太田述正コラム#2018(2007.8.23)
<第3の性(その2)>(2007.9.26公開)
3 ブラジル性転換手術無料化へ
 8月15日、ブラジルの連邦裁判官達の委員会(panel)が、政府に対し、性転換手術を一般の疾病の治療同様無償で実施できるように30日以内に措置しなければならないとした上で、遅延すれば、毎日5,000米ドル相当の罰金を科すと決定しました。
 ちなみに、ブラジルでは、憲法上の権利として国民は医療を無料で受けることができることとされています。
 この決定に対し、ブラジル政府は、抗告しないことにしました。
 なお、誰に対して性転換手術を受ける資格を与えるかについては、地方ごとに保健担当官吏が決定すべきこととなりました。
 いずれにせよ、世界で初めて、ブラジルでは性転換手術を無料で受けることができることになったわけです。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-briefs18.s4aug18,1,5573105.story?coll=la-headlines-world  
(8月19日アクセス)による。)
 日本では、性転換手術はもちろん保険ではカバーされていないと思いますが、ブラジルは何と進んでいることでしょうか。
4 「性同一性障害」の原因論をめぐる米国での騒動
 しかし、この性転換手術の対象にもなるところの、性同一性障害の原因について、研究者の間でコンセンサスが成立している、というわけではなさそうです。
 米ノースウェスタン大学の心理学者のベイリー(J. Michael Bailey)が2003年の春に出版した本“The Man Who Would Be Queen”をめぐって米国で激しい議論が行われています。
 この本の中でベイリーは、男として生まれた人が女になろうとするのは、生物学的なミスマッチで男の体にくるまれた女性として生まれてしまったからであるとの通説に異論を唱え、女性になって行うセックスへのあこがれ(erotic fascination)からである、と主張したのです。
 
 爾来、通説を当然視する大部分の学者達や性同一性障害者達から、ベイリーは、非科学的謬見を唱えるものであってナチと同じだ、といった厳しい非難を受けています。
 ベイリーを支援している学者等も少数ながら存在するものの、ベイリーの説の支持を表明している人はほとんどおらず、もっぱら、批判者が学問的批判の域を超えた人格攻撃が行われていることへの懸念の表明にとどまっています。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2007/08/21/health/psychology/21gender.html?pagewanted=print  
(8月22日アクセス)による。)
 このような面については日本よりはるかに進んでいる米国においても、なおタブーが存在しているらしいことが分かりますね。
5 終わりに
 日本には、芸の上での異性装者、すなわち歌舞伎や大衆演劇の俳優たる女形が存在します。
 中には時々立役を行う女形の俳優がいますし、女形しかやらない俳優の中にも、日常生活は普通の男性として送る人と日常生活においても女性的な生活を送る人がいると承知しています。
 異性装者にしても、性同一性障害者にしても、第3の性の世界は奥行きが深そうですね。
(完)