太田述正コラム#14818(2025.3.13)
<映画評論285:王朝の陰謀 武則天殺人事件>(2025.6.8公開)

1 始めに

 今回の、(原題:狄仁杰之天神下凡)は、2019年の中共映画で、「武則天の誕生祝いの宴に五爪の金龍と三眼神将が現れ、10日以内に退位しなければ災いが起こると告げられる。武則天は越州城にこもっていた狄仁傑を呼び寄せ、事件解決を下命。」という代物です。
https://filmarks.com/movies/99108
 この際、この映画評を簡単にまず行った上で、中共における、武則天に係る映画や/TVシリーズの中での、この映画、と、かねてより連載中の「武則天」TVシリーズ、の位置づけを考察してみることにした。

2 過去の武則天映画

 武則天の漢語ウィキペディアには、武則天ものの中共映画として、下掲の5本が挙げられているところ、古い1963年のものは取り上げないことにするが、それ以外は全て武則天時代の判事ディー(狄仁杰)ものであり、今回のは出て来ないけれど、その後の、5作目であると思われる。↓

 武則天(1963年)、狄仁傑之通天帝國(2010年)、狄仁杰之神都龙王(2013年)、狄仁傑之四大天王(2018年)、狄仁杰之夺命天眼(2019年)
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E5%89%87%E5%A4%A9_(%E5%BD%B1%E8%A6%96%E4%BD%9C%E5%93%81)

 実は、判事ディーものは、2002年からTVシリーズとして始まっているものだ。
 护国良相狄仁杰(2002年)、神探狄仁杰(2004年)、狄仁杰前传(2010年)、少年神探狄仁傑(2014年)、神探狄仁杰4(2017年)、通天狄仁杰(2017年)、大唐狄公案(2024年)、と。
 全ては、今回のと同様、武則天はか弱き女帝であって、彼女を悩ませる難事件を判事ディーが解決していく、という、武則天が刺身のツマ的な位置づけの、しかも、バカバカしい内容なのであろうと推察される。
 但し、狄仁杰(Di Renji。630~700年)は、実在の人物であり、科挙に合格し、判事補佐を経て丞相を2度も務めているところ、
https://wapbaike.baidu.com/item/%E7%8B%84%E4%BB%81%E6%9D%B0/34
今回ので彼を演じる李晟荣(Shengrong Li)は、支那大陸出身で私が初めて目にしたところの、いかにも役者らしいイケメンだ。
https://baike.baidu.com/item/%E6%9D%8E%E6%99%9F%E8%8D%A3/58003850

3 過去の武則天TVシリーズ

 他方、太田コラムで映画評連載中の『武則天』シリーズ、を含むところの、TVシリーズの方だが、数が多いので武則天の邦語ウィキペディアで紹介されているものだけに限って、それぞれに一瞥をくれると、次のようになる。
 『則天武后』(原題「武則天」、1995年)はパスすることにするが、「至尊紅顔」(2003年)は、武則天を悪女として描いている。
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E5%88%99%E5%A4%A9_(1995%E5%B9%B4%E7%94%B5%E8%A7%86%E5%89%A7)
 『武則天 秘史』(原題「武則天秘史」、2011年)は、全く史実から離れた娯楽巨編に堕してしまっている。↓
 ’the fragrant plot, a large number of exaggerated interpretations that do not conform to historical facts, and the super straightforward ending song have made the audience criticized, and director Chengfeng admitted that many “thunder points” were deliberately designed by the producers, hoping to attract ratings through netizens’ doubts’
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E5%88%99%E5%A4%A9%E7%A7%98%E5%8F%B2 >
 『則天武后〜美しき謀りの妃〜』(原題「唐宮美人天下」、2011年)は、高宗期だけの武則天を描いている↓
 ’which is set in the Tang Gaozong period and tells the story of Wu Zetian in h<er> youth while solving a series of suspenseful events, and eliminating dissidents and stabilizing power with Gaozong’
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%94%90%E5%AE%AE%E7%BE%8E%E4%BA%BA%E5%A4%A9%E4%B8%8B 
ので、コメントはしない。
 『二人の王女』(原題「太平公主秘史」、2012年)でも、武則天を悪女として描いている。
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E5%85%AC%E4%B8%BB%E7%A7%98%E5%8F%B2
 『謀りの後宮』(原題「唐宮燕」、2013年)でも、同様だ。
https://www.163.com/ent/article/97UHN7R600034R94.html

3 「武則天」TVシリーズの特異性

 『武則天 -The Empress-』(原題「武媚娘傳奇」、201[4]年)演:ファン・ビンビン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E5%89%87%E5%A4%A9
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E5%89%87%E5%A4%A9_(%E5%BD%B1%E8%A6%96%E4%BD%9C%E5%93%81) ([]内)
は、武則天を闇落ちして行くところの、本来は人間主義者たる善人と描いていること、かつ、ざっと調べた限りでは、総上映時間で、武則天に係るこれまでの全映画/TVシリーズ中の最長編であること、から、その特異性が際立っている、と言えそうだ。
 放映年の2014年というのは、習近平が2012年に中共党軍事委主席兼中共党総書記になり実質中共トップに、そして、2013年に中共国家主席兼ねる国軍事委主席になり形式的にも中共トップになった
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3
ことを踏まえれば、彼が実質トップになった直後に企画され、形式的にもトップになった年に制作が始まった勘定であって、あえて、大胆に推測すれば、それは、習近平の実質天皇化、と、それにともなうところの、その地位の、彼の妻彭麗媛、ひいては、彼の一人娘の習明沢への承継を、将来、果すためのアドバルーンであり地ならしだったのではなかろうか。