太田述正コラム#15044(2025.7.3)
<渡辺信一郎『中華の成立–唐代まで』を読む(その61)>(2025.9.28公開)

 「・・・華北統一<をした>・・・北魏<の>・・・第6代孝文帝拓跋宏<(注72)>(在位471~499)は、473年、全領域内の戸口調査を実施し、戸籍を整備して租税徭役の安定的な調達をはかるとともに、漢人州部民からも1割の成人男子を徴発して従軍させた。
 (注72)467~499年。「孝文帝は第5代皇帝献文帝の長男に当たる。471年、父の献文帝がその嫡母<(義母)>に当たる馮太后(文明皇后)と対立し、これに敗れて馮太后から譲位を迫られたため、父に代わって即位することとなった。なお、北魏では外戚の専横を避けるために、皇太子を立てた場合、その生母が殺されることが常であったため(子貴母死)、孝文帝の生母である李氏も、469年に自殺させられており、太后と献文帝の対立の直接の原因となっている。なお、レビラト婚により、孝文帝の実母が馮太后であるという説が当時から存在している。
 馮太后は献文帝の治世時から実権を掌握し、垂簾政治を布いていたが、献文帝を退けて孝文帝を即位させた時は、孝文帝はまだ5歳という幼児であり、引き続いて垂簾を布いた。これは太后の死まで続く。馮太后は政治的な手腕は一流であり、反乱を治め、班禄制や三長制や均田制などの諸改革を実施し、また中央財政(公調)と地方財政(調外)を分離するなど、北魏の中央集権化に務めるなど数々の治績を挙げた。・・・
 <その後の>孝文帝による親政<は、>・・・基本的に馮太后の路線を引き継ぎ、中央集権と漢化を目指すものであ<った>。・・・
 漢化政策を孝文帝が推進した理由について、従来は粗野な騎馬民族が漢民族の文明に憧れ、文明化を推進したと理解されてきた。しかしながら、近年の歴史学では必ずしもそうではなく、当時の北中国の社会や北魏王朝にとって必要なのが漢化だったという説も登場している。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%9D%E6%96%87%E5%B8%9D
 馮太后(ふうたいごう。442~490年)。「父の家系は五胡十六国時代から南北朝時代初期にかけて遼東を支配した北燕の皇族であるが、この北燕は北魏により滅ぼされ、馮朗は北魏に降って重用されていた。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E6%88%90%E6%96%87%E6%98%8E%E7%9A%87%E5%90%8E

485年の給田制(「均田制」)および486年の三長制<(注73)>の施行は、これを一層展開した政策である。

 (注73)「5家を隣、5隣を里、5里を党として、それぞれに長(隣長、里長、党長の三長)をおき、彼らが戸籍の作成、租税の徴収に当たった。長には免役の特権が与えられた(隣長は1丁、里長は2丁・党長は3丁)。この村落制度を前提として、均田制、均賦制、三五発卒(十五丁一番兵方式)などの諸制度が実施された。その後の王朝にも三長制は引き継がれた。・・・
 従来の権益を守ろうとする漢人豪族側の立場に<対し、>・・・鮮卑内部の格差拡大が軍事力低下につながることに危機感を抱く鮮卑支配層の立場に立った<政策である>と考えられている。・・・
 郷村から徴発した兵士は、主として淮水流域の南朝との辺境に配備された。・・・
 <また、>武官である督護<に>は・・・鮮卑・・・の豪族・・・大人(ベキ)・・・が任じられた<。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E9%95%B7%E5%88%B6

 ・・・<それ>は、5戸ごとに一隣長を立て、5隣(25戸)ごとに1里長を立て、5里(125戸)ごとに1党長を立て、帳簿上の郷村を隣-里-党の3階層に組織する。
 三長は、給田と租税・徭役収取の責任を負った。
 さらに三長制には、15丁ごとに1人の当番兵を順次供出し、のこる14丁が資助として各おの絹1匹を当番兵に供与する35発卒(15丁1番兵)方式を組み込んだ。
 これにより1党5里から毎年5人の当番兵を順次徴発する制度が確立した。
 郷村から徴発した兵士は、主として淮水流域の南朝との辺境に配備された。
 35発卒方式は、村落組織と不可分の兵役徴発方式となり、庶民百姓が兵役を担当する商鞅の「耕戦の士」を再構築することとなった。」(170~171)

⇒孝文帝による漢化政策は、一見、軍事軽視/緩治、を伴っていなかったかのように見えるけれど、軍事指揮官・将校が(公的軍事教育訓練抜きの)鮮卑で占められ、しかも、軍事力の整備・維持が、もっぱら、南朝向けのものであったことから、北朝による南朝の併合、天下再統一、がなった暁における軍事軽視/緩治が「約束」されていたと言っていいでしょう。(太田)

(続く)