太田述正コラム#2929(2008.11.22)
<金融危機と米国及び韓国>(2008.12.30公開)
1 始めに
 私は、1990年代に何年か続けて、伊豆で開かれる日本IBM主催の泊まりがけの勉強会に参加したことがあります。
 韓国がアジア通貨危機に直面していた頃の、確か1997年の勉強会には、当時民間企業の研究所に勤務されていた、韓国経済の専門家である深川由紀子さんも参加しておられ、彼女と2人で雑談をしていたところ、様々な理由を挙げて韓国経済はもう終わりだと自信満々におっしゃる。私は半信半疑で東京に戻った記憶があります。
 ところが、その後韓国経済は急速に立ち直ったので、やっぱり深川さんの予測ははずれたな、と思っていたら、その彼女が東京大学(大学院総合文化研究科)の教授になったと新聞で読んでびっくりしました。
 (先ほどインターネットで調べてみたら、現在は早稲田大学政治経済学術院教授をされているようです。)
 ことほどさように「有事」の経済予測というのはむつかしい。
 (まあ、政治予測だってむつかしいわけで、1990年代初頭時点でのソ連の崩壊を予測した国際政治学者やソ連専門家が1人もいなかったことはよく言われるところです。)
 さて、1997年と違って、2008年の現在はアジア通貨危機ならぬ世界金融危機という大「有事」のまっただ中にわれわれはいるわけですが、一体日本の宗主国たる米国の経済と旧日本帝国領である韓国の経済がどうなるのか、専門家の見解をご紹介しましょう。
2 米国
 米タイム誌は、今年の第4四半期の経済成長率がマイナス3~5%になるだろうと種々の経済予測機関が予測しているとし、1982年の第1四半期のマイナス6.4%以来の低い数字になりそうだ、なお、更に遡ると戦後では1958年の第1四半期のマイナス10.4%というのがあった、と記しています。
 しかし、1958年の場合、その年のうちにも経済は急角度で回復した、なぜならば、当時の米国経済は工業中心の経済であり、在庫調整のため、労働者を一時的にレイオフして工業生産が減っても、やがて在庫が少なくなれば、レイオフした労働者を再雇用して工業生産が回復するからだ、というのです。
 ところが、現在の米国はポスト工業時代であり、急角度での経済の回復は見込めない上に、信用収縮が起こっている点でも1958年とは決定的に違っているので不安が募る、というわけです。
 しかし他方で、経済データが整備された1919年以来で見ると、1920~21年のマイナス成長や1929~30年のマイナス成長は、いずれも大不況の始まりを告げるものだったが、現状はそれに比べる大したマイナス成長(予測)ではない、ともこの記事は記しています。
 結局、この記事は、誰も来年の米国経済がどの程度のマイナス成長になるのか、予測がつかない状況である、と締めくくっています。
http://www.time.com/time/business/article/0,8599,1861251,00.html
(11月22日アクセス)
 いずれにせよ、来年の米国がマイナス成長になりそうなことだけは確かのようですね。
3 韓国
 (1)大前研一氏の分析
 大前研一氏が、韓国ウォンが米ドルに対して暴落し、それに輪をかけて日本円に対して暴落していることをに注意を喚起した上で、その背景として、
 「・・・韓国は、急速に経済を発展させてきたために産業のインフラ作りを置き去りにしてきた。例えば韓国の電化製品や自動車などは、日本から優れた素材、部品などを輸入して、それを組み立てて輸出するような構造で作られている。組み立て機械や工作機械も日本製がほとんどだ。最近は、韓国のブランドも世界の 一流の仲間入りを果たしたように思われているが、その中身はと見ると実は大部分が日本の部品ということがよくあるのだ。だから韓国から欧米への輸出が増えると日本からの輸入が増える、という構造的な問題を抱えている。・・・」
http://news.goo.ne.jp/article/php/world/php-20081117-05.html
(11月18日アクセス)
ことを示唆しています。
 (大前氏は、「これをわたしが指摘し始めたのは20年以上前」と記しているが、それより以前の1980年頃、私が当時一緒に何本か論考を書いた中川八洋氏にこの話をしたところ、彼がじゃそれも論考にしてどこかの総合雑誌に売り込もうと言ったけれど、私が、自分の専門分野じゃないので肉付けするのが大変なので止めておこう、と答えたことを覚えている。)
 これは、とりもなおさず、何故日本円だけが世界中で独歩高になっているかの理由の大きな一つでもあると考えられます。
 つまり、日本の工業力が世界のいかなる国よりも強靱であることが、ここに来て世界中から注目されている、ということなのではないでしょうか。
 (これに加えて、今度の金融危機で日本の金融機関の受けているダメージが主要先進国の金融機関中一番少ない、ということがあるわけです。
 ところで、どうしてこんなに日本の民間が頑張っているのに、日本の政治はダメなのでしょうか。そりゃ簡単な話です。民間は国際的な競争に晒されているけれど、政治は日本が米国の保護国(属国)であるため、米国によって国際的な競争から遮断され、「保護」されているからです。民間でも、政治の規制や助長措置によって国際的な競争から遮断されている産業分野はふるわないことはご存じのとおりです。)
 (2)英米の経済紙の指摘
 
 さて、一ヶ月前に、今回の金融危機により、韓国経済は危機に瀕しているという指摘が英米の主要経済紙でなされました。
 「英国の経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は<10月>14日付で、「沈没する感覚」という見出しの特集記事を掲載したが、そこで主に扱われたのはほかでもない、韓国だった。記事では・・・「韓国の銀行は米国や英国の銀行のように世界的な信用不安で身動きが取れない状況にあり、来年6月末までに満期が到来する短期外債だけでも1750億ドル(約17兆5400億円)に達する。・・・」・・・「韓国 は世界第6位の外貨準備を持つ国だ。しかし短期外債の負担や、ここ2カ月で政府がウォン安を食い止めるために400億ドル(約4兆円)も放出したことなどが今後も繰り返されると、莫大な外貨準備も一気に枯渇する可能性がある」と・・・指摘<した。>・・・同紙が取り扱った今回の世界的金融危機に対する分析記事の中で、国が不渡りを出したアイスランド以外に実際に国名が取り上げられたのは韓国だけ<だ。>・・・
 <また、>米国のウォールストリート・ジャーナルは<10>月9日付の電子版に、「韓国はアジアのアイスランドとなるのか」という見出しの記事を掲載した。この記事の内容は、記者たちの半数以上は韓国のリスクは小さいと指摘しているというものだったが、経常収支赤字や金融システムの弱体化を根拠に「韓国はアジア諸国の中でもっとも危険な国」とも報じていた。・・・」
http://www.chosunonline.com/article/20081016000019
(10月20日アクセス)
 (3)上記指摘の評価
 私は、1997年の時の深川さんの予測が外れたことをどうしても思い出してしまいます。
 朝鮮日報は、英米の経済紙の指摘は的外れであると強調しており(上掲記事)、また次のような記事も掲載しています。
 「・・・企画財政部は・・・来年の貿易収支が56億ドル(約5360億円)の赤字になると予測した。今年も年間90億ドル(約8600億円)の貿易赤字が予想されるため、1997年の通貨危機以来12年ぶりに2年連続の貿易赤字を記録することになりそうだ。ただ、旅行収支などサービス収支が改善し、来年の経常収支は50億ドル(約4780億円)前後の黒字になると予測した。・・・
 ・・・<そして、>来年の・・・韓国の成長率<は>1%台にとどまるとの予測が相次いでいる。・・・」
http://www.chosunonline.com/article/20081120000007
(11月20日アクセス)
 結局、何だかんだ言っても、既にマイナス成長に突入している米国と韓国とでは、全く状況が違うと言わざるをえません。
 どうしてかつて深川さんの予測が外れ、今回の英米の経済紙の指摘も的外れである可能性が強いのか、ですが、私は単純に、旧日本帝国の一部であった韓国の経済は、戦後も事実上基本的に日本経済の一環であり続けており、日本経済そのものがコケない限り、よほどのことがない限り、韓国経済もまたコケることはありえない、ということなのだろうと考えているのです。