太田述正コラム#3049(2009.1.22)
<皆さんとディスカッション(続x375)>
<Nelson>
≫おっしゃる通りですが、防衛出動とは、日本に対する外部からの武力攻撃が発生した事態または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態に際して、日本を防衛するため必要があると認める場合に、内閣総理大臣の命令により、自衛隊の一部または全部が出動すること(自衛隊法76条1 項)であるところ、これまで私が繰り返し申し上げているように、見通しうる将来にかけて、そんな事態はおよそ考えられないのですから≪(コラム#3045。太田)  
 
 防衛省の「22年度における防衛省組織改革に関する基本的考え方」
http://www.mod.go.jp/j/news/kaikaku/20081225.pdf
の使っている「部隊の出動」というような文言が出てくる自衛隊法上の自衛隊の行動は、
ざっと見た限りでは、
防衛出動(自衛隊法76条1項)と
治安出動(自衛隊法78条1項 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる)と
警護出動(第81条の2 内閣総理大臣は、本邦内にある次に掲げる施設又は施設及び区域において、政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為が行われるおそれがあり、かつ、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合には、当該施設又は施設及び区域の警護のため部隊等の出動を命ずることができる)
ぐらいで・・・
 確かに、この3つは、太田様のおっしゃる通り、めったに有り得ませんね。
 ということは、実質的な自衛隊の運用は、完全に統幕に移されたと考えていいんですね。
≫当面、防衛出動に内局を噛ます形にしておくことで内局キャリアの不満をなだめつつ、その他の運用事項の統幕所管への移行の推進を図ることが肝要だと思います。≪(同上)
 なるほど。運用事項の統幕への移管は漸進的に行なうのが正解ですね。
 
 ただ気になることが1つ。運用事項の統幕所管への移行に「不満」をもつ内局キャリアはやはり多いのでしょうか?
 私は以前内局キャリア(中堅や若手)の方の話を聞いたことがあるのですが、統幕の強化に「不満」を抱くような印象の方は、むしろ少ないように感じました。
 もっとも、もしかしたら「制服」を「黒人」と見立てた「ブラッドリー効果」的なものが、内局キャリアの方々に働いて、本音を言わなかったのかもしれませんが・・・。
<太田>
 遅ればせながら、言及されている
http://www.mod.go.jp/j/news/kaikaku/20081225.pdf
に目を通してみましたが、「自衛隊の運用に関する重要な事項、例えば、部隊出動の決定などについては、防衛政策局を通じて、防衛会議の審議を経て、防衛大臣が決定する仕組みを確立。」(4頁)というだけじゃ、「部隊出動」が何を念頭に置いているのかよく分かりませんね。
 内局キャリアによる、自分達の権限縮小を回避するためのマヌーバーの一つと見るべきかもしれません。
<田吾作>
 –NHKについて<(コラム#3045参照)>–
 「・・(略)・・民主主義を専制的な方法で実現することは、どんなレベルであれ非常に難しいことである。アメリカにいた時にはこのような絶大な権限を行使することなど夢想だにしなかった占領軍当局のスタッフたちは、自分たちが突然それを掌握したことに気づくと、かんたんに濫用するようになった。
 権力を握ることが、いかに魅力的であるかを証明するようなできごとが次々に起きた。
 一つだけ例をあげれば、ラジオ放送はきわめて重要な報道媒体であったから、『民主主義』にもとづいた放送以外を許さないために、占領当局は放送用電波を国営放送局にいつまでも独占させることにした(この国営放送局は、アメリカのCBSやNBCに張り合って、今では『NHK』と呼ばれている)。GHQは、上からの統制によって社会を作りかえる方法に強く固執したので、一九五一年までライバルである民間放送局の発展を意図的に妨害したのである。占領軍の改革者たちは、このようなきびしい上からの統制によってのみ、日本の典型的な『ジョー・ニップ』〔『普通の人』〕をアメリカ流の民主主義者の複製に作りかえることができると信じていたのである。
 このように『総督』たちの役割がたんなる政策立案を超えて広がっていったので、軍の将校とその家族、SCAPの文官職員とその家族、最終的には百万人にのぼった米軍兵士を含む巨大な占領軍が、特権的な集団・階級・人種となってしまった。彼らは東京の中心街に文字通り『リトル・アメリカ』をつくり、はっきりとした人種隔離政策を行なった。冷戦が激化し、核軍拡競争が加速し、ヨーロッパの大国が東南アジアにもう一度帰ってこようともくろみ、また共産主義者が中国で勝利し、さらには朝鮮戦争が勃発しても、敗戦国・日本におけるアメリカの支配は不変であった。一九四七年に施行された新憲法の下で日本人は理屈の上では市民となり、もはや天皇の『臣民』などではなくなった。しかし実際には、日本国民はいぜんとして占領軍当局の臣民であった。・・(略)・・」
 (敗北を抱きしめて(上) ジョン・ダワー著 2001年5月15日 第2刷発行 株式会社 岩波書店発行 PP265~266より引用)
<太田>
 こいつは引用のクリーンヒットですね。
 既に読まれた方も多いと思いますが、私も一つ引用を。
 
 「・・・うつに性格的な要因もかなり作用することは良く知られています。もともとうつを発生させる遺伝子は、気分変動という大きな生物的、自律神経の波のようなリズムをつかさどっていたものと関連しているのでしょうが、ヒトが定住して農耕社会へと移行する中でうつ病発症の役割をになってきたものではないかと考えられます。ウェーバーがプロテスタンティスムの精神、つまり勤勉さが近代の西洋諸国が産業革命などによって発達した資本主義の起爆力だったと述べていますが、これはあまり正確ではなくて、もっと昔からある遺伝子的な特徴が背景にあります。
 ちなみにヒトは狩猟民だった時代には、あまりうつになっている暇などなかったと思います。今でもアフリカの狩猟民の部族などを見ると、全体にその場暮らしというか、まあ食べ物があるときにみんなで分けようっていう感じの楽観主義がありますが、あの社会ではあまりうつっぽくなっていられません。その日暮らしですからね。でも定住革命後、家畜・農耕社会になって、じっくりと時間経過とともに植物や動物の成長を見ていくようになり、労働時間が狩猟民の三倍ぐらいになったとき、私たちは長い目、植物なら一年ぐらい、動物なら数年、その経過を追って生育や成長を見守る必要が出てきた。そうすると収穫が多い年や少ない年ができてきて、それが後悔や未来の展望の喪失につながってきたのです。そうすると社会全体が躁的になったり、うつ的になったりしますね。つまりまじめに、長い時間を我慢していられる心性が長期的に必要になったときに、うつの発現をもたらした、そういう多元発現的な遺伝子があって、それは時間的な要素と密接に関わっているのではないかと考えられます。
 中井久夫氏は、前者の狩猟民の認識回路を微分回路、後者の農耕民の認識を積分回路と呼びましたが、なかなか良い呼び方です。いずれにして私たちの認識のなかで、長い時間をもってものの変化をみる、それが微分回路の瞬間的にものを捉える認識とは異なるのですが、その認識は我慢、真面目さの性格が基本です。うつの基本性格をメランコリー親和型と呼ぶことがありますが、それはこの積分回路を支える性格傾向です。この遺伝子は今でも農耕社会の延長にある会社生活、サラリーマンの生き方の真面目な堅実さを支えているものです。うつになるのは、真面目な人、自分を責める規範的な人が多いのはそのためで、働き者が生産構造の基盤を長い間支えてきたのですから、非常に適応力が高い。でもその反面一度うつの悪循環に入ると、うつ病になる危険性は誰もが持っています。・・・
(妙木浩之 東京国際大学人間社会学部教授:
JMM [Japan Mail Media] o.515 Wednesday Edition より)」
<一読者>
前略
 太田先生のメルマガは読みづらい。
 読者との問答はどっちがどっちか分からない(発言者)ときもある。
 御高説の最後に続くとありますが、私の見落としではないと思いますが、
その続きが無いままではありませんか?
 今後とも、御活躍の程を。
<太田>
 ディスカッション・シリーズに関しては、かなり省エネで書いてますので、不行き届きが多々あろうかと思いますが、何とぞあしからず。
 なお、コラム#3047でのアルファさんへのお答え、分かりにくかったと思いますが、に手を入れたものをブログに再掲載してありますので、関心のある方はご覧ください。
 また、フツーのコラムで、「続く」とあっても、続けられなかったケースは何度もあります。
 これには、予想しただけ、追加的な材料が得られなかった時や、追加執筆の構想がまとまらなかった場合等がありますが、こちらもどうかあしからず。
<アルファ>
 –太田さんにお願い–
 TVに出演した太田さんを見て感じたことがあり、コメントしました。
 話し方を研究してくださいということです。
 太田さんは、ものすごい頭脳なので頭の回転に口がついて来ず、数歩先を見て話すので、周りの人がついて行けず、話し方で太田さんが非常に誤解を受けている印象を私は受けました。
 発言する参加者のなかでは、最高の頭脳と見識の太田先生なので、もったいないです。
 どうぞ話し方、相手の説得の仕方を勉強し、啓蒙してください。
 太田先生の言う、日本属国論は正論で、もっと基本から国民への説得が必要です。
 どうぞよろしくお願いします。
<太田>
 この前のラジオ出演(文化放送)では比較的私の話し方、分かり易かったようですが、ご心配とご激励に感謝申し上げます。
<コバ>
 今日のテレビ朝日スーパーモーニングで、主夫(housekeeper)になりたいサラリーマンが結構いると報道されていました。
 日本は欧米と比べたら、女性の社会進出は比較出来ないほど遅れてるんでしょうが、女性の社会進出によって雇用を奪われ、普通のサラリーマンになれなくなる男性に対するセーフティーネットがほとんどないようにも思えます。
 話が飛んでしまいますが、欧州の社会的市場資本主義に、こうした雇用問題の解決策を見つけることは出来るのでしょうか?
 日本が宗主国米国に屈服したままでアングロサクソン型資本主義を続けていてはフィリピンのように国が崩壊してしまいますし…。日本が米国から独立して、みなが幸せになれる日本型資本主義を確立出来れば一番いいのですが…。
 連歌にもならない、学のない偏見に満ちた文章しか書けない自分が恥ずかしい…orz
<太田>
 昨夜遅くたまたま、わが「国営放送」の「男と女」シリーズの一つの再放送を一部TVで見ました。
 人間の男性が先祖代々受け継いでいくY染色体がこわれつつあり、かつその精子が劣化(精液中の精子数の減少と活発な精子の減少)しつつあるのだそうです。
 人間の精子の劣化については、そもそも、一夫一婦制によって、受精の際の異なった男性の精液ないし精子の間の競争がないことが、根本的な原因だというのですから、そろそろ人間は一夫一婦制を乗り越えるべき時が来ているのかもしれません。
 少なくとも人工授精に当たっては、活発な精子を選んで卵子に受精させるか、活発な精子をつくる遺伝子を持っている精子を選んで卵子に受精させる必要がありそうです。
 それにしても、Y染色体がこわれつつあることについては、今のところは、対処のしようがなさそうですね。
<コバ>
 日本における新自由主義に対する反動のうねりが朝鮮日報で記事にされています。
http://www.chosunonline.com/article/20090122000038
http://www.chosunonline.com/article/20090122000039
 韓国にも日本の政官業腐敗癒着システムが残っていて、非正規労働者(アウトサイダー)ばかり不利益を被る社会になってしまっているのでしょうか?
 官のあっせんによる天下り、談合を廃し、労働者の権利を擁護する政治家をたくさん増やしたいところです。
<太田>
 韓国では日本と違って、政権交替が行われているので、日本的な構造的腐敗はないはずですが、その代わり、政権トップないしその取り巻きによる、グローバルスタンダード的腐敗の程度は日本の比ではありません。
 その傍証として、政権が代わと、前政権のトップないしその取り巻きが汚職等で逮捕・起訴され、刑務所入りするのがならいとなっていることが挙げられます。
<Witte>
≫おかげさまで、たくさんの人にとって鼻つまみの嫌な大人になってるよ!≪(コラム#3047。太田)
 納豆ですね・・・
<花子>
 太田さんの面目躍如と言うところですね。これをチャーミングと言わずして何と言いましょう。
 ブログ拝読しています。確かに小難しすぎることや、私には手に負えない内容がいっぱいありますが、それと取っ組み合うのも又たのしみです。
<michisuzu>
 <コラム#2965を読みました。>
 <太田さんと>田母神さんとの議論なら何を置いても見たいですね!
 でも実現は無理でしょうね。
<太田>
 michisuzuちゃん、マジ、日本での女性を対象としたアファーマティブアクション(議員や会社役員に女性を一定の割合以上占めさせる)導入の是非についてどう思う?
 直感でもいいですよ。