太田述正コラム#13930(2023.12.25)
<映画評論103:ノクターナル・アニマルズ>(2024.3.21公開)

1 始めに

 「ノクターナル・アニマルズ』(Nocturnal Animals)は、2016年の<米>国のドラマ・スリラー映画。監督・脚本はトム・フォード、出演はエイミー・アダムス、ジェイク・ジレンホール、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソン、アイラ・フィッシャー、アーミー・ハマー、ローラ・リニーなど。オースティン・ライトの1993年の小説『ミステリ原稿』<(注)>を原作としている。

 (注)Tony and Susan(1993年出版)。
https://en.wikipedia.org/wiki/Tony_and_Susan α

 日本でのソフト発売の際のタイトルは『ノクターナル・アニマルズ/夜の獣たち』。・・・
 第73回ヴェネツィア国際映画祭ではコンペティション部門で金獅子賞を争い、審査員大賞を獲得した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%BA
 なお、トム・フォード(Tom Ford)は、ニューヨークのニュースクール(The New School)で服飾と建築を学び、建築学士として卒業して、その後、一流のファッション・デザイナーとして活躍する一方で映画監督も手掛けてきたところの、ゲイの人物です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Tom_Ford
 また、オースティン・ライト(Austin Wright。1922~2003年)は、ハーヴァード大卒、シカゴ大修士・博士でシンシナティ大の英語学科教授を40年近く勤めた、という人物です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Austin_Wright

2 本題

 ガーディアンの女性映画評氏は、この映画が好評なのはおかしい、とし、
“Why all these raves and prizes for a piece of gynophobic death-porn?”
https://en.wikipedia.org/wiki/Nocturnal_Animals
https://www.theguardian.com/commentisfree/2017/jan/22/nocturnal-animal-film-rape-murder-repulsive
と、こき下ろしていますが、脚本のストーリーが原作を基本的に忠実になぞったものである以上、これは書評ではあっても映画評とは言えないでしょう。
 (ちなみに、原作は、NYタイムス等で絶賛されています。(α)
 αにストーリーが載っていますし、原作の邦訳の感想・レビューも見ることができ、そこからもある程度ストーリーが分かります。
https://bookmeter.com/books/939999 )
 で、私自身ですが、好評の映画評群には目を通していないものの、高評価も低評価も与えないけれど、中途半端なところで終わってしまうことから、映画の結末がどうなるのかを考えさせるところの、余韻を残す映画ではある、と思いました。
 こうして、考えた結果の私の一応の結論は、これは、元夫による元妻への徹底的な復讐劇である、というものです。
 元夫が元妻に送り付けてきたミステリー小説の原稿では、元妻と二人の間にできた少女が強姦され殺害されるところ、少女の汚辱死は、浮気中の元妻が元夫に無断で妊娠中絶をした元妻への間接的な復讐であり、元妻の汚辱死についても、元夫によるところの、自分を裏切り捨て去った元妻に対する直接的な復讐である、と。
 そして、元夫は、元妻が、一貫して自分を愛していることも、かつまた、現在の浮気をしている夫から心が離れていることも(探偵でも雇うことによって)、知っていて、このミステリー小説を逆説的なラブレターとして送り、これを読めば元妻の自分への愛情が燃え上がるであろうことも見通していて、元妻に会いたいとミステリー小説の送り状に書いておけば彼女は自分に会いに来るだろうが、その前に自殺する・・映画/原作ではミステリー小説の中で元夫は事故死する・・ことによって、元妻をすっぽかし・・映画はここまで・・、まだ目が覚めない元妻が、(これが恋愛のじらしゲームだと誤解して、それに対抗するじらし的の)手紙を元夫に送る・・原作・・けれど、やがて、元妻は元夫が自殺したことを知って絶望的悲嘆にくれるのは必定であり、ここに徹底的な復讐が成就する、と。