太田述正コラム#4154(2010.7.26)
<改めて朝鮮戦争について(その1)>(2010.11.29公開)
1 始めに
 ずっと以前に(コラム#259への投稿で)ある読者が持ち出した朝鮮戦争本 ‘The Origins of the Korean War’ の著者たる左がかったブルース・カミングス(Bruce Cumings)が、再度、朝鮮戦争本、’THE KOREAN WAR’ を出しました。
 私は、最初からカミングスにはあまり良い印象を持っていなかったのですが、今度の本の書評類を見ると、私の史観の補強材料に使える部分が結構あるなと思い、これら書評類をもとに、この本で彼がどんなことを言っているかをご紹介することにしました。
A:http://www.nytimes.com/2010/07/22/books/22book.html?_r=1&hpw=&pagewanted=print
(7月22日アクセス)
B:http://bbs.chinadaily.com.cn/redirect.php?gid=2&tid=674451&goto=lastpost
(7月25日アクセス)
C:http://mondediplo.com/2004/12/08korea
(この本からの抜粋)
 なお、カミングスは、現在、シカゴ大学の歴史学科の議長をしています。(A)
2 カミングスの指摘
 (1)総論
 「・・・カミングス氏は、この戦争について米国人達がまだ学んでいない、「大部分の米国人が知らず、かつ知ろうと欲しない真実、時に、米国人の自尊心が受け容れがたいほど衝撃的な真実」であるところの、いくつかの不愉快な事実があると記す。・・・」(B)
 「カミングス氏は、朝鮮戦争は、長い複雑な歴史的ルーツを持つ内戦であったのであり、米国はこれにお節介をする資格などなかった、と主張する。
→「朝鮮戦争」を「日支戦争」に読み替えてもあてはまりそうですね。
 カミングスに聞いてみたいところです。(太田)
 彼は、この戦争が「ぞっとするほど汚い」ものであったと記す。
 一般住民の虐殺に関しては、「北朝鮮人を悪魔的テロリストとする米国人の抱くイメージに反し、我々の表向きは民主主義的な同盟国<(たる韓国(太田))>が最悪の実行者だった」と宣言する。
 北朝鮮の当時と現在のふるまいを理解するために最も重要なことは、朝鮮と日本の間の長きにわたる敵意である、とカミングスは記す。
 日本は、米国の了解の下で朝鮮を1910年に植民地にし、朝鮮語を日本語で置き換えた。
→朝鮮統治にあたって、このような「置き換え」などは行われていません。(太田)
 日本は朝鮮にその他いくつもの形で屈辱を与え残忍な仕打ちをした。
 (第二次世界大戦の間、日本の陸軍は数千人の朝鮮人の女性を「慰安婦」として知られる性奴隷に矯正的にした。)・・・
→やれやれ、カミングスの歴史に関する知識は、狭義の朝鮮戦争に関するものを除き、お寒い限りであると言ってよさそうです。(太田)
 北朝鮮は、猛毒性の反日感情を抱いており、日本と米国に対して憎しみに満ちた思いと恐怖を抱き続けている。
 <だから、>北朝鮮は、日本と長きにわたる歴史的紐帯を持つ指導者達をいただく韓国の手を払いのけるためにできることは何でもやるだろう。・・・」(A)
→北朝鮮の自国民及び韓国の左翼の洗脳のやり方はこういう手口なのでしょうね。(太田)
 「・・・朝鮮戦争は限定戦争であったとされているが、この戦争の成り行きは、第二次世界大戦における日本への空戦と強い類似を示しており、それはしばしば、<先の大戦の時と>同じ米国の軍事指導者達によって指揮された。
 <米国では、>広島と長崎に対する原爆による攻撃は様々な角度から検証されてきたが、日本と朝鮮の諸都市に対する焼夷弾空中攻撃の方ははるかに小さい関心しか示されてこなかった。
 米国の朝鮮戦争後の北東アジアにおける航空戦力と核戦略については、更に理解されることが少ない。
 しかし、これらは、劇的なまでに北朝鮮の選択を形作ったし、その国家安全保障戦略の中心的要素であり続けているのだ。・・・」(C)
→ここは、そのとおりでしょう。(太田)
 「カミングス氏は、この本の中で、北朝鮮自身による残虐行為についても詳述しているし、現在の「北朝鮮の政治的やり口は嫌悪すべきもの」であることを認めている。
 しかし、彼は、我々がこの国を「東洋学者的偏見(Orientalist bigotry)」でもって見ており、その病的な面しか見ていないと言う。
→後段については、帝国日本に対する当時の米国人の見方でもあったわけです。(太田)
 我々はこの国にスターリン主義というレッテルを貼っているがそれは間違いである、と彼は主張する。
 「北朝鮮が、スターリン主義を明確に特徴付けるところの、あらゆる階層の人々に対する大量暴力や全般的「粛清」を経験したという証拠はない」と彼は記す。
→このくだりも呆れちゃいますね。(太田)
 最も目を啓かされるのは、この本が米国による朝鮮北部の集中爆撃(saturation bombing)について詳述している部分だ。
 「米国人がまず知らないし覚えていないのは、我々が、一般住民への配慮がほとんどない形で3年間にわたって北朝鮮を絨毯爆撃したことだ」とカミングスは記す。
 米国は、朝鮮において、第二次世界大戦中に全太平洋戦域に投下された爆弾よりも多くの爆弾(635,000トン。これに加えて32,557トンのナパーム弾)を投下した。
 我々の論理は、「連中は野蛮人であり、だから我々は無辜の人々に対してナパーム弾のシャワーを浴びせる権利がある」といったものであったように見える、と彼は言う。・・・
 カミングス氏は、米国による北朝鮮の無差別的爆撃をジェノサイドにたとえる。
 彼は、米国人兵士達が<ベトナム戦争の時の>ミライで行われたものと大差ない一般住民への残虐行為に手を染めたり目をつぶったと記す。・・・」(A)
→ここも、朝鮮を日本に置き換えてそのまま使えますね。(太田)
(続く)