太田述正コラム#2574(2008.5.28)
<皆さんとディスカッション(続x147)>
<kaiware>
 コラム#2572でのご回答有難うございます。
 しかし、少々驚きました。
>給与カットを行うことには自ずから限界があるということです。
 一般職員の給与カットは僅か10%程度で、とても限界とは思えませんが。
 また、この程度の給与カットで転職者が続出するとも思えません。
 一部の大企業は別にして、雇用条件も含めて考えると、官の給与は民の2倍くらいあると思います。
 税収の不足分を増税で補うよりも、府職員の給与カットで賄う方が公平だと思いますが。
>有権者(納税者)の大部分が拍手喝采する財政再建なんて、そもそもおかしいと思いませんか?
 何故ですか?
 財政再建団体に陥らずに済む見通しが立ったのですよ。
 行政に閉塞感や絶望感を感じていた府民は、知事が府の財政状況をオープンにし従来の非合理な慣行にメスを入れようとする姿勢を支持したのだと思いますが。
<読者A>
>有権者(納税者)の大部分が拍手喝采する財政再建なんて、そもそもおかしいと思いませんか?
 喝采がでるのは当たり前だと思いますよ。
 そもそも一般国民の所得は上がっておらず400万円代の所、大阪府は管理職で一千万、非管理でも600万円代なわけですから。
 税金を払ってる側としてはそう思います。
 大阪府は実のところ、それほど財政が悪いわけではないです。
 長野県とかもっと酷いところがあります。
 ですから、これをきっかけとしてあちこちで必ず公務員の給与を削減する動きが出てくる。
 結果としてラスパイレス指数についても相対的に差は縮まっていくと思いますが。
<太田>
 ラスパイレス指数は、地方公務員の給与水準を国家公務員と比較したものです。
 国家公務員の場合、民間準拠で給与水準が設定されることになっています。
 つまり、恣意的に上げ下げができないようになっているわけです。これは国家公務員が労働三権を制限されていることの代償措置であることはご存じだと思います。
 もちろん、民間準拠の算定式そのものを変えることで給与水準を上下させることができないわけではありませんが・・。
 いずれにせよ、大切なのは、(同様労働三権が制限されている)地方公務員の場合も、客観的基準に基づいて給与水準が設定されることであり、恣意的に給与水準を上下させないことです。
 ところが、大阪府の職員の給与水準の算定式がこれまでどうなっていて、それを橋下氏が、いかなる根拠に基づきどう変えようとしているのか、という話はさっぱり聞こえてきません。
 そうではなくて、あくまでも緊急避難的に給与水準を下げるのだというのであれば、期限を設定すべきでしょうが、そんな話も聞こえてはきません。
 恣意的、かつ恒久的に給与水準を下げられた上、将来また同じことが繰り返される懼れすらあるとなると、短期的にはともかく、中長期的には、大阪府の職員の質が民間や他府県に比べて相対的に低下することは避けられません。
 大阪府の場合、(職員の大部分を占めているところの)教職員や警察職員が過剰であるということではなさそうですから、やや乱暴に申し上げれば、橋下氏は、中長期的に大阪府の教職員や警察職員の質が落ちてもよい、つまりはその分大阪府の公教育の質や治安状況が悪化してもよいと判断しているということになるはずですが、大阪の府民の皆さん、そして大阪府警職員に関しては、関西圏、ひいては全国の市民の皆さんも、覚悟はできているのでしょうね。
<太田>
 ミャンマーと四川省の大災害の影に隠れてしまっているいくつかの話題をご紹介しておきます。
 
 世界中で食糧価格高騰が問題になっています。
 コラム#2573(未公開)で、ガーディアンを引用しつつ、エジプトのある家庭の食費が一年前に比べてどんなに嵩むようになったかご披露しましたが、ガーディアンは今度はフィリピンのある家庭をとりあげています(
http://www.guardian.co.uk/environment/2008/may/28/food.philippines
。6月28日アクセス)。
 容易ならぬ事態が(天然資源のない)発展途上国を襲っています。
 本日(5月28日)、240年続いたネパールの王政(シャー王朝=Shah dynasty)が廃止されます。
 ことここに至ったのは、ネパール最後の国王となったギャネンドラ(Gyanendra)とその長男(皇太子)であるパラス(Paras)の身から出た錆です。
 2001年にギャネンドラの兄のビレンドラ(Birendra)一家がその皇太子(自殺)によって殺されたため、チェーンスモーカーで豪奢な生活を好み、傲慢なギャネンドラが後を継いだのですが、毛沢東主義者達の叛乱が続いていた中、彼は2002年に議会を解散し、2005年には絶対君主制に戻してしまいました。
 しかし2006年には、首都カトマンズ等で叛徒と諸政党が手を組んで連日デモが行われた結果、ギャネンドラは議会を復活させることを余儀なくされます。
 ここで、側近がギャネンドラに、いくつかの宮殿を病院や学校にすることでイメージアップを図るよう進言したのですが、それに耳を貸すどころか、ギャネンドラは36万5,000ポンドもするダイムラーのリムジンを購入したというのです。
 ネパールの一人当たり国民所得は世界でビリから12番目ですから、どんな目でネパールの人々がこれを見ていたのか想像がつきますね。
 皇太子のパラスはパラスで、連日カトマンズでパーティにあけくれ、常に銃を携行し、人気歌手を銃で射殺したけれどお咎めなしだったと噂されています。これまた側近が軍に入れて軍事教練を施すことでパラスを立ち直らせようとしたものの、パラスは碌に訓練に顔を見せなかったとされます。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/may/28/nepal
(6月28日アクセス)による。)
 何度も繰り返しますが、日本で天皇制がかくも長期にわたって続いてきたのは、歴代の天皇や有力親王達が決してネパールの国王や2人の皇太子のような愚行を犯さなかったからですが、それがいかに奇跡的なことであったか、と改めて痛感させられますね。
 先週末にかけて、ロシアの新大統領のメドヴェージェフ(Dmitri Medvedev)が初訪中し、胡錦涛主席と会談を行いましたが、米国の欧州と東アジアにおけるミサイル防衛計画を非難した以外は、ロシアからウランを10億ドル輸入することが決まっただけで、肝腎の石油や天然ガスの輸入については何も決まりませんでした。
 米タイム誌は、これは中共がロシアを基本的に信用していないからだ、中共はむしろ米国が湾岸に駐留して守ってくれているところの中東から石油や天然ガスを輸入することの方を好んでいる、との記事を掲げています。
 (以上、
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1809632,00.html  
(5月28日アクセス)による。)
 中露(中ソ)が共に共産主義体制の時も、共にファシスト体制となった現在も、両者の対立関係に変化はなさそうです。
 ホッ!
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太田述正コラム#2575(2008.5.28)
<中共体制崩壊の始まり?(続々)(その1)>
→非公開