太田述正コラム#3100(2009.2.16)
<バレンタインデー抄(その3)>(2009.3.28公開)
 (5)キスの科学
 キスの科学の最新状況については、コラム#3093で英テレグラフ紙の記事を引用してご紹介したところですが、その後も報道が続いているので、改めて取り上げることにしました。
 中身に入る前に、米スレート紙とワシントンポストが、それぞれキスの写真の大特集を組んでいるので、お時間のある方は、ご覧下さい。
 なお、スレート紙は現在ワシントンポスト系列だからということなのか、写真は一部オーバーラップしています。
http://todayspictures.slate.com/20090213/
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/gallery/2009/02/13/GA2009021303312.html?hpid=artslot
 まず、基礎的事実からです。
 「・・・<実は>キスの科学を現す言葉が存在し、フィレマトロジー(philematology)という。・・・
 何世紀にもわたるところのキスの意義は多様だ。聖パウロは我々に「聖なるキスで他人に挨拶せよ」と教えた。このキスは増殖を続けた。・・・中世の中頃までには「聖なるキス」は、洗礼、叙任、司教の就任、戴冠式、懺悔者への赦し、そして結婚式において与えられ、または交換されるに至った。
 宗教改革の時代には、プロテスタント達はこういった公的キスの全てが邪なものであると主張した。
 にもかかわらず、400年前のイギリスでは愛情の公的表現は我々の現在の基準に照らしても大胆なものだった。<当時イギリスを>訪問した外国人達は、家庭の女性達が、見ず知らずの人に対し口にキスをして挨拶する姿を記している。
 ところが今日においては、<イギリスの>いくつかの場所では、カネを払ってもキスをしてもらえない。一般的に言って、売春婦達は、それが愛情と親しさを含意していることから、とりわけキスを行うことに消極的だ。・・・
 <ちなみに、>男性と女性を問わず、全人類の約3分の2がキスをする際、彼らの頭を右に傾ける。左利きだろうが右利きだろうが関係ない。・・・
 ギャラップの調査によれば、「キスは女性にとっては非常に強力な効力があり、彼女達はそれを否定するが、一度キスが始まると、キスにのめり込んでしまう・・」・・・
 良いキスとは舌の接触、唾液の交換とうめき声を伴うものであるとするのは、女性より男性に多い。・・・
 キスによって生じるホルモンと神経伝達物資のシャワーには、(心拍数を増加させる)アドレナリン、(幸福感をもたらす)エンドルフィン、(愛情を育む)オキシトチン、(雰囲気を盛り上げる)セロトニン、(脳が感情を処理することを助ける)ドーパミンが含まれている。
 この結果心拍数は増加し、血管は拡張し、体は酸素をより多く受け入れ、体のすべての部位が影響される。耳たぶも膨張する。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/02/13/AR2009021303465_pf.html
(2月15日アクセス。以下同じ)
 「・・・人間社会の90%以上でキスが行われている」とニュージャージー州にある米ラトガース大学の人類学者のヘレン・フィッシャー(Helen Fisher)は・・・述べた。・・・
 ある研究によれば、女性の66%、男性の59%が、相手との最初のキスで関係が壊れた経験があることが分かった。まさに死のキスとでも言おうか。・・・」
 そろそろ「科学」に入りましょうか。
 
 「・・・フィッシャー博士は、キスが行われるようになったのは、潜在的な番の相手を「審査する(screening)」メカニズムとしてであって、彼女は、番と生殖のための三つの主要脳系と彼女が叙述したところのものを刺激するのがキスの目的であると信じている。
 このうち第一のメカニズムは性衝動だ。・・・
 彼女は、男性の嗅覚はにぶく、口を開けてキスをすることにより、「彼らは女性のオストロゲン(oestrogen)系の痕跡を拾い上げ、彼女の生殖能力いかんを見極めようとしているのかもしれない」という。
 第二のメカニズムは、恋愛(romantic love)だ。
 「キスは、少なくとも男女関係の初めにおいては目新しいものであって、目新しいが故にドーパミンを分泌させる。このことが恋愛を起こす」とフィッシャー博士は言う。
 第三のメカニズムだが、キスは、彼女が言うところの、「愛情(attachment)」ないし「番関係成立(pair bonding)」を増進させる。・・・
 米ラファイエット単科大学の神経科学者のウェンディ・ヒル(Wendy Hill)博士は、 <実験で男女に15分間キスをさせ、>「その後で彼らの唾液中のコルチゾル・・ストレスホルモン・・の量を調べた。
 キスをした集団では全員この分量は減少した。・・・」
 <また、>信頼感と性的緊密性を起こさせる伝達分子、オキシトチン・・・は男性においては増加した。
 しかし、女性では、オキシトチンが減少した事例すら観察された。
 <これは、実験場所が大学の健康センターという、学生が病気の時に行く所であったことから、女性はロマンティックな気持ちになれなかった可能性がある。>
 フィッシャー博士は、同じ実験を「もっとロマンティックなセッティングで」再度行いつつある。
 「二人きりの、ソファー、花、蝋燭、そして軽いジャズのCDがかけられている部屋でね」と。
 面白いことに、妊娠抑制ピルを服用している女性は、キスが始まる前から顕著に高いオキシトチンの分量を示した。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7890517.stm
 「・・・ヘレン・フィッシャー<は、「キス>は基本的に番の相手を評価する道具なのだ。大脳皮質(cortex)の多くが唇、頬、舌、そして鼻の周辺的から感覚を拾い上げることに専念する。また、12の頭蓋神経(cranial nerves)のうち5つが口の周辺からデータを拾い上げる」と語る。・・・
 例えば、女性は男性の免疫系諸タンパク質が彼女のそれらとは異なっているかどうかを感知することができ、<そのような男性と番うことで、>健康な子孫が生まれる確率を増大させる。
 「女性は、抗体系(histocompatibility system)が似通っている男性より、異なった男性にはるかに惹かれることは明白だ。彼女達はそれを臭いで、あるいはキスを通じて察知する。」・・・
 <しかし、これほどキスには意義があるというのに、最近の>ギャラップ世論調査によれば、男性の52.9%、そして女性でさえ、その14.6%が、キスなんてすっとばしてセックスに向かってまっしぐらでもよいと考えるようになっている。・・・」
 (以上、ワシントンポスト上掲による。)
→皆さん、恋しそうになったら、まずはその相手とフレンチキッスを試みましょう!(太田)
(完)