太田述正コラム#2442(2008.3.23)
<台湾総統選挙>(2008.4.28公開)
1 始めに
 野党国民党の馬英九候補が与党民進党の謝長廷候補を、投票率76%で投じられた17,321,622有効票のうち7,658,724票、58.45%を獲得して破りました(
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2008/03/23/2003406725
。3月23日アクセス。以下同じ)。
 民進党は、2000年の総統選の時の得票率約40%に戻ってしまったことになります。もっとも、この時は国民党と国民党系の新党からそれぞれ候補者が立ったため、漁夫の利を得て民進党の陳水扁候補が当選しました。
 2004年の総統選の時は、陳水扁候補が、国民党候補との一騎打ちを50%ちょっとの得票率で制して再選を果たしました。
 この時、民進党にスイングした10%の得票率が今回元に戻ってしまった勘定です。
 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2008/03/23/2003406772
による。)
 コラム#2440で、この結果に密かに「中共当局は頭を抱えているのではないでしょうか」と申し上げましたね。
 この際、この点をもう少しご説明したいと思います。
2 中共当局が頭を抱える理由
 (1)これまで
 馬は、天安門事件での死者を慰霊する式典に毎年出席してきましたし、中共の法輪功(Falun Gong)に対するこの10年来の弾圧を非難するとともに、そのメンバーと面会してきました。中共を訪問する機会が何度もあったのに訪問しようとはしませんでした。
 (2)選挙中
 選挙期間中、馬は、これまで国民党は民進党による台湾防衛力強化の足を引っ張ってきたところ、防衛予算に台湾のGDPの3%を割り当てると宣言しました。
 また、中共が希望しているところの平和協定を締結する用意はあるが、それは中共が台湾向けに配備している約1,000基のミサイルを撤去することが大前提だと表明しました。
 (3)当選後
 当選後、馬は改めて中共のチベット騒擾弾圧を非難し、ダライラマが台湾を訪問したいのであればそれを歓迎すると述べ、ダライラマを「敬愛すべきチベット人の指導者である」と形容し、ダライラマの中共内でのチベットの自治要求を指示すると語ったのです。
 そして、チベットでのデモ参加者にする中国政府の鎮圧の状況などを調査すると表明。「チベットでの事態が悪化すれば、われわれは五輪に選手を派遣しない可能性も検討する」と述べるとともに、「中国が人権について行ってきたことを強く批判する」と語りました。
 また馬は、中華民国は「主権国家である」点でチベットとは法的地位が全く違うとも語っています。
 馬は再度、中共を近い将来に訪問する計画はないと述べ、実務的かつ実質的な交渉が積み上げられる前に首脳同士が会っても意味がないとしています。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2008/03/24/world/asia/24taiwan.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-taiwan23mar23,1,1339871,print.story
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-30953320080323?rpc=112
による。)
4 コメント
 朝日新聞は、本日付の社説で、「初の台湾出身の総統となった国民党の李登輝氏のもとで90年代、民主化が進んだ。8年前の選挙で、初めて野党民進党の陳水扁氏に総統の座を奪われた。その国民党の返り咲きである。かつての独裁政党から様変わりしているのはむろんだが、住民の間に拒否感がないわけではない。それが乗り越えられたところに、台湾政治の成熟を見て取ることができる。進化の歯車がまた一つ回った印象である。」(3月23日アクセス)と書いたが、私の認識はこの社説とほぼ同じです。
 (これに限らず、最近、朝日の社説が一皮むけたような印象を持っています。)
 韓国に続いて、台湾も、独裁制の母斑を残した「右派」政権から「左派」政権へ、更にリニューアルした「右派」政権へと政権交代を二度経験するに至りました。
 旧日本帝国の下で民主主義を日本本土から伝授された韓国と台湾の民主主義は、日本の民主主義が体制翼賛会体制及びその残滓の下で停滞を続けているうちに、完全に日本に追いついたばかりか、追い抜いた感すらあります。
 果たしてこれを喜ぶべきか悲しむべきか、複雑な感慨を覚える今日この頃です。