太田述正コラム#3068(2009.1.31)
<皆さんとディスカッション(続x384)>
<太田>
 本日、オフ会は、私を入れて11名が出席しました(2次会のみの出席者を含む)。2次会出席者は9名です。
 MSさんが、「中性化」問題について、これまでの太田コラムに基本的に拠りつつ、秀逸なまとめ方をされたものを発表されました。
 オフ会幹事に加えてこの発表も行ってくれたMSさんに感謝申し上げます。
 また、MSさんと一緒に幹事をやったKTさん、幹事役と太田コラム・クイズの質問作成、まことにご苦労様でした。
<コバ>
 トルコの首相が、人殺しをしているのはイスラエルだなどと言い放ったりして、攻撃の正当性を訴えるイスラエル大統領と激しくやり合ったようです。
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/090130/mds0901301006004-n1.htm
 日本のマスコミはイスラエルに批判的なようですが(ハマス批判は怖くて出来ない?)、ガーディアンなどイギリスメディアはやはりイスラエルに批判的なのでしょうか?
 しかし、本当にイスラエルとイスラム各国が平和に共存する方法が見つかることを願って止みません…。
<太田>
 ガーディアンは全般的にはイスラエルに対して批判的です。
 ただし、イスラエル寄りの記事やコラムも出ています。
 私は、パレスティナ問題についても、ガーディアンに主として拠ることとしていますが、同紙のイスラエル寄りの記事やコラムをもっぱら踏まえてコラムを書くように心がけています。
<ちんみ>
 –吉田茂の、防衛大学卒業式で行った訓示が 参院国会で出ていました–
 中田さんが“吉田ドクトリン”についても述べています。
ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報
http://amesei.exblog.jp/
(貼り付け 開始)
麻生太郎、「吉田茂発言」についてまともに答えられず・・・・
アルルの男・ヒロシです。
NHKで参議院の代表質問を放送していました。
 これを観ると、選挙の心配がない参院自民党では、麻生太郎を徹底攻撃する方針で動いていると分かる。そのうち、参議院の議事録がネットで入手できるでしょうが、国会中継が久々に面白くなっています。
 その最たる例は、参院自民党の尾辻秀久元厚生労働大臣。これに続いて、宮内のオリックスに投げ売りされそうになった「カンポの宿」問題を論じた、鳩山邦夫総務大臣も完全に反米。「アルカイダの友人の友人」がいる鳩山はアメリカ映画の「ブルワース」に近い確信犯だ。厚生労働大臣の舛添要一は孤立無援になっている。
 さて、尾辻氏の麻生太郎への質問は、新自由主義批判、規制改革会議の廃止提案など重要なものがたくさんありました。
 しかし、その中でのハイライトは、自衛隊の在り方についてのもの。尾辻氏は、私も何度か日本の保守派を批判する際に引用している、麻生のお爺さんの吉田茂元首相の以下の発言を紹介。(動画の1時間30分前後)
<<「君たちは自衛隊在職中決して国民から感謝されたり歓迎されることなく自衛隊を終わるかもしれない。きっと非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う。
 しかし、自衛隊が国民から感謝され、ちやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡のときとか、災害派遣の時など、国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ。言葉をかえれば、君たちが日陰者であるときの方が、国民や日本は幸せなのだ。耐えてもらいたい。自衛隊の将来は君たちの肩にかかっている。しっかり頼むよ。」>>
 これは、吉田茂元首相が、昭和三二年二月、防衛大学第一回卒業式で行った防衛大学卒業生のために行った訓辞です。
 この発言を紹介した上で、尾辻氏は、去年の田母神論文騒動に言及、吉田の孫である麻生首相は、この訓辞についてどのように思うかと質問したのです。
 尾辻氏は、旧吉田派の流れをくむ、旧橋本派所属の国会議員。参議院議員会長の青木幹雄も同系統です。
 尾辻氏は、その他にも海賊問題について質問。「自衛隊の武器使用を認めないで海外に派遣するのはどうか」と質問していますが、上の吉田発言を取り上げたことから分かるように、これは、「明らかに出来ないことを要求して、本来の政策そのものに反対の意を示す」」と言うやり方でしょう。与党の議員は、表向きは相手を持ち上げておいて、相手を批判するのです。民主党と国民新党の海賊問題での要求もこの線に沿っている。
 尾辻氏を始め、参院自民党は「党人」でありますから、採決の際には党の意向に従いますが、国会質問ではかなり不満タラタラで、完全に麻生に対してイライラしているのがよく分かります。
 この防衛大学出身の尾辻氏の吉田発言に対する質問に対して、麻生は完全に無視した答弁を行いました。この際、議場からはかなり大きなブーイングが沸き起こりました。戦前生まれの尾辻氏にとっては、あまりにも過激な「田母神クーデター一派」について我慢ならなかったのでしょう。なお、尾辻氏は潔い自民党の下野まで麻生に提案していた。
 「吉田ドクトリン」をずるがしこく使うことで、日本は海外に引きずり出されないで済むという戦略を正しいと考えている、私としては、尾辻質問は大ヒットでした。
 なお、保守派の間には吉田の「世界と日本」(番町書房)の内容を曲解して、「吉田は最終的に自衛隊の海外派遣を容認していた」と述べる人たちがいる。私は、この吉田の「世界と日本」を隅から隅まで読んだが、「左翼の非武装中立」に対して批判している箇所はあるものの、タカ派な自衛隊の使い方を論じた箇所は一カ所もない。吉田はリアリストであって、麻生や安倍のような「自由と繁栄の弧」を提唱するような「ウィルソニアン」ではない
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(貼り付け 終了)
ついで(と いってはなんですが)に もう一丁♪
http://sorceress.raindrop.jp/blog/
(貼り付け 開始)
兵頭二十八の放送形式
 
 インド洋での給油活動は、あの第七艦隊のふんどし担ぎだった海自をついに「反米」へ押しやるという、とんでもない効果を及ぼしつつあるようだ。米艦でしか使わぬ特殊燃料を米艦から高い値段(向こうの言い値)で買って、また米艦に給油する、なんてこと繰り返してたら士気崩壊するのがあたりまえ。帳簿上だけでなく、現品の移動はちゃんとあるんでしょうな?
(貼り付け 終了)
↑これで ふと思い出したのが、“穴掘り拷問”のこと。
 先が見えれば頑張れる目標があいまいで、チームが何を目指しているのか、自分たちはどこに行こうとしているのか、いま、どのあたりにいるのか、それがわからないと、人の心に不安が湧き出たり意欲が低下したりするそうです。
 捕虜収容所の拷問で1番苦痛だとされていたのが捕虜にスコップで地面に穴を掘らせ、それをまた埋めさせる。
 これを延々と続けさせるというもの… 目的も意味もなく、達成感も何もない作業を続ける事は人の精神を最も疲弊させることになるんですね。
イージス艦「あたご」衝突事故 海自の組織的責任認める
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090122-00000566-san-soci
泣きっ面に蜂・・・
2009/01/31(土) 11:58:00
<太田>
 情報提供ありがとうございます。
 ちんみさんによる「解説」が全般的に舌足らずだったのが残念です。
 それにしても、尾辻氏にしても、アルルの男・ヒロシさんにしても、日本はまだ、吉田ドクトリンの確信的信奉者だらけですね。
<Nelson>
≫それから、限られたデータから真実を推定しようというのは、社会科学において当然のやり方で、「議論になりません」と断ずるほど間違ったものではありません。(コラム#3065。ドイツゲーマー)
 「内閣が日常的に遂行した政策は、全て天皇の意思を反映して(少なくとも忖度されて)いた可能性が濃厚だ」とおっしゃられても、「社会科学」という学問の世界の中ではおもしろいかもしれないけれど、現実世界では「推定」ではまともな「議論」にならないでしょう。
 その後お互いに展開される不毛で無価値な議論が想像できたので、「議論になりません」と申し上げたのです。
≫戦略情報共有、御神輿経営、下克上等の属性を持つ日本型経済体制のエートスは、陸軍のおかげで広く日本人一般の間に普及した、というのが私の見解です。 問題は、この体制は、軍事においては使い物にならないことです。≪(コラム#3065。太田)
 
 トップダウン型の海軍より、ボトムアップ型の陸軍は軍事組織の体をなしてなかったということですね。
<太田>
 そういうことです。
 コラム#2034もご覧下さい。
<親衛隊員>
 Nelson様へ。
 海軍に比して陸軍のイメージは悪いですね。戦争を扱った映画やドラマで軍人の悪役といえば陸軍軍人です。私の知る限り海軍軍人の悪役は知りません。戦後の日本人は知らず知らずのうちに洗脳されてるようですね。陸軍憲兵の悪いイメージが残ってるんでしょうか。
 旧陸軍に問題があったのは事実ですが、海軍も相当「問題あり」の組織ですよ(司馬遼太郎氏は海軍を賞賛してましたけど)。海軍の問題点を指摘した書籍がいくつか出てますので参考になさってください。→「太平洋に消えた勝機」「帝国海軍が日本を破滅させた 上・下」(光文社刊)、「帝国海軍失敗の研究」(芙蓉書房刊) 
         
<ドイツゲーマー>
≫終わりません。 例えば英国の場合、女王はsovereignであり、国民は女王のsubjectですが、女王は無答責であること(典拠省略)を思い出して下さい。≪(コラム#3065。太田)
なるほど。次の条文が根拠になっているようですね。
「大日本帝国憲法第3条…(中略)…大日本帝国憲法第3条は、大日本帝国憲法第1章にある。字面から天皇の神格化について記したものと誤解されがちだが、実際には天皇が国事行為について責任を問われないことを規定したものである。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%B8%9D%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95%E7%AC%AC3%E6%9D%A1
ただ、それが世間(世界)で通用するかどうかは微妙なようですが…
「戦争責任を追及しない立場の主張
大日本帝国憲法では、天皇には、拒否権のみが存在し、実際の意思決定や政策立案は内閣と帝国議会によって行われいたとする意見がある。また当時の大日本帝国憲法では天皇の政治的無答責が規定されているとする意見がある。しかし、「君主無答責」の規定による戦争責任からの逃避は、第一次世界大戦ではヴェルサイユ条約でドイツ皇帝が戦争責任を問われたことがあり、国際的には全肯定されていない。また東京裁判でも「君主無答責」論が公式に利用されることはなかった 。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%AD%E5%92%8C%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%81%AE%E6%88%A6%E4%BA%89%E8%B2%AC%E4%BB%BB
ここでの議論にまた触発されて、たまたま所有していた「日本憲法思想史(長尾龍一:講談社学術文庫)」をパラパラとめくっています。穂積八束、上杉慎吉、美濃部達吉、…聞いたことしかない人々の思想・相関関係がやっとわかってきました。
<michisuzu>
≫・・・私が思うには、昭和天皇には責任はありません。 が昭和天皇は責任を取ろうとされた。 (マッカーサー会見時)それまでに近衛文麿は自殺し、或いは軍の将軍達は切腹などで死にました。つまり死んでお詫びをしたのでしょうが、責任からは逃れたといえます。誰か生きてこの戦争の責任を取らなければなりません。昭和天皇は、自分で責任を取ったのです。 マッカーサーは会見時、天皇はどのみち命乞いに来たのだろう、と思いましたが、そうではなく、天皇は「このたびの政治、軍事にかかわる一切の責任は自分にある」とマックに申し入れました。・・・≪(コラム#3065。NT)
 この種の人が多いので困ります。
 情動的な問題と理論的な問題を混同するからおかしな話になるんですよね。
 昭和天皇がマッカーサーにどうゆう態度(こんなくだりは誰でも知っている逸話です)をとったかどうかと責任論とは全く関係ないのに完全に混同されてますよね。
 純粋に責任論を議論しているときに困ります。
≫ディレクター達との事前の打ち合わせで、テリー伊藤が、「どうして公務員がこんなにだらしないのか」といった質問をすると聞いたので、それに期待して収録に向かいました。 最初のうちは、なかなか発言する機会がありません。 愚にも付かない質問にちょっと答えた後、意外にも太田光がテリー伊藤がするはずだった質問をしてくれたではありませんか≪(コラム#2975。太田)
 東京の放送は制約が多すぎて駄目ですね。
 その風潮の中でこの番組はある意味、相当突出した番組(関西のたかじんの・・には及びませんが東京の放送としては限界的に突出しています)です。
 太田氏はタレントにしては相当勇気のある発言(東京のタレントでは立川談士師匠以外には)をしますが、テリーさんは最近は随分慎重になっていますからこれ以上は無理ですね。
 もともとこの番組はNTVがたかじん氏にメインキャスターを依頼した経緯がありその後若干手直しをして今の形になったと聞きました。
 朝生がつまらなくなって久しい現在この番組だけが最後の砦です。
 太田氏が今後ブレイクするにはヒールを演じきるキャラが必要ではないでしょうか?
 そこのところを私は期待します。
<太田>
 私にタレントがあるかどうかはともかくとして、私はいわゆるタレントではありませんし、タレントとしてブレイクするつもりもありません。
 私が望んでいるのは、私の主張ができるだけ多くの日本人に到達し、彼らを動かす、という意味で私がブレイクすることです。
 期待していただくのは有り難いけれど、そこのところを間違えないでね。
 最後に昨日の記事です。
 政府の支援を受けるに至った米金融界が役員達に対して巨額のボーナスを支払ったことを批判したオバマについての記事、及びこの件についての評論家達の見解のブログが、ニューヨークタイムスに掲載されていました。
http://www.nytimes.com/2009/01/30/business/30obama.html?_r=1&hp=&pagewanted=print
http://roomfordebate.blogs.nytimes.com/2009/01/29/bonuses-for-bad-performance/?hp
(どちらも1月30日アクセス。以下同じ。)
 邦画「東京ソナタ」の批評がガーディアンに載っていました。
http://www.guardian.co.uk/film/2009/jan/30/tokyo-sonata-kurosawa-kagawa-kolzumi
 中共の08宣言への署名者が、一般庶民にも広がってきたとワシントンポストの記事
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/01/28/AR2009012803886_pf.html
が報じました。
 本件は、折りを見て、改めて取り上げたいと思います。
 そうそう、本日のオフ会で話をしたことですが、ダーウィンについての記事を二つ紹介しておきます。
 世俗的で、しかも進化論という旧約聖書の記述に反する理論を打ち出したダーウィンと敬虔なキリスト教徒で科学に関心のない女性エマ(Emma)が、この違いを乗り越えて結婚したこと、そして結婚後は互いに相手の考え方を尊重しつつ分かりあおうと努力し、エマは、ダーウィンの論文や著書の批判と校正を行い、ダーウィンが進化論について語る際に慎重な言い回しをすることを忠告しダーウィンがこの忠告を受け入れる、といった関係を構築し、43年にわたって愛情溢れる夫婦生活を共にしたことを記した記事
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-heiligman29-2009jan29,0,3086214,print.story
と、ダーウィンをして進化論研究に邁進させた原動力は、(彼自身は、男性の女性に対する優位や白人の黒人に対する優位は当然視しつつも、)黒人差別を正当化してきたところの、アフリカ人奴隷と白人とは違った種(species)に属するという「理論」へのへの怒りであり、彼は、アフリカ人奴隷も、白人たる奴隷所有者と、同じ祖先から発していることを示したかったと記した記事
http://www.guardian.co.uk/books/2009/jan/25/evolution-charles-darwin
(1月26日アクセス)です。