太田述正コラム#2978(2008.12.17)
<皆さんとディスカッション(続x338)>
<Nelson>
–防衛大学校校長 五百籏頭 真氏(12月9日NHKのクローズアップ現代の放送を見ての感想)–
 12月9日NHKのクローズアップ現代の放送(
http://jp.youtube.com/watch?v=o1jveFmx3yc&feature=related
)で、タイの士官学校留学から帰ってきた防大生は、氏から感想を求められて、
「タイ王国の士官候補生は、国防の意識について、国を守ることが前提ではなく、国王を守るために国を守ると語っていた。そしてそのことから、タイ王国の士官候補生の軍人としての明確な目的意識と誇りを強く感じることができました」、「(タイ王国の士官候補生のように)我々防大生も国を守ることに誇りをもって、生活なり勉強なりをする必要があると感じました」
と言ったところ、氏は、国を守ることを重視するのは戦前の士官候補生もそうだったわけで結果視野狭小となり軍部は暴走したので、現在の防大生は「広い視野」をもつべきだと述べた。
 私はこのやり取りを見て、まず、日本の防大生は何のために国を守るのかということが不明確でありはっきりわかっていないのだと感じた。普通の国の軍事組織では、「~のために国を守る」ということをしっかり理解した上で国を守ることが常識なのに、防大生はタイの士官候補生の国防意識に強く感じ入っていたからである。「~のために国を守る」という方針がわかっていない軍隊ほど怖いものはないというのに。
 しかし、私は防大生に対して「戦前国を守ることを重視した結果、視野狭小になって軍部が暴走したので、もっと広い視野をもちなさい」という氏の言葉のほうが、防大生の言葉よりショックだった。「国を守ること」に全力投球したら、「広い視野」をもてなくなるというのは、おかしい。「広い視野」をもつことが、「国を守ること」に全力投球することになるのではないのだろうか。
 防衛大学校というのは、「何のために国を守るのか」を教えるところだし、そうでなければいけない。「何のために国を守るのか」を教えた上で、国を守るためには「広い視野」を持つことが必要だと教える場所だし、槇初代校長は国を守ることを前提とした意味での「広い視野」を重視したのだろう(多分・・・)。
 番組を見た限りでは、五百籏頭氏は「広い視野」の意味をミスリーディングしているし、防大校長であるにもかかわらず、防大生に「何のために国を守るのか」を諸外国並みに徹底させてないように感じた。
 軍人教育のわかっていない人が防大校長でいるかぎり、田母神氏のような幹部自衛官が量産型で生産されるのではないか。私は、学生ではなく五百籏頭氏こそタイなど各国の士官候補生学校に留学させ、軍人教育を学んでくるべきだったのではないかと番組を見て、つい思ってしまった。
<太田>
 
 私は、氏の『米国の日本占領政策――戦後日本の設計図(上・下)』(中央公論社、1985年)を読んだことがあります。
 しかし、何の印象も残らず、氏のめずらしい名前は覚えたものの、後は氏について何も存じ上げませんが、急いで
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E7%99%BE%E6%97%97%E9%A0%AD%E7%9C%9F
を拝見した限りでは、防衛大学校長にはふさわしくない人物であるとお見受けしました。
 防衛大学校自体がはらむ問題点については、拙著『防衛庁再生宣言』の第4章を参照していただくとして、本来、防衛大学校長は、自衛官幹部を目指す学生のロールモデル的人物である必要があります。
 ところがこれまで、校長に軍人歴、自衛官歴のある人が就いたことがありません。
 これには「政治的」配慮があったことは言うまでもありませんが、そもそも自衛官歴のある人の中にふさわしい人がいるのか、ということはさておき、これまで3人の官僚OBを除いては国際政治学者ばかりが校長に就いてきた、というのは偏り過ぎています。
 何せ、戦後日本の国是たる吉田ドクトリンというのは、国際政治と関わらない、というのを旨としているんですからね。国際政治学者なんて無用の長物のハズです。
 ま、これはブラックジョークの類ですが・・。
 一番問題なのは、氏が、自民党政権の延命と提灯持ち的役割を担わされているところの、各種政府審議会のメンバーを校長になる前からやっており、今でもやっていることです。
 これは、形式論で言えば、政治と関わらない、という自衛隊員(校長を含む防衛大の教官も自衛隊員です
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A%E5%93%A1
)のあるべき姿からの著しい逸脱ですし、幹部自衛官の中で、戦後自民党政権の吉田ドクトリン墨守姿勢に強い反発を抱いているむきが少なくないことから、実質論においても、氏はロール・モデルたりえません。
 これだけでも、氏が、防衛大の職員や学生から浮き上がった存在になっている可能性が大です。
 こういうことになりかねない、ということが事前に分かっていなくて校長に就任したとすれば、そんな身近なことすら状況把握のできない人物が、国際政治を論じるなんて噴飯ものだ、と言いたくなります。
<バババ>(http://www.amezor.to/cgi-bin/res.cgi?dir=shiso&res=051122235155&ls=50
 アングロサクソンの文化を知らなければなりませんが、太田述正氏のブログには「アングロサクソン社会は当初から資本主義社会であり、それと同時に反産業主義であった」ということです。彼らにとっては戦争が生業であり、平和な時は酒を飲んで賭け事に夢中になっていた。勤勉に働くという事は彼らの文化には無い。
 だからこそ大戦後には限定的な戦争で覇権を維持したのでしょうが、イラク戦争やアフガニスタン戦争は大義のない戦争であり、アングロサクソンの時代は終わったとも言える。核戦争の時代では戦争で決着をつけることは不可能だからだ。それで彼らはバクチで稼ぐ金融覇権を試みたのですが、今回見事にそれは失敗し た。
 アングロサクソンは、ローマ化した大陸のゲルマン民族とは違って、戦争好きなゲルマン文化を多く残していた。個人主義と自由主義はアングロサクソン文化でもあり、大陸の全体主義文化や社会主義文化とは相容れないものだ。しかし今回の金融恐慌は社会主義的な方法でしか混乱は収められないものであり、市場原理主義は敗れたのだ。
 だからこそ倉都康行氏は、社会民主主義的な伝統を持つEUが主役に踊り出るだろうと予想していますが、そもそもヨーロッパ全体が戦争好きなゲルマン文化の要素を持っており、ヨーロッパの歴史は戦争の歴史でもあった。すなわち全面戦争が出来なくなった時代は長く平和が続き、戦争で決着をつけるアングロサクソンの文化は衰退せざるを得ない。
http://www5.plala.or.jp/kabusiki/kabu178.htm
<太田>
 私のアングロサクソン論を大胆過ぎるくらい大胆に「進化」させていただき、まことにもってありがとうございます。
 ありがた涙がこぼれそうです。
 なお、それに続くもう一つの「投稿」で、遠江人さん執筆のコラム#2764が、何の断り書きもなしにそのまま全文コピペされているのはネットのマナー違反ですよ。
<消印所沢>
 ・・・「自衛隊の戦力はゼロ」論争を見るに,「まず結論ありき」で論を組みたてている可能性があるため,太田ソースの信頼性はD(クロスチェック必須)レベルであることを留意されたし.・・・
http://www21.tok2.com/home/tokorozawa/faq/faq05k02.html
<太田>
 コラム#2831で、
>消印所沢さん、本当に(太田)
≫「自衛隊の戦力は実質ゼロ」説に関する論争から観るに,太田をソースとすること自体に問題もある.(消印所沢)
>と思っておられるのなら、私のコラムを配信させていただいていること自体が迷惑だということになりかねませんねえ。(太田)
と申し上げたところですが、その後、何のご返事もなく、しかも、別の文脈の中で、再び同趣旨の消印所沢さんのディスクレイマーを見つけたことになります。
 これは、ディスクレイマーを全部削除していただくか、「ソース」とされた私の著書やコラムからの引用を一切止めていただくか、どちらかでしょう。
 このままでは、そんな「ソース」を読まされるあなたの読者、そしてそんなディスクレイマーをつけられた私の双方に対して失礼というものですよ。
 早急に対応をされないのなら、残念ながら、今月末をもって、あなたの名誉有料読者扱いは止めさせていただきます。
 その場合、私の著作やコラムの抜粋ないし要約をあなたのサイトに転載することは控えていただきたいと思います。
 さて、記事の紹介です。
 東京新聞に載った『実名告発 防衛省』の書評(コラム#2972)が、全文、同新聞のサイトに転載されていました。
http://www.tokyo-np.co.jp/book/shohyo/shohyo2008121402.html
 また、北京官話で私の名前が登場する記事を見つけたと思ったら、共同の配信でした。http://china.kyodo.co.jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=tchinese&storyid=63762
 この前見つけた記事も、恐らくこの共同電を使ったものだったのでしょうね。
 日本のソフトパワー世界を制す(コラム#2974)の続きのような記事が出ていました。
http://www.csmonitor.com/2008/1217/p01s04-woap.html
 日本の人気アクションコミックのNARUTO-ナルト-の英訳版の「書評」が載っていました。
http://www.latimes.com/features/books/la-et-book17-2008dec17,0,2457218,print.story 
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太田述正コラム#2979(2008.12.17)
<セックス中毒(その2)>
→非公開