太田述正コラム#14768(2025.2.16)
<橋爪大三郎・峯村健司『あぶない中国共産党』を読む(その4)>(2025.5.14公開)

 「それでも、インテリジェンスを含めた安全保障を同盟国であるアメリカに頼って、日本はこれまで何とかしのいできました。
 しかし、中国をはじめ新興国が発展するにつれ、アメリカの国力は相対的に低下し、その覇権が揺るぎ始めている。
 一方的にアメリカに頼るだけの関係から、日本も対等な同盟国になる必要が出てきました。
 その最初のステップとして、対中インテリジェンスの強化が日本にとって不可欠だと考えます。
 軍事面で日本はアメリカを頼りにするけれど、中国のインテリジェンスについてはアメリカに提供する、という関係を目指すべきだと思います。
 そのためには、日本にしっかりとした対外情報機関を新設すべきです。・・・

⇒集団的自衛権行使を全面解禁する政府憲法解釈変更も併せ提起しないのでは、片手落ちもいいところです。(太田)

 中国共産党は、資本も労働力も、経済<も>すべてコントロールしている。
 単に官僚が・・・清朝までの・・・伝統中国の官僚制<同様に>・・・私腹を肥やすだけではない。
 こんな体制は、歴史上、世界のどこにも存在したことはありません。
 近代社会は、中国共産党みたいなものが存在できないようになっていたはずなんです。・・・

⇒ありうべからざるトンデモ認識です。
 ソ連共産党下のロシアや第二次世界大戦後の東欧の共産圏諸国はことごとく政治/経済統制国家であった(典拠省略)し、ナチスドイツは、戦争に乗出す前から政治/経済統制国家でした
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%81%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88
し、第一次世界大戦下においても相当程度そうでしたが、第二次世界大戦下においては、あらゆる参戦国は政治/経済統制国家化していた、
https://en.wikipedia.org/wiki/War_economy
https://www.cambridge.org/core/books/abs/cambridge-economic-history-of-modern-britain/wartime-economy-19391945/EE6D43226D81964D488D6EB987E47452
というのが第一点です。
 第二点は、(ほぼ全員が阿Q的であったところのかつての支那においては、官僚だけでなく、民間人も「私腹を肥やす」ことに汲々としていた点はさておき、)「中国共産党の習近平指導部<が、>2012年11月の発足後、・・・反腐敗に名を借りた政敵排除の権力闘争の側面も強い<とはいえ、>・・・反腐敗闘争を掲げて汚職撲滅を開始<し、> 「トラもハエも全てたたく」との表現で、高級幹部から地方の役人まで地位を問わずに腐敗を取り締まると宣言し、習氏の腹心、王岐山<(おう・きざん)>・党中央規律検査委員会書記が元最高指導部メンバーらの摘発を指揮し・・・、党への信頼回復を目指<してきた>」
https://kotobank.jp/word/%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3%E6%B0%8F%E3%81%AE%E8%85%90%E6%95%97%E6%92%B2%E6%BB%85-319360
ことに対し、冷笑的に過ぎる、のではないでしょうか。(太田)

 呉国光<(注1)>先生が著した『権力の劇場』(加茂具樹(ともき)訳、中央公論新社)・・・を私なりに要約すると・・・中国共産党は権力の正統性が乏しいがゆえに、その赤字を何とか埋めるために借り物の民主主義を用いており、そのツールが「中国共産党大会」だという・・・の・・・です。」(23~24、26)

 (注1)Guoguang Wu(1957年~)。「山東省生まれ。北京大卒、89年の天安門事件直前に渡米し、ハーヴァード、コロンビア、プリンストン各大学に留学し、修士、博士業を取得し、香港中文大教授を経て、2004年からカナダ・ヴィクトリア大教授、2022年から米スタンフォード大教授。
https://www.jfir.or.jp/23public/0414_profile.pdf

⇒呉も米(や加)に過剰適応しているのでしょうが、民主主義の究極の形が直接民主主義であるところ、英国は議会主権、米国は三権分立・・それに加えて建国当初は大統領も選挙人による間接選挙だった・・(典拠省略)、といった具合に直接民主主義では全くないことからも分かるように、民主主義を標榜しつついかに民主主義を機能させないかに腐心しているのであって、中共は、民主主義を標榜していないだけ正直だと言わなければならないのです。
 問題は、中共当局が人民に支持されているか、ですが、圧倒的と言える支持を得ていることは明らかでしょう。
 例えば、「南カリフォルニア大学の調査は、・・・特別な世論調査方法<・・具体的に検証すべきだがその労を惜しんだ(太田)・・>を用いたものです<が、>2020年<において>、中国人の約50~70%が共産党を支持し、65~70%が習近平を支持して<いる>」
https://deepredrose.hatenablog.com/entry/2024/01/24/120000
ところですからね。(太田)

(続く)