太田述正コラム#15218（2025.9.28）
＜岡本隆司『中国」の形成』を読む（その１）＞（2025.12.23公開）

１　始めに

　今回は、シリーズ 中国の歴史の５番目、最終巻、を読むことにします。
　なお、岡本隆司（たかし。1965年～）は、神戸大文卒、京大院博士課程満期退学、同大博士（文学）、宮崎大講師、助教授、京都府立大（文）助教授、准教授、教授、早大教育・総合科学学術院教授。大平正芳記念賞、サントリー学芸賞（政治・経済部門）、アジア・太平洋賞特別賞、樫山純三賞受賞、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A1%E6%9C%AC%E9%9A%86%E5%8F%B8
という人物であり、樫山純三賞は、まさに、この本に対して授与されたものだ。
　ちなみに、樫山純三賞は、「オンワード樫山の創業者＜で＞、競走馬の馬主としても知られ＜た、＞・・・樫山純三＜によって、＞樫山奨学財団30周年記念事業の一環として創設された学術賞＜で、＞国際的視野に立った社会科学（政治、経済、社会など）の分野の現代アジア研究における独創的で優れた業績の著者へ授賞＜するものであり、＞推薦ならびに自著の応募によ＜り、＞候補者の国籍や年齢は問わ＜ず、＞原則として毎年学術書１件、一般書１件の計２件（第５回までは学術書２件）とし、１件につき賞状および副賞（賞金100万円）を贈呈する＜と共に＞、オンワードホールディングスよりオンワード賞（高級スーツ）が贈呈される」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%AB%E5%B1%B1%E7%B4%94%E4%B8%89
ものである由。

２　『中国」の形成』を読む

　「・・・「財政＝軍事国家（fiscal-military state＜（注1）＞）」とは、国家が税収・公債で効率的に集めた巨大な財源を持って、その資金を効果的に火器・海軍をはじめとする軍事力の革新増強に投入し、それを通じて世界中を収奪することで、いよいよ富強を増すシステムである。

　（注1）’A fiscal-military state is a state that bases its economic model on the sustainment of its armed forces, usually in times of prolonged or severe conflict. Characteristically, fiscal-military states will subject citizens to high taxation for this purpose.
　In the past, states such as Spain, the Netherlands and Sweden, which were embroiled in long-lasting periods of war for local or global hegemony, were organized as fiscal-military states. The British East India Company also employed military fiscalism in maintenance of rule in India during the mid-18th century. Colonial powers generated their revenue for the maintenance of the army. Currently, few states could be described as fiscal-military states, probably because of the decline of large-scale international conflicts in recent times.[citation needed]
　In British history the concept was popularised by John Brewer’s study of eighteenth-century Britain as a “fiscal-military” polity. Earlier eighteenth-century narratives already compiled fiscal and military data; for example, James Ralph’s The History of England, During the Reigns of King William, Queen Anne, and King George I (1744–46) appended customs and excise series, national-debt tables, and army/militia returns.’
https://en.wikipedia.org/wiki/Fiscal-military_state

⇒fiscal-military stateの英語ウィキペディアからの、引用第二段落と引用第三段落との間に齟齬があるのはご愛敬です。
　一体、英国に関しては、fiscal-military stateだったのは、東インド会社、なのか、英国そのもの、なのか、どちらなのでしょうね？
　私見を申し上げれば、地理的意味での欧州の中世に生まれた、三つの文明であるところの、アングロサクソン文明、プロト欧州文明・・後に欧州文明になる・・、そして、ロシア亜文明、の全てがfiscal-military stateだったのであり、支那の漢人文明諸王朝がそうではなく、緩治・軍事軽視王朝（帝国）であったことと好対照なのです。（太田）

　こうした軍事・財政の革命は、まさしく「危機」に直面し、それを克服する中で生まれてきた。
　そしてそのシステムを基盤に、イギリスは産業革命をなしとげ、19世紀の世界を制覇する。」（vii）

⇒ですから、「危機」に直面したかしなかったか、自ら「危機」を掻き立てようとしたかしなかったか、など、を問わず、この三文明は、それぞれ、最初から、革命などとは無縁の一貫性を持って、意識的ないし無意識的に世界の制覇を目指していた、ということになるのです。（太田）

（続く）