>追加の質問です。
 米国はどのようなチャネルを用いてその戦略を自衛隊の装備に反映させるのですか。例えば、旧防衛庁で中期防を策定するときなど、米国の事務方との折衝があるのですか。それとも米国の意を汲んだ政治家が「P-3Cは50機調達と書け」とか指示するのですか。それとも、米国が何も言わずとも、米側の資料や論文を精査している人がいて、これは海上自衛隊に対潜能力をつけろということだ、とか相手の意を汲む人が旧防衛庁にいたのですか。米国が日本国民に気付かれないようにその戦略に自衛隊をどうやって巻き込んだのか、というのに興味があります。
 ドイツでは旧ソ連の中距離核ミサイルSS-20に対抗して米国のパーシングIIを導入する際に世論を二分する大論争になったそうです。
http://www.yukio-okamoto.com/article/paper/paper20061108.html
 他方、日本は国会で戦闘機から空中給油装置を取り外すかどうかとか、どうでもいいようなことを議論してたわけで。まあ、日本はその分、ドイツよりも平和だったのかもしれないですが。
<太田>
>米国はどのようなチャネルを用いてその戦略を自衛隊の装備に反映させるのですか。
 基本的に日本列島領域保全兵力でしかない自衛隊、しかもかかる兵力として一貫して過剰であった自衛隊に米国が防衛力整備面で積極的に注文をつけるようなことは、戦略情報収集面を除けば、つい最近始まったミサイル防衛面で注文をつけてくるまで、全くなかったと言ってよいでしょう。
 防衛庁が、陸海空自衛隊ごとにばらばらで相互に何の脈絡もない兵力で発足した自衛隊(コラム#58)について、(陸上自衛隊は若干事情が異なりますが、)それぞれ、発足時の種類別主要装備の数を絶対視して、それをその時々の米国の最新装備(輸入またはライセンス生産)で更新していく、という防衛力整備方式をとった以上、米国にしてみれば、何の不足もなかったからです。
 ただし米国は、日本が主要装備を国産化しようとすると必ず横やりを入れてきました。
 ちなみに、日本の防衛産業にとってより利益があがることから、防衛庁は、米国の反対を押し切って水上離発着対潜機のPS-1や輸送機のC-1や戦闘機のF-1を国産しましたが、いずれも、オモチャとしてすら使い物にならなかったことからすれば、米国の横やりは正当な横やりだったことになります。
>日本は国会で戦闘機から空中給油装置を取り外すかどうかとか、どうでもいいようなことを議論して<い>た
 どうでもいいことではありません。
 国会論議の結果、空中給油装置も爆撃照準装置も取り外すことになりました。
 その結果、高価で(当時としては)高度なファントム戦闘機は純粋なオモチャに近付いたわけです。
 これは、政府・与党が野党に押し切られたのではなく、政府・与党も野党も、自衛隊は見せ金に過ぎないという共通認識の下でなれ合ってきた、ということです。
>日本はその分、ドイツよりも平和だったのかもしれない
 当時のグローバルな米ソ間の抑止構造の下では、米国陣営の最前線に位置していた日独両国は、ほぼ同じレベルの平和を享受していた、というべきでしょう。
 日本の方が鈍感すぎたというだけのことです。