太田述正コラム#15052(2025.7.7)
<渡辺信一郎『中華の成立–唐代まで』を読む(その65)>(2025.10.2公開)
後期府兵制<:>
西魏から禅譲を受け<て北朝を統一し>た北周、更に北周から禅譲を受けた隋文帝(楊堅)の時に制度を大きく改定した。
まず二十四軍と禁軍(近衛軍)を統合し、十二衛を立てて首都の防衛に当たらせた。一方で陳との前線を中心に総管府を起き、その下に2つの軍府(驃騎将軍府と車騎将軍府)を置いた。軍府に所属する軍戸がその兵力となったと思われる。陳を征服した後の590年に軍戸籍を廃止して兵士たちも州県の一般戸籍に編入させ[、一般農民の壮丁を簡点して府兵とした。(上掲)]さらに中央集権のために地方の軍府を削減し、都長安がある関中に軍府を増設した。煬帝が立つと軍府を統括する総管府を廃止、軍府の名前を鷹揚府(ようよう)と改めた。また煬帝の時から府兵が辺境防衛にも当てられるようになっており、唐代府兵制の原型は煬帝の時に完成したと言える。
隋末唐初には府兵制は一旦崩壊するが、636年に各地に折衝府が設置されて府兵制が再び実施された。
府兵の軍役の内容は、京師の番上(衛士)<、>国境警備に3年(防人)<、>州県への番上<、>農閑期の訓練<、>がある。
京師には十二衛府六率府があり、ここに務める府兵を衛士といった。十二衛(左右衛・左右驍衛・左右威衛・左右両軍衛)には各4~50の折衝府を管理し、皇帝の儀仗や宿衛、皇族や各官庁の警護にあたった。六率府(左右衛率府・左右司禦率府・左右清道率府)には各3~6の折衝府を管理し、皇太子の宿衛儀仗にあたった。京師から500里以内にある折衝府の府兵は5ヶ月に1回、京師に1ヶ月番上する(500里以上なら7ヶ月、1000里以上なら8ヶ月、2000里以上なら1年半に1回で、2000里以上の場合は番上の期間が2ヶ月になった)。
辺境には鎮や戍という防衛組織があり、ここに務める府兵を防人といった。その生涯のうちに一度、3年間を防人として努めなければならなかった。また京師の番上や国境警備に出ていない場合に州県へと番上して警備や様々な色役を行った。またそれ以外の時に年三度の訓練を行った。
なお衛士・防人共に武器・防具及び駐在中の食料などは全て府兵自身の負担であった。
折衝府は全国に約600が存在しており、そのうちの400程が長安・洛陽周辺に集中していた。所属する兵員によって上中下があり、元は上が1000・中が800・下が600であったが、後の武則天の時に増員されて上が1200・中が1000・下が800となっている。600×1000=60万が唐の常備兵力ということになる。
60万の内、10万が京師番上・10万が国境警備に使われており、遠征等に動かせる兵力は40万以下であった。国外遠征などにより兵が必要な場合は臨時の徴兵が行われる。これは兵募と呼ばれるが強制的なもので、折衝府がある無しに関係なく行われた。ただし府兵が全て自弁であったのに対して、兵募の諸物資は官給であった。
[府兵ないし府兵制の歴史的性格については諸説があり,制度の起源について鮮卑兵制説と<支那>兵制説がある。府兵は本来国家の招募に応じた者で,勲功によって将官に昇る道が開かれていた。北周の武帝以来,府兵は侍官の称号を与えられ,天子を侍衛する名誉ある軍士とみなされていた。西魏以来の実力者,君主は府兵軍の総帥として政権を掌握し,<支那>再統一の道を進んだ。唐代になると,制度が固定化して生きた性質を失い,昇進の道が閉ざされた。帝国の拡大と辺境情勢の重大化は,その負担を過重ならしめ,これに均田体制の崩壊が加わって逃亡あいつぎ,玄宗の天宝時代(742-755)になると折衝府は実人員を有しなくなった。(上掲)]」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%9C%E5%85%B5%E5%88%B6
⇒唐初期の軍制を見ると、府兵制なるものは、基本的に首都圏だけにプロの世襲制の将兵を配置するものであったことが分かる。
これは、地方を非軍備状況に置くことで、叛乱生起可能性を低くするためだったに違いない。
困るのは、兵戸制からしてそう
https://kotobank.jp/word/%E5%85%B5%E6%88%B8%E5%88%B6-1410663
なのだが、一体、府兵制対象戸ないし対象男(や女)、の、全ての税が免除になったのか、可耕地(田畑)税はとられたのか、等が、ネット上をざっと調べた範囲では不明なことだ。
また、唐の玄宗期には府兵制が崩壊するわけだが、その理由が書いてはあるものの、全く説得力がない。
私の取り敢えずの仮説は、関隴集団(武川鎮軍閥)が時代を経るに従い、生活様式も意識も漢人文明化したことにより、彼らの府兵を率いる将軍・将校としての能力が低下してしまったからだ、というものだが・・。(太田)
(続く)