太田述正コラム#13928(2023.12.24)
<映画評論102:赤と白とロイヤルブルー>(2024.3.20公開)

1 始めに

 「『赤と白とロイヤルブルー』(・・・Red, White & Royal Blue)は2023年の・・・のロマンティック・コメディ<米>映画。<脚本・>監督はマシュー・ロペス。ケイシー・マクイストンによる2019年の同名の小説が原作で、テイラー・ザカー・ペレス演じる<米>大統領の息子とニコラス・ガリツィン演じるイギリスの王子が恋に落ちる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E3%81%A8%E7%99%BD%E3%81%A8%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC

2 本題

 上掲には反響が書いてありませんが、英語ウィキペディアには辛口の反響ばかりがいくつか載せられている
https://en.wikipedia.org/wiki/Red,White%26_Royal_Blue_(film)
ところ、その中で、最も核心をついていると私が思う、英米をステレオタイプ的に対置させている、ということを指摘しているBBCの映画評も、具体的には、’British people are uptight. And Americans? They’re loud and obnoxious! Groundbreaking. ‘との些末な点の指摘
https://www.bbc.com/culture/article/20230809-red-white-royal-blue-is-a-royal-disappointment
にとどまっています。
 それより、はるかに重大なのは、両国元首のゲイに対する姿勢がステレオタイプ的に対置されている点です。
 ソドミー(Sodomy)、就中ゲイについては、それに対する禁忌がユダヤ教に由来するものであると断定することはできないようです
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%89%E3%83%9F%E3%83%BC
が、「約聖書ではソドミーを批難する記述がある<ことから、>・・・<イギリスで>ヘンリー8世<によって> “buggery” (男女を問わず、肛門性交全般および獣姦)を犯罪化する最初の犯罪法『Buggery Act 1533』<が>制定<され、それが仏独に普及すると共に、全世界の、米国、インド、イスラエル等を含むイギリスの植民地群において適用され、それぞれの独立後も維持された。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%89%E3%83%9F%E3%83%BC%E6%B3%95
という経緯があります。
 (なお、「イスラム教国ではイスラム法の規定によるソドミー罪があり、・・・刑罰が過酷でイラン、サウジアラビア、アフガニスタンなど現在でも死刑が科される国がある」(上掲)ことを併せ勘案すると、ソドミーがユダヤ教に由来するものである可能性が強く推認されます。)
 私が何を言いたいかというと、英国では、「成人男性間の性交渉について1967年の<イギリス>およびウェールズでは合法とされ、スコットランドでは1980年に、北アイルランドでは1982年にそれぞれ合法となった。<英>王室属領のガーンジーは1983年に、ジャージーは1990年に、マン島は1992年に同様となった。」(上掲)のに対して、米国では、「裁判判決によって2002年時点で36州が全てのソドミー法を撤廃している。残る州のソドミー法については2003年のローレンス対テキサス州裁判にて<米>最高裁が無効の判決を下している。これに伴い、民間におけるソドミー法の有罪例は1998年が最後のものとなった。」(上掲)というのですから、ソドミーの撤廃時期は英国が米国にはるかに先んじていたところ、にもかかわらず、この映画で、ソドミーに対する英王室・・英国と言っていいでしょう・・の頭の固さが、「リベラル」な米大統領(しかも女性大統領!)・・米国と言っていいでしょう・・と対比する形で描かれているのはおかしいじゃないの、ということです。
 思うに、それは、原作者のケイシー・マクイストン(Casey McQuiston)(女性)が、ルイジアナ州立大(注)卒、
https://en.wikipedia.org/wiki/Casey_McQuiston
脚本・監督のマシュー・ロペス(Matthew López)は無学歴らしい、
https://en.wikipedia.org/wiki/Matthew_L%C3%B3pez_(writer)
と、どちらもインテリとは必ずしも言い難い人々であることから、英国は保守的で米国はリベラル、だからこそ米国は英国から独立した、といった噴飯物の「神話」を信じきっていて、この「神話」に合致したストーリーをでっち上げたからなのでしょう。

 (注)「ルイジアナ州立大学は米国総合大学(National Universities)ランキングで124位にランクされて<いる。>」
https://blogjapan.collegetuitioncompare.com/2018/04/louisiana-state-university-and-agricultural-and-mechanical-college.html