太田述正コラム#2921(2008.11.18)
<辻元清美議員と田母神問題>(2008.12.25公開)
1 始めに
 明後日に社民党の辻元清美議員と、私の新著の宣伝を兼ねた、「週刊金曜日」掲載予定の対談を行うので、同議員の公式サイトを覗いてみたところ、田母神問題で同議員が何本も質問趣意書を政府に提出し、その回答を得ていることが分かりました。
 そこで、興味深かった部分をご紹介することにしました。
 なお、私自身役人時代に質問趣意書に対する回答作成に何度も携わりましたが、文書で回答するが故に、通常の国会質問に対する答弁案作成の際よりも、更に中身のないぶっきらぼうなものにする、という不文律めいたものがありました。
 そこで、ご紹介するのは、もっぱら質問趣意書中の興味深い引用に限定しました。
2 麻生氏について
 麻生首相が登場する部分があるので、それから始めましょう。
 「・・・二〇〇八年九月二五日に、麻生内閣の一員であった中山成彬国土交通相(当時)が、「日本は単一民族」と発言した。しかし麻生首相自身かつて下記のような発言をしている。
・・・
(四)「(日本は)一国家、一文明、一言語、一文化、一民族。他の国を探してもない」(二〇〇五年一〇月一五日、福岡県太宰府市・九州国立博物館開館記念式典の来賓祝辞で、当時総務相)
さらに、麻生首相が麻生セメント取締役社長時代に製作した「麻生百年史」(編:麻生百年史編纂委員会、版権者:麻生太郎、一九七五年五月一日発行)に、下記のような記述がある。
(五) 「十二月八日、海軍は真珠湾を奇襲攻撃し、対米英戦争を開始した。/この不意打ちは、実は既に米国の首脳部では確実な情報として知っていたが、最初の挑発、最初の一発を、待ち受けていたことから、わざとハワイの司令官には通報せず、これによって「リメンバー・パールハーバー」という合言葉をつくりあげ、 それを旗印にして、国論を対日戦争に巧みに統一させたといわれる。」(「麻生百年史」四四一頁)・・・」
→「右」の人々は、単純素朴な思い込み的歴史認識を共有しているようですね。気味悪いなあ。(太田)
3 田母神氏について
「田母神俊雄前航空幕僚長は、・・・ 統合幕僚学校長<当時>、航空自衛隊幹部学校幹部会発行の『鵬友』に下記のような論文を掲載している。「航空自衛隊を元気にする一〇の提言」(『鵬友』二九巻二号、二〇〇三年七月)=以下「論文一」、「航空自衛隊を元気にする一〇の提言――パートⅡ」(『鵬友』二九巻六号、二〇〇四年三月)=以下「論文二」。それらには、下記のような記述がある。
(記述一)「エリートを廃し弱い者に全てを合わせる競争のない社会を造るために利用しようとする動きがあるような気がする。(中略)これらの動きは、学校における男女混会名簿の作成、男らしさ、女らしさの否定等に現れている。(中略)しかしながら人類の歴史を見れば社会を発展させてきたのは一部のエリート」(論文一、二頁)
・・・
(記述三「公務員倫理法は(中略)役人の行動を制約し士気を低下させる」(論文一、三頁)
・・・
(記述五)「我々は今、日本国内において反日的グループとの冷戦を戦っている。この冷戦に勝たなければ、日本の将来はない」(論文一、二七頁)」
→「記述一」で、中性化の問題とエリート教育の問題を一緒に論じるとは不思議な人ですね。「無能」と言うべきか。それにしても「男女混合名簿」さえダメだとは、全くついていけません。(太田)
 「記述三」については、さすがの、守屋の接待を擁護した私だって、ここまでの発言は控えまっせ。田母神氏はやはり「KY」な人ですね。(太田)
 「記述五」には哀れみさえ覚えます。「ドンキホーテ」田母神氏には、麻生氏を含む「右」の政治家連中こそ戦うべき最大の敵だ、ということが全く見えていないのですな。(太田)
 「<同じく、>下記のような記述がある。
(記述一)「米国は我が国が再び強国として米国に刃向かうことがないように徹底的に日本を精神的に破壊しようとした。(中略)これは折からの国際共産主義運動と相まって大成功を収め、今なお我が国には多くの反日的日本人が存在し」(二頁)
(記述二)「従来から自衛隊に物品等を納入している国内企業からみれば、当然自衛隊に対する売り上げが減るので、自衛隊にいろいろと相談にくる。『何とか当社の製品を買ってもらえないか』(中略)これらの会社からの依頼事項については、防衛産業・技術基盤の維持の観点から、担当者は頑張らなければならない。空幕の装備部長をしているときに(中略)私は、『頼まれたら頑張れ』と指導していた。(中略)しかし、みんなから一斉に頼まれたらどうしようもないではないかという人がいる。そのときは二度、三度と頼みにくる人を優先してあげてはどうか」(六―七頁)
(記述三)「隊員に対しては部外で個人や団体が実施する親日的な活動には経費も含めて個人的に支援するという意識を持たせるべきであろう。例えばここ数年新しい歴史教科書が話題になっているが、今後このような本などが出た場合、これをみんなで買いまくるぐらいの意識があってもよいのではないか」(二七―二八頁)・・・」
→「記述一」も上記同様です。最も忌むべき反日的日本人は、実は日本を米国の保護国の地位にとどめてきた「右」の政治家連中である、という基本中の基本が「ドンキホーテ」田母神氏には分かっていないのですな。(太田)
 「記述二」はひどい。企業との癒着を奨励しているじゃないですか。天下りに至っては、田母神氏は問題意識皆無と見ました。「職務怠慢」でかつ「KY」もいいところじゃね。(太田)
 「記述三」もまたかって感じですね。「親日」と「反日」を取り違えている、味方こそ敵だってどうしたら「ドンキホーテ」田母神氏に分かってもらえるのかなあ。まあ、無理だろな。(太田)
 「「航空自衛隊を元気にする一〇の提言――パートⅢ(その1)」(『鵬友』三〇巻二号、二〇〇四年七月)。それらには、下記のような記述がある。
(記述一)「日本軍は残虐非道の軍であった、軍人が暴走した、韓国人や中国人にひどいことをした、南京大虐殺を行ったとかいう無実の罪を背負わされた」「比較の問題で言えば我が国は戦前から他の列強ほどのひどいことはしていない」(三頁)
(記述二)「現在の価値観で昔を断罪することは無意味なことだ。日米関係においても、それぞれの相手国に対する昔の悪行を話題にするようなことは努めて避けるべきである」(四頁)
(記述三)「我が国の政治指導者が反米になることは絶対に避けなければならない」(五頁)
・・・
(記述五)「私は部外で講演するときなど、あんなものは殆ど恐れる必要はありませんと言っている。 (中略)核兵器は政治的な恫喝に使われるだけなのだ。もし我が国がミサイル防衛体制を整備すれば、その恫喝さえも困難になる。・・・
・・・
(記述六)「自衛隊の業務を処理する場合も危険の確立を適正に認識しないと業務の非効率化を招き、いろいろな問題が発生する。(中略)今日事故があったら、明日は多分事故はないだろうと考えるのが真理に近い」(一六―一七頁)」
→「記述一」では、先の「」内と後の「」内とが内容的に矛盾しているけれどこれいかに? やっぱ「無能」な人か。(太田)
 「記述二」は、あの「論文」で極東裁判史観によるマインドコントロールを非難している田母神氏の言葉とは思えません。どうやら彼も連歌的文章しか書けない「無能」な人のようです。(太田)
 「記述三」については、戦後、一貫して米国による「独立」要請を拒否してきている「右」の政治家連中こそ、最大の反米なのだけれど、田母神氏、どうしょうもない「ドンキホーテ」だよね。(太田)
 「記述五」は、そんなことを軍事専門家が言っちゃおしまいですねと言いたいくらいの妄言です。さすがの私も、日本列島に対する核の脅威までないなんて口が裂けても言いませんぜ。それに第一、ミサイル防衛を評価しすぎてまっせ。アンタは「無能」です!(太田)
 「記述六」は、防衛大学校で理工系の勉強をして確率論だって習得しているはずの田母神氏の言とは到底考えられない「無能」発言です。うー、「無能」「無能」って言い疲れたァ。(太田)
4 終わりに
 「桜」TVへの出演の際に、私が田母神氏を評したところの、「KY」「職務怠慢」「無能」「ドンキホーテ」は、改めてドンピシャだったと思います。
 ついでに、「まがりなりにも理念を持ち、へたくそではあってもそれを言葉でもって語ろうとした田母神氏と、麻生首相や浜田防衛相等じゃ勝負になりません」(コラム#2916との指摘は撤回させていただきます。
 田母神氏には、まがりなりの理念もそれを語るべきへたくそな言葉もなさそうだからです。
 そうなると、「KY」度、「職務怠慢」度、「無能」度、「ドンキホーテ」度において、明らかに麻生首相や浜田防衛相より甚だしい田母神氏には、取り柄など皆無である、と言わざるをえません。
 これはひどい。
 本当にひどい。
 内局の(自衛官人事を担当する)人事教育局は、(『鵬友』を読んでいなかったのか読んでも問題意識を抱かなかったのかは知らないが、)全く人を見る能力も意欲もなくしちゃっているということか、航空自衛官幹部全体の質がここまで劣化してきているということかどちらかですが、前者だと思いたいところですね。
 田母神氏を空幕長する案をつくった当時の人事教育局長が誰かしらないけれど、まだ防衛省にいるのなら、不明を恥じた上で即刻退官すべきでは?