太田述正コラム#2207(2007.12.1)
<バグってハニー氏久しぶりに登場(その1)>
<バグってハニー>
 初めに最近のコラムに対するコメントですけど、元航空自衛隊の小西俊博氏の記事(#2174)は匿名ではないですよ。先生と一緒で小西氏も落選後もメルマガ発行を続けて世論に訴えているようです。協力関係ができればいいですね。
 守屋一家、なんかすごいことになってますね。こういう記事をみつけたのですが…。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/m20071129030.html
 嶋口武彦経理局長というのは守屋氏が業者とねんごろになっていることを知ってたわけですよね。記者にこんな話をするということは、立ち話で注意しただけで「俺は守屋とは違う。ちゃんと責任を果たした正義漢だ」とか思い込んでいるわけで、そんなの実際に止めさせなきゃ意味がないですよ。内部告発が一切機能してないわけで、もう防衛省(庁)は救いようがないなあと思いました。
<太田>
>元航空自衛隊の小西俊博氏の記事(#2174)は匿名ではないですよ
 小西さんがサイト上で本名を明かしたのは、私がコラム#2174を上梓した14日直後の17日だと某記者から聞いています。
>こういう記事をみつけた
 私もこの記事読みました。
 ここまで防衛省の退廃・腐敗が進んだのには、これまで産経新聞が防衛庁(省)の提灯持ち的記事ばかりを書いてきたことにも一因があります。
 私が防衛庁批判をひっさげて選挙に出た時に、主要紙中、産経だけがこのことを記事にしなかったことにも、その提灯持ち的体質があらわれています。
 何を今さら、ということですよ。
 それに、産経はまだまだ、天下り問題に正面から切り込んでいません。
 今後同紙が、過去を反省し、心を入れ替えて政官業癒着構造についてどんな糾弾記事を書いていくのか、眉につばをつけながらも注目したいと思います。
<バグってハニー>
 それでは、気を取り直して。
 みなさま、あらためて初めまして。バグってハニーと申します。安全保障に関心があり、個人的にちょこちょこ調べています。その過程で太田コラムとも出会いました。太田先生のような専門家ではないのですが、ときどき寄稿させてもらっています。
 さて、太田先生は6年前、選挙対策をかねて『防衛庁再生宣言』という著書を著しまた。防衛庁(当時)・自衛隊が抱える様々な問題点を指摘する、一種の暴露本でしたが、その中で日本と似た環境にある英国との間で具体的数値を用いた戦力比較を行い、それを踏まえて自衛隊の戦力は見せ掛けだけで実質戦力はゼロに等しいという見解をぶち上げまた。さて、この当該箇所がネットの軍事コミュニティで紹介されると暴論だと猛反発され様々な訂正が出されたのですが、太田先生は再反論し、訂正をほとんど受けつかなかったために議論はエスカレート、旧太田掲示板がいわゆる「炎上」状態に陥り、やがて掲示板は閉鎖され、軍事愛好家たちは気力も失せてやむなく撤退、太田先生は一人で勝利宣言という事態に至りました。今から半年ほど前の話です(炎上する前の議論は以下で参照できます)。
http://mltr.free100.tv/faq05b.html#08007
 議論は多岐にわたるのですが、それをもう一度繰り返しても仕方ないし、数値もずいぶん古くなっているので、当時出された問題点を踏まえたうえで、最新の日英戦力比較を行ってみたいと思います。軍事力は様々な要因で決まるものであり、何か一つの数値を引っ張ってきて比較することにはほとんど意味がありません。逆に様々な数値を比較することによって、両国の戦力の違いを浮き彫りにしてみたいと思います。引用されている数値は、国際的権威である英国 IISSが発行するMilitary Balance(2007年版)からのものです。
 まず、国力比較(第9章と国別の情報を組み合わせたもの、等幅フォントで表示してください)。
日本 英国
年 2003 2004 2005 2006 2003 2004 2005 2006
GDP(兆US$) 4.59 4.56 2.23 2.43
一人当たり(US$) 35,849 34,410 37,042 40,233
国防費(十億US$) 42.8 45.2 43.9 41.1 43.3 50.1 51.7 55.1
一人当たり(US$) 337 355 345 322 721 832 855   909
対GDP比(%)   1.0 1.0 1.0 0.9 2.4 2.3 2.3 2.3
以下は2007年の数値。
人口(人) 127,463,244 60,609,457
総兵力(千人) 240 191
推定予備役(千人)42 199
パラミリタリー(千人)12 0
 英国は人口も経済規模も日本のだいたい半分という感じですね。英国は国民一人あたりで日本の倍以上の国防費を負担することによって、日本をやや上回る国防費を確保しています。
 総兵力では日本が上回っていますが、予備役は英国のほうが俄然多いですねえ。英国の予備役には常備軍で訓練中の者も含まれます。日本は三自衛隊の予備自衛官+陸上自衛隊の即応予備自衛官となっています。ちなみに、日本のパラミリタリー(準軍隊)というのは沿岸警備隊(海上保安庁)のことです。
 さて、ここから本題である各論に入ります。一応、陸海空の三部構成で(企画倒れになりませんように!)、初回は航空戦力(主に空軍)を比較してみたいと思います。『防衛庁再生宣言』には「日本の戦闘機の数は、英国の2.5分の1しかない」と書かれています。これに関して半年前に「戦闘機論争」とでも呼ぶべき議論が持ち上がり、その中で、『防衛庁再生宣言』は日英の戦闘機数を比較する上で英国を水増ししているのではないかという疑義が呈されました。具体的な水増し手段としては①戦闘機ではない機種もカウントされている②英国だけ保管機が足されている、というような問題点が指摘され、さらにそこから、そもそも「戦闘機」とは何なのか、といった根源的な問いにまで議論は拡散しました。『防衛庁再生宣言』は一般大衆向けに日本の安全保障が抱える問題を指摘する目的で書かれたわけで細かな定義は必要ではないとは思いますが、厳正な比較を行うためには何らかの一貫した基準を用いる必要があります。ミリタリー・バランスは装備も編成も様々な各国の軍隊を比較するという目的のもと編纂されているので、この点では大変便利です。
 「戦闘機」と聞いて「とにかく敵を攻撃できる飛行機」と思い浮かべる人は多いと思います。ミリタリー・バランスが定義する戦闘用航空機ないし作戦機(combat aircraft)はこのイメージと大変近く、対空・対地・対艦のいずれか、または複数の攻撃手段を擁する航空機、さらには練習機等ではあっても第一線に配備されている機種と同等の性能を有し、有事の際に速やかに実戦投入可能な機体が含まれます。そのような「戦闘機」は航空自衛隊は280機(内訳はF-15イーグル150機[うち20機は練習機]、三菱F-2 40機、F-4EJ(F-4E)ファントムII70 機、さらに偵察用のRF-EJ(RF-4E)ファントムII20機)となっています。
 一方の英国は、王立空軍は278機(内訳はタイフーン25機、トーネードF-3 75機、トーネードGR4 87?機、ジャギュアGR3/GR3A 12機、ハリアーGR7/7A/9 36機、さらに偵察用の トーネードGR4A 24機、ニムロッドMR-2 19機)となっています。2007年版の数値には予備機は含まれていませんが、固定翼対潜哨戒機(ニムロッド)は日本では海軍の所属になっているので除くことにします(対潜哨戒機の話は次回以降)。王立海軍はさらに31機(内訳はハリアーGR9A 26機、ハリアーT MK8 5?機)の戦闘用航空機を保有しています。合計は278(空軍)-19(ニムロッド)+31(海軍)=290機となります(?付きは表には明示されていないが論理的に導き出される数値)。
 戦闘用航空機対決は英国の勝ちですが、日本より10機多いだけですね。
 一方で、「戦闘機」という言葉に「もっぱら空中戦に特化した飛行機」というイメージを持つ人もいると思います。これに合致するミリタリー・バランスの定義は「戦闘機(fighter)」になります。狭義の戦闘機ですね。ややこしいので、本コラムでは制空戦闘機と呼ぶことにします。制空戦闘機の数は、日本が英国を凌駕しています。航空自衛隊は偵察機RF-EJ(RF-4E)を除いた260機であるのに対して、王立空軍にはタイフーン25機とトーネードF-3 75機の計100機しかありません。逆に言うと、日本には戦闘/対地攻撃機 (fighter ground attack)に相当する機種がありません。爆撃機、攻撃機など、英国のほうがバラエティに富んでいると言えます。ちなみに、ミリタリー・バランスでは多用途機(マルチロール)は配備時の任務に応じて分類されます。
 最後に、訓練時間の比較。『防衛庁再生宣言』には、「日本の戦闘機パイロットは、燃料費を節約するため(!)、英国の3分の2の時間しか訓練していない。」という記述がありますが、日本のほうが訓練時間が短いのは変わっていないようです。日本が年間150時間であるのに対して、英国はハリアー GR7で218時間、ジャギュアGR3で215時間、トーネードGR1/4で188時間、トーネードF-3で208時間となっています。
<太田>
 これはこれで大変結構であり、後編にも期待していますが、私のお願いしたつもりなのは、ミリバラ2000~2001をベースにした『防衛庁再生宣言』の日英比較箇所の表と本文の改訂です。
 もし、お時間があれば、こちらの方もよろしくお願いします。
 注文が多すぎる。5,000円まけてもらって名誉有料会員扱いにしてもらったくらいでは引き合わない?
 そうおっしゃらずに。
 何もなさらなくてよい、という破格の条件で来期も名誉有料会員扱いを続けさせていただきますので・・。
(続く)